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8、王はフレッドについて調べる

 王宮では、国王と宰相のグレイの二人が会議をしていた。


 第五王女マーガレットが王宮を抜け出した件について、王が宰相に命じて調査したところ、一人の男が王女を助けたことがわかったのだった。


「グレイ、マーガレットを助けた男について何かわかったか」

「はい、国王陛下。実に興味深いことがわかりました」

「ほう」

「その男はフレッドといいます。職業は医者」

「平民か? いやしかし、医者には貴族しかなれないはずだろう」

「それがフレッドの本名は、アルフレッド・リッチウェルであるようなのですが」

「リッチウェル……伯爵にそのような家名のものがいたな」

「はい。まさに、リヴァーズ伯爵の長男が、アルフレッド・リッチウェルという名前でした」

「リヴァーズ伯の長男は十年ほど前に行方知らずになったはずでは……なんと。それでは彼は」

「伯爵家の人間ということです。リヴァーズ伯の長男は、かつて王都で医者をやっておりましたが、ある問題を起こして医者の資格を剥奪された事件があったようです。その直後に行方がわからなくなったという記録がありました」

辻褄(つじつま)があうな」

「フレッドは今は王都から馬車で五時間ほどのところにある小さな村で診療所を開いているようです。それで定期的に薬などを王都に調達に来るようです。表向きは商人である言って、王都では医者であることを隠しています」

「なぜ医者の資格を剥奪されたのだろう」

「それはこれです」

 宰相は一枚の紙を取り出した。王はそれを手に取った。

「『公的医療サービスの構想』。なるほど、医者である貴族たちが嫌がるだろうな。その貴族たちの圧力にも関わらず、これを撤回しなかったとかそういうことかな」

「はい、その通りです、撤回しないままですと、手続き上の流れで、いずれ私たちの目に触れるでしょう。たとえ採用されないとしても、誰か有力者が一人でも評価でもしたら医者たちは困ると考えたのでしょうな。そうなる前に、フレッドの医師資格を剥奪し、この提案を無効にしたのです」

「しかしこの構想は一考に値する」

「はい。現状では、貴族と裕福な平民が高度な医療サービスを独占している一方で、多くの平民や村人は医師資格をもたない独学の医者たちに診てもらうしかない。両者には相当の質の差がある。そこで国が医療サービスを運営することで、高額な費用を負担しなくても、高度な医療を一般の平民に提供する」

「貴族は、自分たちの特権、利権を脅かすものに敏感だからな。しかし、これはこの国には必要だ」

「おっしゃる通りです。一方でこの国の政治家は全員貴族です。簡単にはいかないでしょうな」

「慎重に事を進める必要がある。それに教育も含めた案に発展させる必要もある。そしてもしこれが実現するとしたら、そのトップに適任なのはこの男だろう」

「彼は受けてくださいますでしょうか」

「それも慎重に進めるのだ。今はまだ好きにさせておこう、時が来たら協力してもらう」

「まるで悪巧みですな」

「ああ、そうだな」

 王は宰相の言葉に笑った。


「フレッドについてですが、もう一つ報告があります」

「なんだ」

「先日、第五王女様を助けたときに、フレッドは王女様の病気を診察したようです。そして王女様の病気は快方に向かいつつあるとか」

「どういうことだ。一週間前には、余命数ヶ月だと聞いたばかりだぞ。今まで考えうる限り優秀な医者を何人も招いて診させたがだめだった。それがこの数日でよくなるだと。そんな魔法のようなことがあるはずが」

「それがフレッドはなぜかこの病気の原因についての知識を有しているようでして」

「信じられないが、実際にマーガレットの症状がよくなっているのだな」

「そのようです」

「とにかくその男に会ってみないとな」

「わかりました。その機会を用意いたします」

「よろしく頼む」

 宰相が部屋を去ると、王は一人つぶやいた。

「ふむ、これはおもしろいことになってきたな。このフレッドという男、わが王国の問題に関わる妙な過去がある。一方で、現在においては我が娘の命を救おうとしている。これらは一見別々の事態にみえるが、もしかしたら、思いがけず組み合わさって、一つの流れになるかもしれん」

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