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自分だけの世界

 目が覚めると辺りは真っ暗だった。違和感を感じつつ時計を見ると、午後9時である。このとき、自分が酒を飲んで6時ぐらいに寝た事を思い出し、違和感は解消され、深い夜の訪れを喜ぶことが出来る。

 夜の10時から2時ぐらいは睡眠のゴールデンタイムなどと言われているが、私にとってはそれこそ堪能すべき時間であり、最も心を落ち着かせることが出来る。

 窓を開けて顔を出してみると、人の姿は見えず、静寂が広がっている。

 おもむろにテレビをつけると、普通の人からすれば就寝時間近くの夜、という区分に属する番組が放送されている。それを起きたばかりで新鮮な夜という区分として見ることが楽しい。

 しかし最近はテンポの遅いテレビ番組への興味は薄れているので、10分もしないうちに最近ハマっているゲームに移行する。ゲーム自体は面白いのだが、最近ではプレイスキルがこれ以上には現実的にはなれないだろうということを、薄々感じている。

 私は様々なものにおいて技術の習得、上達が人よりも早く、また褒められることも多い。初心者の域はすぐに脱却する。それゆえか興味を持つ範囲が広く、ひとつの事をとことん突き詰めるということが出来ない。勿論、長い時間をかけて突き詰めても、上級者になれない人もいる。結果はどうであれ、自分の好きなこと、取り組んでいることについて、何十分何時間と語ることのできる人を羨ましく思う。しかしこれが私の怠慢であるということも分かっている。他のものにすぐ目移りしてしまうのが原因で、能力的には不可能ではないはずだ。

 さて、十分にゲームを堪能して日付が変わったところで、僅かに疲労感を感じ始めたのでゲームはここで止める。すると脳が空腹感を思い出し、おもむろに冷凍庫を開けると冷凍ラーメンが目に入った。これを食べることにする。夜に食べるラーメンは、同じ種類でも昼のものより美味しく感じられる。最近では特別感は無くなってきた。それを完食すると腹は六分目程度になり、ひとまずは安泰となる。

 今夜は雨は降っておらず風もほとんど無いので、深夜の散歩に繰り出すことにした。

 扉を開けると、暗く静かな空間が広がっている。階段を降りる音がとても大きく感じられ、視覚と聴覚が釣り合っていない。単純に他の音が無いというのもあるが、昼間と比べて視覚からの情報が少ない分、聴覚が研ぎ澄まされる。

風景全体の動きが少なく、また人も見られないために、広大なマップの一角に自分がポツンと存在していて、特別に探検させてもらっているような気がする。ここは日中からは壁で仕切られて、本来は来ることのできない場所だ。ただし、うるさく騒ぐ声や、自動車などが近くに来てしまうと、一時的に元に戻されてしまう。自動車の音は仕方ないとして、皆さん夜中は静かにしましょう。

 そんなことを全身でひしひしと感じていればいつしか歩いているということを忘れ、一人称視点に切り替わったかのように思う。そうすれば、一定のリズムを刻んで点滅する暗い街灯、それに照らされる蜘蛛の巣、揺れる暗闇、確定しない像といった、些細な要素を楽しむことができる。照らされた緑は一際輝いている。

 新鮮味というものをまさに体感できるこの深夜散歩だが、その感覚を身体に含ませすぎると、新鮮ではなくなってしまうというのが難点だろう。自転車を使うならまだいいが、徒歩だと特にマンネリ化が激しい。

 目的地は設定せずに20分ほどが経過した。徒歩での行動範囲はたかが知れているので、いつもの公園に行くことになる。あそこは丘の頂上付近に位置し、行くのに多少なれど労力を要する。夕方でも人がいないことの方が多く、深夜なら尚更だ。ただ景色はいい。公園の面のうちの1つが急斜面になっており、遮るものがないのでかなり遠くまで見えるという穴場だ。

 公園の手前50mほどの坂は勾配がきつく、自転車は役に立たない。

 小さな歩幅でゆっくりと坂を登りきり公園へはいると、まずは水飲み場で10秒ほど水を飲む。家からドアtoドアで25分も歩き、勾配のきつい坂があるともなれば喉も乾く。今日に限っては、さっき食べたラーメンの影響が大きい。

 いつものベンチに座りボーッとしようかと景色の方を見ると、暗闇に違和感を感じた。黒の配色がいつもより乱れているような気がした。この公園は電灯が2つで規模は小さく、かなり暗い。一寸先は闇、その奥には都会が眩しく入り乱れている。

 一瞬それが人影のように見えたがまさか。この公園に深夜1人で来るなんて、相当な変わり者に違いない。……私がその1人なのだが。

 暗闇にあるはずのない像を見出すのはよくある事だ。特に深夜の河川敷は電灯も一切なく、視界のノイズも酷い。闇の濃淡のうち偶然人の形に似ている部分があり、自分の意識の内を動いていることがある。これを人影と思うのは普通の事ではないだろうか。

 ベンチに座りなんとなくスマホゲームをしようと思ったが、その暗闇の輪郭がいつもよりはっきりとしており、ピンポイントで動いたり、全体がしなやかに動いているように見えたので気になって仕方がない。好奇心が勝りその違和感の方へ5歩も進むと、確固たる像が映りはじめ、その正体が人間であることが分かった。向こうもこちらの存在に気づき、目が合った。

 それが私と彼女との始まりだった。

要するにギャップ萌え

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