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聖なる歌の力

作者: 河辺 螢

 ずっと辞退し続けてきた。

 私なんかが筆頭聖女だなんて…


「あんまり謙遜するのも嫌みよ」

 選ばれなかった人に言われたけど、本当に私なんかが筆頭になると、まずいのに。

「早く行きなさいよ。ほら。恥ずかしがってないで!」

 先輩に押され、

「おめでとうございます! さすが先輩、きっと選ばれると思っていました!」

 後輩に祝福され、聖堂の祭壇の前にいる司祭様の元へ。

 にこやかに私がたどり着くのを待っている。でも…

「どうしてそんなに固辞するのかな?」

 優しい声で、諭すように語りかけてくださるけれど…

「あなたの聖なる力は多くの人を癒やし、励ましてきたでしょう。誰もがあなたがここで一番実力のある聖女だと認めています。さあ、自信を持って」


 司祭様の手にある聖女のサークレットは、ここ三年、継ぐ人を待っていた。

 先代の筆頭聖女が急な病に倒れ、ずっと後継者が決まらなかった。

 筆頭聖女は、各地にいる司祭が一人でも反対すれば、決まらない。

 つまり、満場一致で選ばれるのに三年の月日がかかり、ようやく選ばれたのが、私。

 わかってます。その経緯はわかってますけど、

「私は最初から向いていない、と言ってきました。きっと…、後悔されます」

「そんなことはない。さあ…」

 そして、頭にサークレットが載せられ、あれだけ固辞したにもかかわらず、私はとうとう筆頭聖女になってしまった…。

 ああ、どうしよう。


 ずっと女神様に祈りを捧げてきた。

 共に働き、困っている方々に手を差し伸べ、人々が求めるまま、治癒の力を与え、穢れを浄化し、魔物を寄せ付けず…

 体を動かし、聖なる力を使って活動することこそ、私にできること。

 それなのに…

 ずっとごまかし続けてきた、その罰が当たったんだわ…。

 私の罪をお許し下さい。



 翌日の、朝の祈りの時間。

 毎日の、女神に捧げる聖なる歌。

 筆頭聖女には、ソロパートがある。

 ずっと歌は口パクでごまかしてきたけど、仕方ない。

 さあ、歌うわよ!


 きよらかなあああああ ひかりのなかあああああああ

 わがめがみのみちびきにいいいい。

 

「な、なんだなんだ!」

「み、耳が痛い、この甲高い不協和音は何だ!」

「この振動は一体っ!」

「地震かっ??」


 とわのおおおおいのおおおおおりいいいにいいいいいいいい


「壁に亀裂がっ」

「裏の山から、鳥の大群が逃げ出しました!」

「ネズミが街から逃げてます!」


 きぼううをおおおおおおいだきいいいいい


「ま、窓が、窓が次々に割れて…」

「頭が、頭が、割れるううう!」


 やすううううらあああかあああなああありいいいいいいいしいいいいいいい


「わあああああっ、やめ、やめるんだーーーー!!」


 私が歌を止めると、ゆらゆらと揺れ、チリをまき散らしていた女神像がピタリと止まった。

 私の歌にハモるように低く響いていた地鳴りもおさまり、何事もなかったかのように、辺りは静けさを取り戻した。


 …だから言ったのに。

 私、音痴だから、いつも祈りの歌は口パクだったのに。

 ソロパートのある、筆頭聖女は無理だって。


 自分が壊した物をせっせと修復して回ること一週間。

 その間、私を除く聖女達がしっかりとお祈りをし、平穏な日々は守られていた。

 荒れていた周囲の動物たちも、落ち着きを取り戻した。

 どこかで温泉が湧いたという噂もあったけど、詳しいことは知らない。


 破壊は一分、修復一週間。

 割に合わないわ…。


 当然、筆頭聖女は選び直し。

 そう思ってたのに、歌だけ歌担当の聖女が別に選ばれるようになり、私の筆頭のポジションはそのままだった。

 ただし、私に限り歌は禁止。まあ、当然ながら…

 

 五年後、この歌声で襲ってきた魔物を殲滅し、聖女の聖なる戦闘ヴォイスと呼ばれるようになることを、このときの私は、まだ、知らない。


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