本当にいいもの
学校に着くと、彩奈が話しかけてきた。
「あれ、なかなかいいよ~」
本当に? 本当なの? ……相手が求めているものを描くという授業だから、これが正解なのかな。
納得できないまま、笑顔でありがとうと答えた。
教室に入って、席に着くとパソコンを開き、琉金モデルの画像を見る。
「彩奈、これ、ダメかなぁ……」
念のため聞いてみた。
「うーん、グラマーな水使いって発想が私の中になかったんだよね」
居てもいいと思うの、グラマーな水使い。
そうは思ったけど、言葉を飲み込んだ。求められているものを描くのが課題。
教室では授業が始まった。課題の作品を提出する。先生がいいと思ったものがいくつか紹介された。私のは紹介されなかった。
「いくつか、コンテストに出してもいいのではないかと思った作品がありました。まぁ、私が推薦してということはできませんが、興味のある方は挑戦してみてください」
先生に選んでもらえなかった作品なんて、コンテストに出しても通らないよね……。
そう思いながら、やはり頭に浮かぶのは琉金モデル。つい、それを開いて眺めていた。
「あら、いいじゃないそれ」
「わっ」
気づかないうちにそばに来ていた先生から声をかけられてびっくりする。
「あら、ごめんなさい、驚いた?」
「いえ、大丈夫です」
パソコンをシャットダウンしようとすると、先生がマウスに添えている私の手を止めた。
「隠さないでよ~、こんないい作品。なんでさっきこれを出さなかったの?」
「あ、あの、ペアの子がさっきのほうがいいと言ったので」
「なるほどね。相手が望んでいるものを提出するという課題には合格よ」
「ありがとうございます」
先生はじっと琉金モデルを見つめると、耳元で囁いた。
「これ、コンテストに出してみない?」
私はびっくりして手で口元を抑えた。先生は一枚プリント用紙を私に渡すと教室から出て行った。
そのプリント用紙にはコンテストの応募要項が書かれていた。
先生に認められてドキドキしていた。しかも、自分がいいと思っていた作品を褒められた。こんなに嬉しいことって、ない!
高ぶる気持ちを抑えて紙をたたんでポケットに入れる。
私は自分が描いた絵に今まで自信が持てなかった。ただ描くことが好きで、でも、頭の中に生まれたイメージがなかなか表せなくて、表現ってなんだ? って何度も落ち込んで。
今回、久々に自分でいいと思える作品かけたのに、相手には納得してもらえなくて、またか、って思っていた。それを、先生が救い上げてくれた。この気持ちは一生忘れたくない!