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13)人魚姫は、信じられない

 北海の入り口に、立ちはだかるガッチリとした巨体。

 肌は黒く日に焼けて、表情は険しい。

 怒っている。

 玉座で待ちきれず北海の入り口まで来るほどに、怒っているの?

 私はぷるりと震えると、できるだけ無邪気に見えるように微笑んだ。


 「深く広い海を統べ、海に生きとし総てのものを慈しむ、我が最愛のお父さま、ただいま戻りました。お体に代わりはございませんか?私はいつも、お父さまを恋しく想っておりましたわ!」

 そう言って礼をすると、父は目をつむり、「うむ」と一言。

「アリー、約束の(とき)を過ぎている。一体、何をしていた」


 「あの、私、ちょっと…。そう!ちょっと、親愛なるお父さまに、お土産を…と…」

 そう言って、急いで泳ぐ途中で見つけたサンゴを、父に差し出す。

 父は眉をしかめたままそれを受け取り、睨みつけた後に、「部屋に飾っておけ」と震える手で側近に渡した。


 「城に戻る。お前も一緒に、だ」

 それだけ告げて父は、くるりと背を向けた。

 何も言えない私は、その大きな背中にしょんぼりと着いていく。

 イルカのルーが寄り添ってくれるのが、少しの救いだった。


◇ ◇ ◇


 「アリー!お帰りなさい。変わりはない?会えてとっても嬉しいわ!」

 城に入ると母が入った泡が、ふわふわと近づいてきた。

 私は母にハグをして「ただいま」と挨拶をしてから、ルーを振り返った。


 「ルー、こちらが私のお母さまよ。お母さま、こちらはルルーカ。あちらの海で出会って、気が合って、それからずっと一緒なの」

 私が紹介すると、ルーはクルリと回転してお辞儀をした。

「初めまして。ルルーカと申します。アリーとはいつも愉しくしています」

「まあ!新しいお友達ね。アリーの母のマリアンヌよ。いつも仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしくね」

 母の喜ぶ姿を見てほっとするも、どうしても父の態度を思い出して気が塞いでしまう。


 「あら、どうしたの?元気がないわね。何かあったの?」

「お父さま、お怒りよね…。先ほどもお顔をしかめて、震えていらっしゃったわ」

 そう吐露すると、母は私の手を握って、「そんなことないわ」とやんわり否定してくれた。

「お父さまは貴方に会うのを楽しみにしていたの。先ほども貴方に早く会いたくて北海の入り口まで迎えにいらっしゃったのよ」

「でも…」

「ふふ、信じられないなら、ついていらっしゃい」

 俯く私の背を軽く押し、お母さまはふよふよと父の執務室の方へ漂っていった。


◇ ◇ ◇


 執務室の前につくと母は、私とルー、そして衛兵に静かにしているようにと念を押した。

 そして執務室のドアをノックし、1人で部屋の中へ入っていった。


 「あなた、可愛いアリーには会えましたの?」

 母がさりげない様子で訪ねると、父がガタッと立ち上がった音がした。

「ああ、愛しいマリアンヌ。私たちの可愛い可愛いアリーは、更に美しくなっていたよ。私たちの真珠の愛らしい瞳は輝いていて、挨拶もまるでどこかの姫のように流麗で、立ち姿は品にあふれていた」

 お父さま、アリーは正真正銘北海王家の娘、つまり本物の姫です。

 などとツッコミを入れるよりも、その勢いにぽかんとしてしまった。

 物心ついてから今まで、父がこんなに勢いよく話しているのを見たことがない。

 私の前ではいつも顔をしかめて、「うむ」とか「そうか」とか相づちを打つ程度だったから。


 「アリーが愛する父のことを忘れるほど楽しんだ旅で、何をしてきたのか聞いたのだ。そしたらな、なんとな!私への土産を探していたというではないか!感動に震えて落とさないように、すぐにジョーに渡したが、あれはもう部屋に飾っているだろうか」

 なんと!あの質問は、「何処をほっつき歩いていた」ではなく、「旅は楽しかったようだね、一体何をしてきたんだい?」だったのか。

 すぐに側近に託したのも、喜びの震えで落として壊さないようにってこと?

 分かりづらい。

 とっても分かりづらい。


 いや、でも、じゃあ何で私は今回呼ばれたの?

 頭がごちゃごちゃしてよく分からなくなってきた。

 ただ1つ、分かったのは“私は父のことを嫌っていない”という事実(こと)だった。

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