10、マーガレットとフレッドは村に向かう
村に向かう馬車の中で、マーガレットはフレッドに申し訳なさそうな表情をした。
「フレッドさん、すみません。強引にお願いをしてしまいました。お恥ずかしいです」
「まだ王都から離れたばかり、今なら戻れますよ」
フレッドはまだ大きく見える王都を見て言った。
マーガレットは強く首を振った。
「それはしません」
「あと王宮の外では、そんな堅苦しい話し方はやめてください」
「王女様に対しては無理です」
「もう王女ではないのです、気分的には。ただのマーガレットです。どうかお願いします」
「気分的にはって……」
何度断ってもマーガレット諦めなかった。結局フレッドの方が折れることになった。
「わかったよ」
フレッドがそう言うと、マーガレットは嬉しそうな表情をした。
馬車には、フレッドとマーガレットの他には、マーガレットお付きの侍女アンナと護衛を兼ねた執事のジョージが乗っていた。
ジョージは明らかに王家が派遣したお目付け役である。逐一、マーガレットたちの様子を報告するのだろう。フレッドの監視も兼ねているのかもしれない。
フレッドはため息をついた。
行く時は一人だったのに、三人も増えている。しかし、肩に重くのしかかるような三人である。
王家にも目をつけられたし、王女が一緒だし、前途多難だ。
マーガレットは、そんなフレッドの心配など知らず、窓の外を見て楽しそうだ。
近くに座るアンナに、目に入る目新しいものを一々尋ねては、おもしろがっている。
しまいには、
「少しは落ち着いてください」とアンナに言われる始末だった。
「ずいぶん元気になったな」
「はい、おかげさまで。でも私、本当はもっと落ち着いた性格なんですよ。あ、信じてないですね」
「そうだな」
「ひどいですね。でもずっと縛りつけられていた体が自由になって、こうして外に出られているのだから、身も心も軽くなるのは当然です」
「本当の性格はこっちなんじゃないか、という気もするが」
「なんか、子どもみたいに思われている気がします」
「実際、そうじゃないか」
「違います。きっと村に着いたら、私は人一倍役に立ってみますからね」
「期待してるよ」
馬車内は終始賑やかだった。
王宮とは全く異なる環境が、王女様にとって合うか心配だったのだが、これくらい明るい性格なら、村にもすぐ馴染めるかもしれない。
改めて考えてみれば、診療所に手伝いが欲しかったのは事実だ。
人が増えて、できることが増えるというのは、実際嬉しいことではある。
案外、いろんなことが、思った以上にうまく回っていくのかも知れない。
マーガレットの明るい表情を見ていると、フレッドはそんな気がしてきたのだった。




