7、フレッドは酒場で王女のことを思い出す
フレッドは酒場で、酒を飲んでいた。
近くには、最近王都に来てから、いつも酒をともにしている顔見知りたちが騒がしく会話をしていた。フレッドはその中にあって寡黙だった。
フレッドは彼ら酒仲間には、自分のことを王都に買い付けに来た商人だと言っていた。
実際は薬を買い付けに来ていたので、まったくの嘘というわけではなかった。
「おい、フレッド。お前独り身だったよな」
テーブルをともにしていた一人がフレッドに絡んできたのだった。
「ああ、そうだが」
「誰かいい人はいないのか。いなかったら紹介してやろうか」
「いないし。いらない」
そう言って首を振った時、フレッドはふと窓の外の丘の上にある王宮が目に入った。それでマーガレットを思い出した。あれから五日ぐらいが経つが、彼女は言った通りにしているだろうか。
「おい、まさか王女様か。それはやめとけ」
フレッドの目線の先に気づいた酒仲間が言った。
「そんなわけないだろう」
「じゃあ、貴族の令嬢か」
「いや……」
それにフレッドは少し言いよどんだ。マーガレットのことが、なぜ思い浮かぶのだろう。飲んでいると、いろいろと馬鹿げたことが頭に浮かぶのは困る。
「貴族なんて高望みはやめとけ」
「そうだ。貴族は貴族同士結婚するものだ。もし、何かの偶然で結婚できたとして、幸せになれるはずはない」
「そうだ、環境も考え方も何もかも違うんだからな」
フレッドもそれについては酒仲間と同意見だった。
「うん、貴族なんて、ろくでもないやつらだ」
フレッドはつぶやいた。
「もし良い相手が見つかったら月の塔がおすすめだぞ」
「月の塔?」
「夕方になる鐘あるだろう。あの鐘の音を塔の上で聞いた男女は、必ず結ばれるっていう話があるらしい」
それを聞いてフレッドは飲みかけていた酒を吹き出しそうになったが、言動に感情が出さないように努めた。
「そうか」
「フレッドは興味なさそうだな」
「それはそうだろうな。でも、フレッドが女の子と二人で塔の上で鐘を音を聞いている姿を想像すると笑えるな」
「いや想像できねえ。あるとしたら、どうしても行きたい女に引っ張られて渋々上る姿かな」
「それはいいな」
酒仲間たちは大声で笑った。
「もし行くことになったら教えてな」
「ふん」
フレッドは馬鹿馬鹿しいというような表情をしていたが、内心では動揺していた。
マーガレットと二人で月の塔に上ったときに、鐘の音を聞いた。
それにそんな意味があっただなんて。
いや、彼女はまだ子どもだし、そんな話、関係ないだろう。それに俺は貴族なんて嫌いなんだ。
でもあれから彼女の体調はどうだろう。
フレッドはそんなことをつい考えてしまうのだった。
これはあくまで、彼女を診た医者としての思いだ。それだけだ。