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3、王女は休憩する

 目が覚めると、マーガレットはどこかの部屋にいた。内装などを見るに、王宮にある部屋ではない。彼女は、簡素なベッドの上に横になっていた。

 近くの椅子には一人の男が座って見守っていた。


「あなたが助けてくれたんですか?」 マーガレットは弱々しい声で尋ねた。一言話すだけで息も絶え絶えだった。

「起きたか。待っていろ」

 男はそう言うと部屋を出ていき、スープの皿を持ってきた。

 男はそれをマーガレットのそばの机に置いた。

「これを食べな」


 マーガレットは体を起こして、スープをゆっくり口に運びはじめた。

 自分でスプーンを使うのも久しぶりだった。最近は侍女がそれもやってくれていたのだ。

 一口に運ぶたびに、疲労を感じるので一息つきながら、時間をかけてスープを食べた。

 マーガレットがそのスープを飲むと、体の奥がじんわりと温かくなった。食べていると、心なしか、いつも感じている(だる)さ、体の重さが少しずつ軽くなっていくような気がした。次第に食べるペースが早くなった。


「ごちそうさまでした」

 マーガレットは食べ終わると、そう言って、あたりを見回した。王宮の自室に比べたらはるかに狭い部屋。壁や天井は(すす)に汚れている。

「ここは俺が泊まっている宿の休憩室だ。今の時間帯は誰もいない」

「そうですか。助けていただきありがとうございます」

 そう言ってマーガレットは頭を下げた。

「私の名前はマーガレットと言います」


「その服装、君はどこかの貴族の召使いか?」

 マーガレットは自分の本当の身分を明かすべきか考えたが、今はやめておくことにした。

「はい、そうです」

「どこの?」

「王宮の……」

「王宮に住んでいる貴族となると、かなりの上級貴族だな」

 男はそう言って、ため息をついた。

「少し休んだら、送っていくよ」


 マーガレットはそれを聞いて(うつむ)いた。

 「ありがとうございます」

 これが最後のお出かけか。明日からはまたベッドの上で天井を眺めて少ない日々を暮らすのだろう。

 そう思うとやるせない気持ちが湧いた。

 せっかくこうして出てこれたのに、これで終わりなんて悔しい。


「しかし、君はどうして一人で出歩いていたんだ?」

「それは……」

 マーガレットはどう答えようか迷ったが、ここは正直に答えることにした。

「『月の塔』に行きたかったんです」

「月の塔? この街一番の観光名所だな」

「知人が話してくれるのをよく聞いているのですが、どうしても行ってみたくて」

「観光客みたいなことを言うんだな。もしかして、最近王都に来たばかりだったり?」

「いえずっと王都ですが……」

「それは珍しい」

 


「さてそろそろ行こうか。月の塔はまた今度、体調の良い時にでもまた行けばいい」

「はい」

 マーガレットは一度は、男の言葉に従おうとしたが、ふと、また今度はないのだと思うと、このままでは引き下がれないという気持ちが強く湧いてきた。


「やっぱり今から行きたい」

 マーガレットの言葉に男は驚いた表情をした。

「え、どこに?」

「月の塔に」

「今から?」

「どうしても今日行きたいんです。休んだおかげか、思ったより体の調子はいいですし」

 そう言って、マーガレットは立ち上がって、その場を歩いて一周して見せた。


 男はマーガレットの言葉に困惑した。

 彼女のような少女が一人で街を歩いて、倒れかけていたこと自体がおかしい。できるだけ早く家に帰すのが正しいだろう。そうせずに彼女にもし何かあったら、男の責任になるだろう。

 しかし、マーガレットの目を見ると、そこには絶対に譲らないという強い意志があった。普通ではない特別な思いがあるようだ。


「わかったよ。俺もついていく、心配だからな」

「ありがとうございます」

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