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剣使いの姫  作者: 音色彩
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第一話「安心できる場所」

私はとりあえず、この魔物の森を脱出することにした。どこかに馬は居ないものかと、周りを探してみたが、そんなに都合良く居る訳が無く、諦めて徒歩で移動する。

後から気が付いたのだが、この森の中では土をあるっているだけで、不思議なことに足音が響く。これでは、馬が居ても、蹄が良く響く為に、自分の命を危ぶめる危険材料にしかなりえなかったであろう。

そんなことを考えながらも、前に進む。怖くて俯きながらも、前へ進むしかない。無論、この辺りの地図が頭に入っている訳でも無く、適当に前へと進んでいるだけだが。

目的はこの不穏な雰囲気の漂う魔物の森を脱出すること。獣一匹...いや、虫一匹すら居ないこの森とは早くオサラバしたい。先ほどの開けた場所には当然ながら日が当たっていたのだが、森の中は、1ミリも日の光が入ってこない。

さすがに寒いし暗いし、まず今が昼間かすらも分からない。だんだん、気分が憂鬱になってくる。

「寒いし、暗いし...何よりも、さっきより強いモンスターが出てきたらどうしよう...怖いね、ライア。」

大丈夫だよ。暗闇の中で、淡い光を放って、ライアが励ましてくれる。僕が守ってあげるから。と。

少し、恐怖心が薄れてきた。そうだよね。今の私は一人じゃない!少し、元気が出てきた足早になる。

前を向くと、木々の間から、とても懐かしい光が見える。温かみのある、眩しい光―

「ライア!見える?出口だよ!あれはきっと太陽の光だわ!」

一刻も早くこの森から抜け出したい。その気持ちが私を突き動かす。前へ前へと走り出す。

「ふっ、はっ、はぁはぁ...出、口...!!」

眩し

光を求めて走っているが、結構遠いことに気が付く。それでも私は走るのをやめない。体力が足りなくなってきていることに後から気が付く。でも、もうそこは出口だった。

青い空。白い雲。眩しい太陽。鮮やかな色彩を放つ花々。そして、広がる大草原!!

体中に新鮮な空気を送り込むようにして、いっぱいいっぱいになるまで吸う。

「すぅーーー、はぁーーーーーー。幸せだぁ...天国に居るみたい!」

そのままの勢いでごろりと、草原に大の字になって寝転がる。爽やかな草のにおいに包まれる。と、同時に恐ろしいほどの睡魔が襲ってくる。

「あ...ねむ...もう、いいや...寝ちゃお...」

こんなに天気のいい日ならば、寝てしまいたいものだ。その後、数秒もせずに私は深い眠りの中へと落ちていった。最後に、なんだか騒がしかったのは気のせいだろう。

*********************************

ここはどこなのだろうか。夢の中...?なのだろうか。

またもや見たことのない景色。奇麗な布が壁に掛かっている。これは何だろう。タペストリ...?とでも言っただろうか。

真ん中の大きくて豪華な椅子には、なんだかとても偉そうな初老の男性は落ち着きなく座っている。

その人は私に向って何かを言いかけた。だが、そこで夢の世界が大きく歪む。

待って...貴方は一体...?

*********************************

夢から覚めると、草原にいたはずの私は、見知らぬ木造建築の家にいた。

「ここは...?」

「あ、目が覚めたんですね!よかったです。」

声が聞こえたほうへと振り向く。そこには、お盆を持ちながらドアを閉めている、若い男性がいた。

「実はですね...」

その男性はゆっくりと私がここにいる理由について話してくれた。この若い男性は、メザックというらしい。

メザックさんは、大草原の上で爆睡していた私のことを、あの森(あの魔物の森は、ベラクの森というらしい。)の近くに居たので、魔物に襲われ気絶しているのではないかと勘違いし、超心配して大急ぎで自分の家にまで連れて来てくれたのだと言う。

食い違いがすごいことになっている。なんだか申し訳ない。

これ以上心配をかけないように、私はただ歩き疲れて寝てしまっただけだから心配いらないということを話し、メザックはほっと安堵の息をついた。その後、「これ以上ベラクの森に近寄づいたら危険ですよ。」とメザックさんに釘を刺された。

見ず知らずの人をここまで心配してくれるとはなかなかのお人好しである。

「でも、暫くはうちの村に居たほうが良さそうですね。僕の家で良ければゆっくりしていってくださいよ。」

今回は情報集めもかねてメザックさんのお言葉に甘えることにしよう。

「すいません。本当にご迷惑をおかけします。」そんな私の考えをひっくり返すようにメザックさんは両手を申し訳なさそうに振りながら言った。

「とんでもない。最初は僕が勘違いで連れてきちゃったんだし、お詫びも兼ねてゆっくりしていってください。あ、妻も呼んで来ますね。」

少したってからメザックさんが連れてきた奥さんのアミールさんにも挨拶と名を名乗った。びっくりするほど美人である。どこで捕まえたのであろうこんな美人...。私が奥さんのアミールさんに見惚れているときに、メザックさんは村長に私(客人)が来たことを伝えに行った。

アミールさんが、メザックさんが家を出かけたあと気さくの話しかけてきてくださった。

「ねぇ、ライアさん?その服...結構高級そうな布を使って見えるのだけれど...多分この村ではその服は悪目立ちすると思うわ。」

この服はそんなに価値のあるものなのかな...今まで気にしたこともなかった。しかも、いきなり悪目立ちするって言っても、どうすれば...

眉間にしわを寄せて考えている様子の私を見かねたのか、アミールさんが、

「私のお古で良かったら、服差し上げたいんですけど...」

その言葉に私は衝撃を受けた。お人好し夫婦なのか…ああ、なんかもの凄く申し訳なさが襲ってくる。でも悪目立ちしてメザックさんご夫婦に危害が加わったら…!

「よ、よろしいんですか?」

「家にあっても邪魔なだけなのよ。是非!貰って頂戴!」

アミールさん...押しが強い。そして、とても秀麗な...お顔が近い!

その秀麗なお顔がこれ以上近づかないように、両手で静止しながら、返答する。

「ありがたくもらいたいと思います。その、さん呼びをされると変な感じがするのでやめてください。」

アミールさんのニヤニヤが収まらない。収まる気配すらもない。

「いいわよ。これからはライアって呼ぶことにしましょう。」

ほっと一安心...喋りながら、アミールさんが用意してくれたお茶を飲む。フルーティーな香りがしてとても私好みだ。

「じゃあ、アミールさんって呼ぶのもやめましょうか」

ブフォオ(お茶が盛大に吹き飛ぶ音。)

「―!?ゴホッゴホッ、!? ??はい?」

すっかり私の中(主に脳内)に定着した呼び方を変えろと言われてもすごくこちらとしても困る。そして、アミールさんは、勝手に話を進める。

「そうねぇ。妹が欲しかったの!お姉ちゃんって呼んでもいいのよ?」

全く話についていけない。と、とにかく、アミールさんを止めなきゃ...!

「アミールさん、名前の呼び方はそのままでいいです!」

「よし、じゃあ、呼び方はアミィさんで安定!」

全く意味が分からない。さん呼びは許されたとして、肝心の名前が、あだ名になって、アミィになってしまった。だが、さん呼びは続行!それだけで私の心の安定ははかられる!

「分かりました。それで締結しましょう。」

とりあえず、一回お終いに。だが、そんな訳は無く、メザックさんが帰って来るまで、私はアミールさん...いや、アミィさんの話に付き合ったのだった。体力消耗が激しい。そんな話の中で、明日はアミィさんと一緒に街を回ることになった。メザックさんほっといていいのだろうか。そして、時間は過ぎ―

晩御飯の後。

「今日は疲れただろう。妻の話に無理やり付き合ってもらっただろうし...」

「まあ、何を言うのメザック、私たちは楽しくお話していただけよ!そうよね、ライア?」

...優しいメザックさんの視線。アミィさんの全く悪気のない暖かい目。何とも言いずらい。

「今日は少し疲れたので休ませていただきます!」

少し失礼だったなとも思いつつ大急ぎで今日、メザックさん達に出会ったあの部屋に戻る。

「今日はなんだか忙しかったなぁ。」

昨日のあの怖い場所とは比べ物にならないくらい。そんな言葉を飲み込みつつ、部屋を見渡す。昨日は肌身離さず持っていた、私の(かぞく)を探す。部屋の片隅に立てかけられている。

「...ライア、これから私、少しこの街に居るの。だから、一緒に居れる時間は少ししかないけれど、ずっと一緒だからね。」

壁に立てかけてあったライアをベッドまで運び、その日は、一緒に寝たのだった。

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