16)人魚姫は、黙れない
「アリア、君と話したいことがある」
セオドア様は、私を海の上までエスコートして船に乗せた。
空はもうすっかり暗くなり、星が輝いている。
「アリー、俺が小さい頃、君が助けてくれたと話しただろう。あの時君は、俺の心も救ってくれたんだ。俺は君に恋した。君に会いたくて泳ぎを覚え、君に会いに行くために船の操縦を覚えた。君に再び会えて、君がやはり俺を救助対象者としか見ていないことが分かって、君を手に入れるために策をろうした。そして、」
彼は私の両手を握り、私の瞳を見詰めている。
その深い青に吸い込まれそうになりながら、彼の言葉を咀嚼する。
そして、思い出した。
「待って!貴方を連れ回したですって?もしかして貴方、コンブ巻きの迷子?」
小さな頃、海に落ちてきたキラキラ輝く男の子。
自分と同じ年頃の人間が落ちてきて、ビックリして沖まで引き上げたのだ。
話の途中で声をあげた私に目をみひらいたセオドア様は、そのまま手を額に当てがっくりと肩を落とした。
「迷子ではない。あの時は船員に海に放り込まれて、人間不信になってたんだ。コンブは、寒そうだったから君が巻いたと当時言っていた」
まあ、そんなこともあったかもしれない。
都合の悪いことは、忘れる質である。
でも覚えていることがある。
「私、あの時が初めての人間を助けたの!そうしたら、貴方は一緒に海で遊んでくれた!すごく愉しかったわ!もしかしたらまた、あの子みたいな子かもしれないと思って、今も困っているものに手を貸しているの」
そう、私が生き物を助ける理由の1番は夢見が悪くならないようにだけれど、あの最初の救助の時の楽しかった思い出が忘れられないから。
イルカのルーも、網に絡まって困っているのを助けた後に遊泳したら、気が合った。
以来、2人で愉しく過ごしている。
「2回目に会ったときに言ってくれたら良かったのに!貴方の顔で、性格さえ良ければ好きなのにってずっと思ってたのよ!」
「いや、あの時の俺は情けなくみっともなかったから…。あまり話したくなかった。忘れてくれていて良かった。しかし、先に伝えていれば、もっとスムーズに君と婚約できたのか」
セオドア様は今度は顔を両手で覆って、がっくりと肩を落とした。
その姿がおかしくて、私はケラケラと笑ってしまった。
「それで?我が人魚姫殿は、性格が良くて、顔が理想的な俺のことなら、好きになってくれたか?」
開き直ったセオドア様がいつもの不遜な笑顔で聞くので、私はにっこり笑って答えた。