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シール

作者: C・トベルト

 シールを剥がしていけば、過去は見つかる。美しかった過去、こっぱずかしい過去、無知であるがゆえに夢中になれたすばらしき自分に出会える。

 それでも至極当然であるが、現実を変える事は出来ない。



『シール』


1、憧れの幼き素顔


 シールとは上乗せされた迷彩であり、装飾である。幼い頃好きなアニメのキャラクターが描かれたシールを壁に貼ると、いつも画面の中でしか会えなかった憧れにいつでも会えるのが嬉しくて毎日毎日その紙を眺めていた。もし私の視線に質量があったならとっくにシールは穴が開いているだろう。


2、困惑の一枚目


 現在、私はある会社で雑用として働いている。機械に入力した文章、資料を印刷し会議に持っていったり偉い人に渡したりして、社会の役に立たせている。しかしそんな実感など毎日毎日同じ事をしている内に無くなってしまった。私は疲れた体に笑顔を貼り付け元気を飾って自分の心を騙して毎日を過ごしていく。


3、憤怒隠しの三枚目

私は怒れない。家族に怒れない。

守るべきものに怒れない。友人もいるが全てを話せないし話した所で答えられず話題を変えて、本当に話したい話題をどうでも言い話題で上乗せされて、忘れられていく。本当はその話題を深掘りしたいのに上乗せした話題を破る度胸が私にはないまま毎日つまらない話を空に投げていく。


4、渇望する二枚目

あの頃の輝きは何処に行ったのだろう、壁に貼った小さな憧れはもう見えない。あの頃の優しさは何処に行ったのだろう、あの頃の楽しさは何処に行ったのだろう。あの頃の形にならない幾つもの気持ちは何処に行ったのだろう上乗せしすぎて誤魔化しすぎて忘れ去ってしまって、どうにも届かない場所に隠れてしまった。


5、赤黒き一枚目

ああ、ああ、呼吸が出来なくなる。

 上乗せしすぎて自分の口すら封じて息が出来ず体内の酸素が腐り二酸化炭素が充満し死んでしまう。最初に貼ったシールはあんなに素晴らしいと信じられたのに、どうして今のシールに輝きは無いんだろう。それがわかる日がくるのだろうか。


6、自分の体全ては蓋の内側に。

全てを蓋をした自分の世界に輝きが戻る事はあるのだろうか、全てを我慢した自分の心に安らぎが訪れる事はあるのだろうか。

 何もわからないまま、自分はまた今日も同じシールを貼り続けていく。


 

 いつか、この何重のシールを誰かが剥がしてくれる事を願いながら、私は新たなシールを生きる為に作り続けていく。


ここまで読んでくれてありがとうございます。

 シールには、思い出が詰まっている。

 シールには、歴史が隠れている。

 シールには、現実の欠片が顔を出す日を待ち望んでいる。

 

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