この先
「勝者 アルフレッド・クランフィルド!」
「そんなバカな!何か不正をしたに違いない!僕が、この僕が負けるはずないんだ!」
そういうと、サードギルと名乗る輩は、退場し華たちのもとへ戻る俺にもう一度切りかかってきた。
俺はとっさに身をかわし、相手の剣を素手で払いのけ、その勢いで腹に蹴りを入れた。
見事に入ったであろう俺の右足はクロスとやらの肋骨に悲鳴をあげさせながら壁まで蹴飛ばした。
壁に衝突するだけで済ませたし、破損させないように調整しておいてよかったな。
「グッ……カハッ……」
「ちょ、やりすぎじゃない?凜」
「え、結構調整したつもりだったんだけど……。おーい、生きてるかー?」
「まぁ自業自得でしょ。死んでも責任はとらないって言ってたし」
「それはそうだけど、なんか嫌だしな……、まぁほっとくか」
「それもそうだね。仕方ないし、あのままだと華にもあたるところだったし。ほら、行こう?凜」
「お、おう」
いきなり静かになった会場を後に、俺たちは少し外の空気を吸いに行った。、
夜。時間帯的には7,8時くらいだろ。月がきれいに見えるし、星も見える。月明りのせいでパラパラとしか見えないけれど、それでも前世の街よりは綺麗な景色がいっぱい見れる。神が俺たちを転生させてくれて良かった。この世界で、ホントに見たことないものをいっぱい見れたから。
「凛、どうしたの?すごい遠い目をしてるけど」
「ん?大丈夫だよ。俺たちはもう前の世界には戻れないけど、こっちで長い時間生きていくんだと思う。それで、少し思ったんだ。俺たちの寿命がどれだけ続くのか」
「あ〜、確かに。私と亮は人間だけど、凜は吸血鬼だもんね」
「そーだね~。僕や華の寿命は100年そこらだけど凜は少なくとも1000年は生きるもんね」
「あぁ。だからどうしたもんかなって」
人間の命は短いし人間関係にもいつか終わりが来る。ただ長命種の俺はこの先死ぬことはない。
父さんは4000年生きているし、母さんだってもう200年は生きているらしい。
まぁ、言わずもがな俺は華と亮の死を見届けなきゃいけないわけだ。この上なく嫌なことだけどな。
「でもさー、それって今考えてもしょうがなくない?華も凜も、僕だっていつかは死ぬってことはわかってる。それに、前世だったらこんなこと考えないで生きてたんだし。だからさ、今は今の事を考えようよ!僕や華が死にそうになったら、華を助けたみたいに凜が僕らを助けてくれればいいんじゃない?」
「なんつー暴論だよ」
「でも、それでいい気がするわ。せっかくの異世界なのに、2周目の人生を楽しまないわけにはいかない
じゃない?」
「まるでバカンス気分だな」
「いいじゃんそれで。あとのことはあとで考えればいいと思うわけ。前の世界じゃ進路やらなんやらでしっかり計画を立てなきゃいけなかったけど、こっちじゃそんなのあってもしょうがないし」
「そうだね。僕もそう思う。だからさ、凜。そんな心配しなくていいよ。今を大切に生きよ?
僕らはまだ、若いんだから」
「……あぁ、そうだな。寿命が付きそうになったら俺が二人を吸血鬼にすればいいだけだもんな」
「ひえぇっ!こわ!」
「私はいつでも噛みつかれるのを待ってるわよ?何ならそのままベッドに……」
「はいすとーっぷ。一旦部屋に戻ろうか。舞踏会で疲れたし」
「結局踊ることもできなかったけど?」
「僕と踊る約束はどこに行ったのかな?凜君?」
「あ、あははは……。逃げろっ!」
「あ!待ちなさい!踊るまで寝かせないわよ!」
「僕と踊るまでは許さないからね!」
そうして、俺はそのまま部屋に向かった。
どうやら俺は考えすぎていたらしい。二人のことも、将来のことも。俺が考えている以上に二人は
死ぬことを恐れていなかった。なんか、恥ずかしいな。やっぱり寿命が延びると死ぬのって怖くなるんだろうか。……まぁそんなの何でもいいか。「今を大切に」か。
「ほんと、その通りだな」
今日はもう疲れたし、部屋に戻ったら寝よう。




