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英雄になるためにすべきこと~嫌われ者が二十年経ったら英雄になっていた~  作者: 凛音
序章 レイクリット王国スタンピード騒動
2/11

クソ野郎の救いの手



 タイミングが悪い、とオルトは言った。

 何のことかと俺と副隊長は、同時に目をぱちくりと瞬かせる。


「……どういうことですか?」

「そのまんまの意味だ。悪いがこいつを逮捕するのは無理だ。少なくとも今はな」


 逮捕できない……?

 どういうことだ? 金を貸してくれるパトロンでも現れたってのか?


「な、何でですか!? ちゃんと逮捕状だってあるのに!」

「だから言っただろ。タイミングが悪かったんだ」

「いやだから、どうしてそうなるんですかっ! ちゃんと説明してください!」


 バンバンと紙束を叩きながら詰め寄る副隊長にオルトは首を振る。

 そして未だよく現状が理解できていない俺へと振り返ると、真面目な顔──酒のせいで赤かったが──で言った。


「俺がお前を探してたのは、王都のギルド本部から通達があったからだ。王都周辺の街にいるBランク以上の冒険者はただちに王都へ向かうべし、ってな」

「なっ……」


 副隊長が驚きに声を上げる。


 王都からの招集命令。それはつまり、国の一大事に他ならない。

 しかもそれが「Bランク以上」の招集ともなれば、国家を揺るがす可能性があると判断された、相当な緊急事態だ。

 そんな時に貴重な戦力を閉じ込めておくなんて馬鹿以外の何物でもない。


 副隊長が慌てふためくのも当たり前だ。

 しかし俺は、その言葉を冷静に聞いていた。


「何かあったのか?」

「王都東の森に古代地竜の姿が発見されたそうだ。目測でも数百年は生きてる大物だ。しかも見つけた時には相当な数の魔物を従えていた。その数およそ八万」

「じ、地竜……八万……!?」


 副隊長があわあわと口を震わせる。

 うるさいからとりあえず殴っておいた。ぶべっ、と色気のない悲鳴が上がる。


「その魔物の大群が、一体どういう訳か王都へ向けて押し寄せているらしい。移動速度から考えて一週間後には過去最大のスタンピードが起こるぞ。この国の中心、王都ロズウェリアでな」

「ふーん」


 スタンピード、か。

 確かにそれは一大事だ。魔物の大群はともかく古代から生きる化け物が意思をもって攻めてきたなら、そこらの村どころか王都ですらあっと言う間に陥落するだろう。

 そうなればこの国はおしまいだ。強力な冒険者が必要になるのも分かる。


 だが。


「パス」

「は?」

「行かない。めんどくせーし」


 当然、行くわけがない。メリットがないんだから当然の答えだった。

 暴れまわれるのは魅力的だが、それだけ。その相手にしたって王都周辺の雑魚魔物ばかりだ。絶対つまらない。行く気も起きない。

 そんな一から百まで俺に何の得もない招集命令なんてクソくらえだ。くそったれな王族貴族諸共死んでしまえ。


 そう答える俺に、案の定オルトは慌てて食い下がってきた。

 こういう時ばかりはコイツもこの街の責任者なんだと実感できる。


「お、おい待てよ。本部からの命令だぞ? これを断るってことは、二度とこの国で冒険者として活動できないって事なんだぞ。分かってんのかお前」

「それは知ってるけど、犯罪おかして牢獄にぶち込まれてる奴まではさすがの本部も招集できないだろ」

「はあ? お前本気か?」


 本気も本気だ。俺は後ろでデカい顔して人を顎で使う奴がこの世で二番目に嫌いなんだ。それなのに誰が好き好んで王都の金持ち連中の為に働くってのか。

 そんなことするくらいなら豚箱の方が千倍マシだね。

 どうせ二ヶ月だし、よく考えたらそんな長くもねぇわ。


「ちょまっ、冷静に、よく考えろユリウス。お前暴れるの好きだろ? スタンピードなんて起きたら暴れまくりだぞ? しかも周りへの配慮とか一切なしでだ。どうだ、行きたくならないか?」

「……………………いや、別に」

「嘘つけこの野郎、行くって言えよ! 俺が本部に怒られるだろうが!」

「てめぇ、それが本音だろッ! 尚更行かんわ!」


 昼間から飲んだくれてる駄目人間の極みみたいなオッサンの為にわざわざ嫌な事をする人間がいるとでも思ってるのか。

 つーか俺はこいつもクソ貴族共と同じくらい嫌いなんだ。責任追及されてギルド長の地位を剥奪されてしまえ。


「何言われたって俺は行かないからな。ほらぼさっとしてんなよ副隊長、さっさと逮捕なりなんなりしてくれ」

「……え? あ、うん」


 頭を抑えて蹲っていた副隊長だったが、当初の目的を思い出したのか、あたふたと腰に付いたロープを取り出す。

 罪人を連行するための束縛用魔道具だ。あれに捕まると魔力が吸い取られるとかなんとか。

 魔力不足になると激しい倦怠感でほとんどの人間は動けなくなるから、捕縛にはちょうどいい魔道具だ。


「……本当にいいのね? 招集に応じるなら逮捕する必要はないんだけど」

「いいからさっさとしろよ。俺がせっかく捕まってやるって言ってんだからよ」

「はいはい分かったわよ。ほら、確保」


 副隊長の言葉と共にロープがぐるんと俺の周りを囲うと、一気に胴をぐるぐる巻きにされた。体の内側から魔力が抜けていく。

 瞬間、周りから喝采が起きた。


「あ?」


 気づけばそこそこの野次馬が周りを囲んでいた。

 一連の話を全部聞いていたらしい。そこかしこで「ようやくあのクソ野郎が」とか「これでこの街も静かになる」だとか、本人の前で好き放題言ってくれている。


 びき、とこめかみに血管が浮かぶ。

 何だお前ら、喧嘩売ってんのか?


「おいクソ共、こそこそ喋ってんじゃねぇぞ! 言いたいことあんなら面と向かって言いやがれゴラァ!」

「ちょっと、もう静かにして──って力つよっ! 魔力ちゃんと抜けてるわよね!? なんであなたまだ動けんの!? 化け物!?」

「誰が化け物だよクソ乳眼鏡女!」

「さっきから思ってたけどあなた私の名前覚えてないわね!? てか噛むな! 大人しくしてっ!」


 牙を剥きだしにして唸る俺。それを遠巻きに見るクソ野次馬共は一斉にドン引いた。


「うわ何だアイツ、猛獣かよ」

「違う、狂犬だ」

「この期に及んでまだ暴れんのか」

「くたばれ腐れ外道が!」

「二度と出てくんな!」

「死ね!」


「あぁ゛!?」


 言いたい放題すぎだろ。

 そんなに俺にぶん殴られたいのかこいつらは。


「一々反応しないの! 黙って付いてきなさい!」

「離せ! あいつら俺が抵抗できないと思いやがって……!」

「できないじゃなくてしちゃ駄目なのよっ! これ以上暴れたら刑期伸ばすからね!」

「ぐぬぅ」


 それは困る。

 俺は仕方なく、本当に仕方なく野次馬共に背を向けて歩きだす。



 これで晴れて俺も前科持ちの仲間入りってわけだ。まあこの街の冒険者は半分以上がそうだし、気にはならないけど。

 飽きたら脱獄すればいい話だしな。


「おいユリウス」


 そんなことを考えていたら、横から声を掛けられた。

 すっかり酔いが醒めたらしいオルトがそこにいた。


「本当にいいのか? 招集に応じれば逮捕されなくて済むんだぞ。お前に得がないわけじゃねぇだろ」

「くどいぞジジイ。行かないっつってるだろ」

「言っとくが飽きたからって脱獄すんのはナシだからな?」

「わ、分かってんよそんくらい!」

「ほんとかぁ?」


 もちろん図星だ。

 俺は誤魔化すように咳払いをした。


 しかしオルトは少し勘違いしている。俺は別に働きたくないから捕まるわけではない。

 むしろ捕まるのは死ぬほど嫌だ。


「確かに応じれば一時は免れるかもしれないけどな、スタンピードが収まればギルドの拘束力もなくなるだろ。つまり俺はお国に働かされたあげく、帰ってきたらムショ行きってわけだ」

「まあ、そうなる可能性もあるが……」

「可能性しかねーだろ。そんな二度損はごめんだね」


 大体、俺は誰かに自分の行動を決められるのが大嫌いなんだ。そして国の偉い奴らは、自分たちが決める事が全て正しいと思ってやがる。

 だから冒険者の行動を自由に縛れると勘違いしてるんだ。死んでしまえ。


 第一今回の依頼だってクソみたいなものだ。

 スタンピード、しかも八万もの大軍相手で大将は古代地竜だぞ?

 そんなもんを討伐しろだなんてどうぞ死んでくださいって言ってるのと同じだ。それを強制参加って、ふざけてるとしか思えない。

 どうせ報酬をはずめば誰もが飛びついてくると思ってるんだ。

 冒険者なんて命あっての物種。よほどの馬鹿でなければどれだけの金を積まれようと死にに行ったりなんてしないし、そもそも俺は金に困ってなんか──


 ぴたりと足が止まった。


「うわっ!?」


 縄を引っ張っていた副隊長が、俺が止まったことで後ろにひっくり返った。

 まだ付いてきていたオルトと野次馬共は不審そうに俺を見ている。


「どうかしたか?」


 オルトの声が耳を通り抜ける。

 俺は今、どうしてこんな簡単なことに気が付かなかったのかと己の馬鹿さ加減に死にたくなっていた。


「お、おいオルト……」

「おう、どうした、って、お前いま名前呼んだか……!?」

「あのさ、少し確認したいんだが」

「ど、どうしたんだお前。マジで熱でも──」

「この依頼、報酬っていくらだ?」


 ぴたりと、副隊長とオルトの動きも止まった。

 しかし立ち上がった姿勢のまま驚愕で固まる副隊長と違い、オルトはすぐに俺の言いたいことを理解したようだ。にやりと無精ひげの生えた顔を歪ませる。


「そうだな、国の存亡をかけた一大事な上に相手は推定Sランク以上の古代地竜だ。おまけに魔物の大群までいるときた。普通こういうヤバめな緊急クエストは金貨五十枚が相場と決まってるんだが……」

「だが?」

「古代地竜はSランク冒険者が束になって倒すようなバケモノだ。こいつを倒せば、白金貨の一、二枚はくだらねぇだろ」


 白金貨。一枚1000万ユース。これに依頼の報酬と貯金を合わせれば、3000万なんて余裕で払える。


 俺は拳を振り上げ──ようとしてロープに邪魔をされた。

 だがその気持ちのままに、オルトへと向き直る。


「その依頼、受けたッ!!」


 即断即決。むしろ悩む必要なんてない。

 元より俺が渋っていたのはデメリットばかりが多く、暴れられるという俺の趣味以外の旨みが一つもなかったからだ。これを受ければ逮捕されないと分かれば、受けない理由がない。


 俺がそう叫ぶと、オルトはいよっし! と拳を振り上げた。首が繋がったのはこいつも同じなのだ。

 それを見てちょっとだけ早計だったかと思ったが、まあいい。嫌いは嫌いだが、何か恨みがあるわけでもないし。

 そもそも俺はこいつに限らず大抵の人間が嫌いだ。ムカつくから。


 代わりに、副隊長の首は危うくなったようだが。


「ま、待ちなさい! もう逮捕したって連絡しちゃったし、はいそうですかなんて納得できない!」


 諦めの悪い副隊長は、ロープを引っ張りながら言う。地味に圧迫されて苦しいんだが。

 さっきすっ転んだことを恨んでるのか? めんどくさい奴だな。


「知るかよ。早くこれ解け」

「逮捕は逮捕! 王都は大変そうだけど、一度しちゃったものはそう簡単に取り消せないのよ!」

「馬鹿かお前。国家の一大事に貴重なAランクを閉じ込めておけるわけないだろ。今この国に治外法権の通じる場所はないんだよ」

「さっきと言ってる事が違う!?」


 悪かったな。俺は俺に都合のいい話しかしないんだ。


 副隊長はしばらくロープを引っ張ていたが、俺がテコでもここから動かないことを悟ったのか、ため息を吐いてロープを手放した。

 その代わり、面倒そうに俺を見ながら言う。


「本当にあなたという男は……大体、百歩譲っても今すぐには無理。逃げられないように警備隊は魔道具を取り外す道具は持ち歩いてないの。一旦牢獄まで行かないと……」

「は? ふざけてんのかお前。とって来いよ」

「何で私が往復しなきゃいけないのよ。あなたも一緒に来なさい」

「誤認逮捕だってお前の上司に言いつけるぞ」

「言いがかりも甚だしいわね! 自分から逮捕されたくせに!」


 相変わらずうるさい女だなあ。こんなだから嫁の貰い手がいないんだろうな。可哀そうに。


「な、何よその目は。失礼なこと考えてない!?」

「気のせいだろ」


 俺は肩をすくめた。失礼に当たるようなことは少しも考えてない。


「ともかく早く持って来いよ。いつまで待たせるんだお前」

「だからあなたも来なさいって言ってるでしょうがっ!!」

「その辺にしとけよお前ら。もう馬車出るぞ?」


 呆れたふうにオルトが言う。

 その手にはいつの間にか新しい酒瓶が握られていた。


「馬車?」

「ここから王都まで五日以上かかるからな。すぐ出ないと間に合わないと、さっき馬車を用意させといたんだ。もう他の奴らは乗ってる頃だろ」

「おい、それ早く言えよ!」


 他の奴らというと、招集されたBランクと自分から参加を希望したC以下の雑魚共だろう。いくら報酬が美味いからってわざわざ死地に向かう気持ちは全く分からない。今回に限っては俺も報酬目当てだが。

 とにかく急がないと馬車が行ってしまう。そうなれば、報酬がもらえない!


「早くしろ副隊長!!」

「だからここにはないんだってば! なんで分かんないの!?」

「まどろっこしいなお前! だったら早く案内しろよ!」

「さっきからそう言ってるんですけど!?」


 ぎゃーぎゃー喚く副隊長を連れて走り出す。後ろでは野次をしていた奴らがブーイングをしてるが知ったことか。

 ……いや、知ったことだわ。全員顔覚えたからな。後で絶対ぶっ飛ばしてやる。


 思い切り後方へガン飛ばしながら副隊長について走る……が、すぐに追い越してしまった。


「お前足遅くね!? なんで魔力抜けてほぼ動けない俺より遅いんだよ!」

「あ、あなたが……おか、しいだけでしょぉ……ぜぇ、ま、待ってぇ」


 うざくてうるさいだけでなく足も遅いとか、使えなさすぎだろこの女。なんでこんなのが副隊長やってんだ。


「急がなくても肝心のAランクを置いて行ったりしないだろうが……まあいいか」


 後ろでオルトがなんか言ってたが、後ろの野次馬がうるさくて聞こえなかった。

 俺は副隊長を肩に担ぎ上げると、牢獄へ向けて走り出した。


「ち、違う! そっちじゃないわよ、こっち!」

「あ? こっちか」

「ちっがうわよこの馬鹿! あ、待って振り落とさないで──」




◇◇




「戻ったら覚悟してろよてめぇら! 売られた喧嘩全部倍以上の値段で買ってやらぁ!」


 普通に馬車に間に合ったあと、数々の屍──死んでるわけではない──を背にユリウス(問題児)は出ていった。


「二度と戻ってくんなーっ!」

「死ね! ユリウス死ね!」

「次ぎ会ったらぶっ殺してやる!」


 それを見送るのは温かな住民の声。今日もセーロンは平和である。


「懲りねぇな、あいつ」

「全く、あんな男が野放しなんて……世も末です」


 酒を飲みながら見送るオルトの横で、副隊長──エリーヌ・ペイクレットはため息をついた。

 彼女はペイクレット男爵家の三女だったのだが、すでに上の姉たちが嫁入りやら奉公やらをしに行っているし、家督は長兄が継ぐために、親も彼女にやりたい事があるのなら好きにすればいいと言われていた。

 そのため好きに生きようと持ち前の正義感からこの街の警備隊に志願し、若干親の七光りはあるが若くして第三警備小隊の副隊長をしている。

 それだけにこの街の現状や──ユリウスの存在はどうしても看過できない、頭の痛い問題だった。


 そもそもユリウスという男はそこまで悪い男ではないはずなのだ。

 高い背丈に細く引き締まった身体。目つきは悪いが見ようによっては好青年にも見える整った顔。チンピラ然とした格好をしてるが実力もある。

 普通にしてればどこのパーティからも引く手数多、ついでに女も寄ってくるようなポテンシャルはあるのに、考えるよりも先に手と足と剣が出る短絡さ、常にキレかけの堪忍袋を持つ短気さのせいで全部ぶち壊しなのだ。ついでに趣味が喧嘩というのも駄目だった。

 ユリウスなんていうどこぞの優美なお貴族様然とした名前を付けた両親が泣いてるだろうな、とエリーヌは去っていく馬車を見ながら思った。


「まあ、帰ってきたら即逮捕ですけど」


 エリーヌのその言葉に、酒瓶を空けていたオルトは眉を上げた。


「うん? 嬢ちゃんはあいつが地竜を倒せねぇと思ってんのか?」

「当たり前じゃないですか。だって地竜ですよ? Sランク冒険者でさえ一人では歯が立たないと言われてるのに。ましてやあの男が、誰かと協力したりなんてすると思いますか?」

「はっは。そりゃねぇな」


 人一倍プライドの高いあの男が「倒せないから手伝ってください」なんて言うわけがない。仮に、万が一、億が一にも言ったとして、あの性格では協力してくれる相手もいないだろうが。


 しかし、オルトは続ける。


「でも俺は、倒してくると思うぜ。一応あいつも実力だけはSランクって言われてるくらいだしな」


 その言葉に、エリーヌは瞬きをした。


「そうなんですか?」

「ああ。昇級試験を受けられないせいでAランク止まりだが」

「それはまた、どうして……」


 通常、冒険者ギルドは実力のある者は上に行かせたがる。下の階級はいくらでもいるし、いなくても階級が上の冒険者に依頼することもできるが、下の階級の者が上の階級の依頼を受けることはできないからだ。

 その上Sランクになれるのは、世界中から必要とされる実力を持つほんの一握りの天才だけ。今でさえ世界で十人しかいないと言われてるSランク冒険者になれるほどの実力があるというのに、それを敢えて昇級させないという判断がエリーヌには理解できなかった。

 ついでに、あのクソ野郎が英雄とも呼ばれる人たちと同列の力を持つというのも解せなかった。


 そんなエリーヌの不思議そうな声に、オルトはガシガシと頭をかいた。


「あー、まあ素行が悪いってのもあるが、一番はあれだな」

「あれ?」

「知り合いがいないせいで、協力クエストが受けられないんだ」


 その言葉にエリーヌはぽかんと口を開ける。そして、目を閉じて頭を押さえた。


 協力クエスト。10人以上の冒険者がパーティを組んで行う、高難度の依頼。Cランク以上に上がるためには必ず一定数こなさなければ昇級試験が受けられない、上級冒険者なら誰もが通る道だ。

 ユリウスも今まではその実力と職業(ジョブ)の特性からお目こぼしをもらっていたが、さすがにSランクともなれば例外を作るわけにはいかないかったのだ。


「どうしようもない男ですね」


 エリーヌが言う。


「まあ、いつまで経ってもガキだよなあ」


 オルトが空になった瓶を捨てながら答える。


 二人は同時に、大きくため息を吐いた。


ヤバめな緊急クエストで金貨五十枚以上の報酬が保証されるのは、主力となる高ランク冒険者(通常B以上)に限ります。Cランク以下はそもそも呼ばれません。

今回は多くの冒険者を必要とするためC以下にも報酬は支払われますが、例外中の例外です。

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