婚約破棄されそうですが絶対に結婚していただきます
ふわあ、と私は欠伸が出そうになった。淑女として、褒められない行為だ。案の定、侍女のフィーナの眉が大きく上がった。私は慌てて咳をするふりをして誤魔化した。
「姫様、まもなく着きます。お気を緩めないで下さい」
「わかってるわ」
フィーナは私の乳母の娘であり、私にとっては姉のような存在だ。そんなことを言えば、当然フィーナは私を叱るのだが。
私たちはいま母国のグラディ公国を越え、ステラ王国を馬車で進んでいる。
私、グラディ公国第一公女ミリアムは、ステラ王国の第三王子アラム様の妻になる。両国の関係を強化するために。婚儀はもう少し先だけれども、私に遣えてくれる一部の者たちと、先にステラ王国入りをした。
私は覆いを捲り、外を見た。辺りは森と畑ばかりで、私の国とあまり変わらない光景だった。
「ねえ、フィーナ」
「はい」
フィーナは私と三つしか違わないのに、いつでもどこでも落ち着いている。ちょっと怒っているようにも見える顔で静かに控えている。長い付き合いだからわかるが、フィーナは別に怒ってなどいないのだ。
「アラム様はどんな方なのかしらね」
フィーナは考え込むように少し黙ってから、口を開いた。
「アラム様については、第三王子で、お母上が正室ではないこと、王位継承権は第五位ということしか存じ上げません」
「えっ、五位?」
フィーナからは私も知っている情報か、何もわからないという答えが返ってくるものと思っていたので予想外だった。
「アラム様は国王陛下の三番目の御子でしょう? 第三位ではなくて?」
ステラ王国は我が国と同じく直系の男子が出生順に継承権を持つはずだった。遠い異国には末子が継承する、というところもあるそうだけれども。
「いえ、第五位です。第三位と第四位はアラム様の腹違いの弟君です」
「ええと、第四王子と第五王子の方々は正室の方が母上なの?」
「第五王子はそうですが、第四王子はアラム様とは別の側室の方がお母上です」
「ど、どういうこと……?」
「さあ。私にはわかりません」
わかっていそうな平然とした態度でフィーナは言った。
馬車が止まり、フィーナが降りた。私はさっと身なりを整えて、しばらく待った。
なぜか、フィーナがなかなか戻ってこなかった。
褒められた行為ではないが、覆いを捲り、そっと外を伺う。馬車が止まっているのは、先ほどまでとあまり変わりがない森の中の風景だった。ただ、目の前に屋敷と庭園がある。庭園は、かつては見事に手入れされていたような気配はあるが、荒れ果てており、屋敷もところどころ石が崩れているところがあった。
没落貴族の家、ということを連想した。いや、ここは、アラム様が国王から賜ったという城ではなかったのか。
「姫様」
「ひゃっ!」
「……お言葉には気を付けてください」
「う、はい……」
「お降りください」
「わかったわ。け、けど、ここってどこなの……?」
「アラム様が住まわれる城です」
これ、城なのね……
私はその言葉を呑み込んだ。が、フィーナにはばれていると思う。
改めてその城を眺める。建物を囲っているのは城壁ではなく、森の木々だ。修繕が必要そうな箇所を数えていていって、途中で諦めた。
城の門ーーというか屋敷の扉は開かれていた。そこを守る兵士はいないようだ。老齢の男の召使いが私たちを迎えた。身なりが整っているから、ここを取り仕切っている者なのだろう。
「遠路はるばるようこそいらっしゃいました」
使用人は硬い表情で言った。
私たちは屋敷の中に入った。踊り場のある大きな階段が目に入る。
「まもなく我が主人が参りますゆえーー」
「ジェラルド、下がれ」
私たちの上から声が降ってきた。
刺々しい印象の若い男の声だ。加えて見たことないくらいの美男子だった。
私が見上げると、剣呑な目付きの青年は階段を降りてきた。
ジェラルドという名の召し使いは静かに下がった。
青年は私の目の前までやって来た。
「アラムだ」
その、あまりにぶっきらぼうな物言いに私は一瞬固まるが、フィーナが後ろからそっと私に手を触れたことで、我に返る。
「ミリアム・グラディアスでございます。ふつつかものではございますが、なにと」
「貴女との婚約は破棄させて貰う」
「はい?」
淑女らしからぬ声を上げた私を絶対零度の目でフィーナが見ているのを感じたが、それどころではなかった。
その後、アラム様は呆然とする私をそのままにして、城を出ていった。
それから、申し訳なさそうな顔をしたジェラルドが私たちを客間に案内した。
「こちらをお使い下さいませ。帰国なされるまでは、ご歓待させていただきます」
ジェラルドが去ると、私は寝台に倒れ込んだ。それから、ドレスがぐちゃぐちゃになるのも構わず、奇声を上げながら寝台の上を転がった。
「うそでしょおお、うそだと言ってえええ!」
「姫様、恐らく嘘ではありません」
フィーナはこんなときでも冷静だった。
「え、フィーナ知ってたの……?」
「いいえ、こちらに着いて初めて知らされました。公王陛下へ早馬で知らせを走らせました」
内心、フィーナの手際の良さに感心した。
「お父様帰るの許してくれるかしら……」
「恐らく無理かと」
「そうよねえ!」
私の結婚はやっと決まったもので、これを逃したら嫁ぎ先はなかった。お父様からはもう帰ってくるなと言われていた。
「国王陛下がお認めになったものかしら……?」
「恐らくアラム殿下の独断かと思われます」
当たり前だが、アラム様と私の婚約は国王陛下とお父様との間で為されたものだ。あのお父様でも流石に婚約破棄されているのに王国入りを止めない……はずはない。きっと。
「そうよねえ。私の持参金だって、王国入りした……わよね?」
「ええ、そう聞いています」
「……アラム様ときちんとお話しないと」
その日は、夕刻になってもアラム様は城に戻らなかった。私は旅の疲れで、早々に眠ってしまった。翌朝聞いたところによると、アラム様は昨晩遅くに帰宅し、早朝に出掛けていったとのことだった。
公国からの返答はまだ来ていない。
「城に着いたところでしょう。公王陛下のご指示が来るのは早くて明日になるかと」
フィーナの言葉に、私は朝食を取りながら唸った。フィーナが咳払いでそれを咎め、慌ててうふふと微笑んだ。食堂の隅に控えていたジェラルドは聞かなかったことにしてくれたようだ。
「あの……ジェラルド殿」
「はい」
ジェラルドは隅から動かないが、大きな声で答えた。
「アラム様はどちらに行かれたのでしょうか」
「恐らく城下に行かれたのかと。私どもにも詳しい行き先を告げずに出掛けられました」
私はふと良いことを思い付いた。
食事が終わったあと、私は質素な服に着替えると、フィーナとアラム様が治める城下町に繰り出した。
フィーナもジェラルドも渋ったが、半ば泣き落としで意見を押し通した。アラム様と結婚できなくとも、せめて夫となったかもしれない方が治める街を一目見たいと。途中からフィーナが白い目で見始めたが、気にしなかった。
そうして私はフィーナと護衛の兵士と共に街に出た。護衛の兵士は実のところ、私の御者なのだが。アラム様の城に仕える兵士は皆出払っているとのことなので。
街は思ったよりも大きかった。
「アラム様がこの辺りにいらっしゃるのは本当かしら?」
私とフィーナと護衛は城下町のとある酒場の前にいた。
アラム様は居場所を転々としているよだが、この時間はここにいることが多いという情報をいつの間にかフィーナが仕入れていた。
「姫様本当に行くのですか?」
「勿論。逃げられる前に行くわよ」
「かしこまりました」
フィーナの顔には諦めました、と書いてあった。
護衛が酒場の扉を開き、私たちは店に入った。まだ日も高いというのに、むわっとした熱気ときつい酒の匂いがした。騒音は入る前から聞こえていた。
私はずんずんと進んだ。周りの客がみな怪訝な目でこちらを見ていた。淑女としてはあるまじき振る舞いだが、そんなことは気にしていられない。
アラム様はテーブルの奥にいて、何やら人相の悪そうな連中と話し込んでいた。アラム様の後ろには武装した若い男が立っていた。アラム様の付き人のようだ。
「お話し中失礼しますわ。ご機嫌よう、アラム様」
アラム様が不審そうな顔をして、こちらを見て、ぎょっとする。
「ミリアム嬢、なぜここに」
「アラム様とゆっくりお話ししたくて。あら、ごめんあそばせ」
フィーナが手前にいた帯剣した男から椅子を奪い、私はそれに座った。文句を言おうとした男は私の護衛に引き摺られていった。
「こちらは忙しい、帰ってくれないか。第一、貴女はこのようなところにいるべきではない」
「そうは参りません。私はまだあなた様が私との婚約を破棄された理由を伺っておりません。そもそも国王陛下も破棄をお認めになったのですか?」
「……国王陛下には私から申し立てしている。まもなく正式に婚約は解消となるだろう」
「理由を教えてくださいませ」
私はアラム様だけを真っ直ぐに見て、そう言った。
アラム様はしばらく黙ってから、こう告げた。
「私が、君の伴侶になるのに相応しくないからだ」
その瞬間、私たち公国一同はみな、こう思ったはずだ。
え、そっち?
「アラム様……それは一体……」
「頭を下げて!」
私が言いかけたとき、フィーナの鋭い声が降ってきた。私はその声に大人しく従った。
それから、目の前のテーブルが真っ二つになった。
フィーナは私の首根っこを掴むと、護衛に手渡した。私は子猫ではないのに。護衛は苦笑しながら、「姫様こちらに」と私を下がらせた。
目の前ではフィーナと、何者かが戦っていた。襲撃者は黒衣で口元を布で覆っていた。襲撃者が剣をふるい、フィーナはスカートの中に隠していた短剣で応戦している。うん、あの程度の手合いなら心配ないだろう。
私は気を抜きかけて、ハッとなる。アラム様は無事かと見渡せば、付き人が彼の前で守っていた。そちらも問題なさそうだ。
一見、フィーナは防戦一方に見えるが、襲撃者の剣筋が荒くなっていくのは明らかだった。
フィーナが、襲撃者の懐に入り、一撃を入れる。血が飛び散る。フィーナは間髪入れずに襲撃者の剣を叩き落とし、彼を地に伏せさせた。
片が付いたところで、兵士たちがやって来た。付き人が手を上げると、こちらにやって来た。アラム様の手勢らしい。何やってたのかしら、この人たち、と私は思った。
「ミリアム嬢、あの侍女はなんなんだ」
こちらにやって来たアラム様がそう尋ねた。本人は兵士に襲撃者を引き渡していた。
「フィーナは、えーと、その……ご、護衛も兼ねていますの!」
私はアラム様と目を合わせないようにして、言った。フィーナの本当の仕事は、今はまだ言わない、ということになっていた。
「……女人に戦わせるのか。貴女の国は変わっているな」
「おほほほ、よ、よく言われますわ」
「陛下からはなんと」
私は渋い顔をして、お父様からの手紙をフィーナに渡す。
あのあと、私たちはアラム様の兵に強制的に城に戻されてしまった。
「捨てられても二度と戻ってくるな、ですって」
フィーナは頷き、軽く手紙に目を通してから、それを仕舞った。
「どうしたらいいの……」
「アラム様の真意を聞くしかないでしょうね」
「そ、そうよね! 私が駄目っていうことじゃないみたいですし」
「それ以前の問題のようにも思いますが」
「うう、そうね……」
私は溜め息をついて、座っていた寝台から立ち上がった。
「今日は寝ないでアラム様を待たないと! あ、そういえば、昼間の襲撃者ってどうなったの?」
「尋問されたようですが、誰が差し向けたものかわからないようです」
「そう。アラム様を狙った、でいいのよね?」
「そうですね、あのとき、アラム殿下に真っ直ぐ向かっていきましたから」
私はううんと腕を組んで唸った。
「またアラム様とのお話し中に乱入されたら面倒だから、こちらでも手を売っときましょうか」
「姫様それは出来ません」
「なんで?」
「動かせる手駒がありません」
「そうだったー! 」
その日の晩、寝そうになるのをフィーナに何度も起こされ、アラム様を待った。
やっと、戻られたアラム様を私は何とか引き留められた。アラム様の執務室に私とアラム様とフィーナはいた。
「貴女と話すことは何もない」
アラム様は不機嫌そうな顔で言った。
「私にはございます。昼間は不届き者により、お話が途中でした。婚約破棄の件、我が父からは知らせがなく、国王陛下からのお許しもない模様。到底私は納得出来ません」
国王陛下のお許し云々はフィーナが探ってくれたことだ。
アラム様は深々と溜め息をつくと、こう言った。
「私は、話は終わった認識だが」
「私は違います。婚約破棄の理由、もっと詳しくお聞かせ下さいまし。あなた様はこの国の王子。私の方が身分不相応ということなら、納得いきますが、逆は理解致しかねます」
公国は王国に比べれば小国に違いないし、歴史も浅い。
「私の母は男爵家の出身だが、側室ではなく侍女だったことは知っているか」
「え!? あ、申し訳ありません、存じませんでした……」
私は横目でフィーナを見た。絶対あなた知っていたわよね!?
「当然ながら私の王位継承権は最下位だ。それなのに貴女の持参金である公国の騎士団は、私には重すぎる」
そう、私の持参金は、公国唯一の名産品である傭兵団ーーもとい騎士団だった。お父様が傭兵だと印象が悪いと名前だけ騎士としているが、実態は雇われればどんな戦場にも行く傭兵に変わりはない。他国の傭兵に比べれば、略奪はしないし、おおよそ統率は取れているので、差別化したかったのは確かだろう。けれど、騎士ってお金のために剣を振るうものではないと思うのだけれど。
私の持参金である第三騎士団は、本拠地はステラ王国に移り、お父様の支配下からも外れるが、やることは変わりない。もともと公国騎士団でも独立した団であったし、そこまで功績も上げていない団だから、お父様も手放したのだ。
「いえ、あの、ただのならずーーじゃない田舎者の集団ですわよ、おほほ」
「貴国の騎士団は大陸最強と聞く」
他の軍とか傭兵が軟弱なだけでは?と私は内心思ったが、察したフィーナが睨んできたので黙った。
「貴女と結婚することは、私が大きな武力を手にすることになる」
「いえ、そのような……」
「私の兄弟たちには十分目障りなことなのだ。私は、これ以上王家の争いに関わりたくない!」
アラム様が声を荒げて言った。
それから、ハッとしたようにこちらを見た。
「……失礼した」
「い、いえ……」
私も一応はやんごとなき身分ではあるが、公国の王宮は平和なものだった。兄弟親戚で争うということが想像できなかった。いや、争ってはいたが、最終的に一騎打ちで決めていたので単純明快だった。
「とにかく今日は遅い。貴女はもう休まれてはーー」
アラム様が言い終わらないうちに、突然室内の灯りが全て消えた。
「え、なに!?」
「何事だ!?」
「アラム様、姫様、お下がりください」
フィーナが前に出たのがわかった。剣を引き抜く音が聞こえた。フィーナ、その剣、スカートの中に隠し持っていたのね……
そして、扉が蹴破られた。
すぐに剣戟の音が聞こえた。フィーナが応戦している。目が暗闇に慣れてきて、様子がわかってきた。襲撃者は二人いた。フィーナは二人相手に難なく応戦した。
「あの侍女は何なんだ……」
困惑を滲ませてアラム様は言った。アラム様も剣を抜き、構えていた。私はあはははと笑って誤魔化した。
そのとき、背後の窓が割れる音がした。私たちが慌てて振り返ると、窓から侵入した新手がやって来た。
窓の近くにいた私に、その者は真っ直ぐ向かってきた。あ、これはよろしくない。
私は思わず目を瞑る。
予想した衝撃がくる前に、すぐ近くで剣と剣がぶつかる鈍い音がした。慌てて目を開けると、襲撃者の剣をアラム様が受け止めていた。
「あ、アラム様……?」
アラム様は必死の形相だった。
「私を庇ってくださったのですか……?」
「貴女はさっさと下がってくれ!」
余裕なく、アラム様が叫ぶ。
殿方に、守って貰ったのは初めてだった。
「お前たちの目的は私だろう! 私以外の者に手を出すな!」
襲撃者は勿論何も答えなかった。
私はまじまじとアラム様を見つめた。動かない私に焦れたようにアラム様は叫んだ。
「早く逃げろ!」
「いえ、逃げません」
私は素早く胸元からあるものを取り出した。
「淑女たるもの、降りかかる火の粉は払うのみ」
そうして、私は襲撃者に向けてそれの引き金を引いた。
気付けば、空は白み始めていた。
私はアラム様の部屋の片隅で、椅子に座り、鼻歌を歌いながら、自分の武器の手入れをしていた。
「それは、一体何なんだ?」
アラム様の声に私は顔を上げる。アラム様は疲れ切った顔をしていた。
無理もない。あの後、フィーナと私で襲撃者全員を仕留めたあと、後始末で大忙しだったのだから。フィーナも駆り出されていた。私はすることがないので、隅で大人しくしていた。
「東方の国から取り寄せた武器ですわ。大砲の……かわいい大きさのものですわ。私剣術も槍術も弓術も苦手なので、護身用に」
「そ、そうか……」
アラム様の顔が引きつった。この武器は公国でも王国でもまだ珍しいものだけれども、そんな顔をされるほどのものかしら。
「アラム様もこちらにご興味がありますの!? よろしければ馴染みの武器商人を紹介いたしますわ!」
「結構だ……」
残念ですわ。武器商人も王国に進出したいと言っておりましたのに。恩を着せてもう一丁安く買う計画が……
「それよりもミリアム嬢」
改まったアラム様に、私は椅子から立ち上がった。
「私を守ってくれたこと、礼を言う」
「いいえ。夫となる方を守るのは当然のことです」
「いや、だから婚約は……」
「アラム様は私たちに害が及ばぬよう、婚約を破棄なさりたかったのでしょう?」
アラム様は黙り込んだ。私はじっと待った。
しばらくして、アラム様は口を開いた。
「結局、こうして貴女を危険に晒したのだから意味はなかったな」
「あのあの、私が嫌、ということではないのですよね?」
「ああ、貴女に非はない」
私は心の中で、敵将の首を片手で掲げるポーズをした。お父様がよくやっていたものだ。
「あの、アラム様にも私にも大変有益なご提案があるのですが」
アラム様は訝し気に顔を歪めたが、聞かせてくれないか、と言った。
「害の元を綺麗にすれば、アラム様のご懸念は晴れるのでしょう?」
「まあ、そう、だな……」
「でしたら、私と私の騎士団で王子の一人や二人の首取ってきますが、いかがかしら?」
「は?」
「あ、ご兄弟皆殺……皆様天に召されるよう図らう方がよろしいかしら?」
アラム様は石のように固まってしまった。
私おかしなこと言ったかしら?
「姫様。我が団は隠密での暗殺は向いておりません」
フィーナーー第三騎士団の副団長は言った。
「殲滅しちゃえばいいのじゃないかしら?」
「一族郎党は殺せても家臣も残らずは厳しいです」
「王国ってむずかしいのね……」
アラム様が倒れた。ジェラルドが慌てて駆け寄る。
あら大変、寝ていらっしゃらないから限界が来てしまったのね。
その後、私の第三騎士団が到着し、団員たちがフィーナを副団長と呼んでいるのにアラム様は目を剥いた。また、団長がフィーナを抱き締めようとして、逆に締められているのを見て、アラム様はまた倒れかけた。
アラム様には休息が必要のようね。
その後、私とアラム様と私の騎士団には幾多の試練が降り掛かったが、私たちはめでたく夫婦となった。
結婚前夜、私はもじもじとアラム様にどうして結婚してくださったのか聞いた。
「私以外、誰が貴女を止めるんだ」
と、ちょっと遠い目をしてアラム様は仰った。
「王国を戦場にしたくない」
もうアラム様ったら、大袈裟なんだから。