キラ星さんのステキなお友達
姫とキラ星さんの名前が判明します。
買い物に出てふと思いついた。今日はキラ星さんが監督をしているフットサルチームの試合がある日だ。今から行けばまだ間に合うかしら…。そう思った私は駅に向かい電車に乗った。
ふふふ、キラ星さん、きっと驚くだろうな。
そう言えば、試合って、どれくらいやっているのかしら? 途中で不安になった私はキラ星さんにLINEしてみた。
『まだ試合やっていますか?』
すぐに返信があった。と。いうことは試合中ではないということよね…。
『今、終わったところ。今日は二試合とも負けちゃいました』
あら、じゃあ、どうしようかしら…。
『今、途中まで来ているんですけど、終わっちゃったのなら帰ります』
するとキラ星さんから意外な返信が届いた。
『今、どのあたりですか? 試合は終わったけれど、せっかくだから、この後みんなと一緒にご飯でも食べませんか?』
私が居場所を伝えると、キラ星さんは迎えに来てくれると言った。私なんかがお邪魔してもいいのかどうか迷ったのだけれど、せっかくだからキラ星さんに会いたいものね。私はキラ星さんの申し出を受け入れることにした。キラ星さんなら、きっとそんな風に言ってくれる…。それを少し期待していた私。キラ星さんは期待を裏切らない。一瞬、彦星さんの面影が頭に浮かぶ…。
地下鉄の出口で待っていてくれたキラ星さん。キラ星さんのチームのキャプテンさんが運転する車に同乗してチームのベースまで送ってもらった。その近くのお蕎麦屋さんに入った。キャプテンさんは車を置いて来ると言って一旦、帰って行った。
「ステキなお店ですね」
「うん、この辺りにはここしかないんです」
「他の方たちは来ないんですか?」
「うーん…。あと2~3人かな」
キラ星さんにメニューを渡されて開いてみる。美味しそうなものがたくさんある。
「まずはビールですね」
「はい! 先ずはビールを飲みましょう」
取り敢えず二人だけで乾杯。その後でキャプテンさんが合流。再び乾杯。そして、キャプテンさんが不思議そうに私とキラ星さんを眺める。それに気が付いたキラ星さんが私を紹介してくれた。
「姫野さんです」
「姫野麻子です。吉良さんがクリーンになったので仲良しになりました」
それを聞いたキャプテンさんが目を丸くした。それから慌てたように自己紹介してくれた。
「あ、星野公彦です…」
ちょっとどっきりです。キャプテンさんが彦星さんと同じ名前だったから。でも、そのことはキラ星さんもまだ知らないので、ここでは聞き流すことにしましょう。後でちゃんと報告しようっと。それから、キャプテンさんは気になっていたことを遠慮気味に尋ねて来た。
「クリーンになったって、もしかしてあの子のことを知っているんですか?」
あの子というのはキラ星さんが最近まで付き合っていた子のことだというのはすぐに解かったので、私はキラ星さんと顔を見合わせてクスッと笑ってしまった。
「はい。知っていますよ」
呆れた顔をするキャプテンさん。
「吉良さんって、そんなことまで話しているんですか?」
「はい。全部知っていますよ」
「だって、本当のことだし」
悪びれることなく答えるキラ星さん。
「まったく、吉良さんと来たら…。でも、そういうところが憎めないんだよな」
「はい。憎めない人です」
その後、キラ星さんのところにひっきりなしにメールが入っているようだった。
「江波さんとケンちゃんが来るって。ここ、そろそろ昼休憩に入るから中華屋で席を確保しておくように言っといた」
「じゃあ、俺、腹減ってるから飯食っていい?」
そう言ってキャプテンさんはカレーを注文した。
「あ、じゃあ、私も…。私はこのハーフサイズのものをお願いします」
運ばれてきたカレーを見てびっくり。
「ここのカレーはそうなんだよね」
キラ星さんが言った。ハーフサイズが他のお店で食べる普通のサイズのものと変わらない。キャプテンさんの普通サイズのものは普通のお店なら大盛以上だった。
「もう一軒おつきあい願いますか?」
キラ星さんが言うのでお付き合いすることにした。中華屋さんに行くと、奥の席で先に来ていた人が手を振った。その人は既にキラ星さんから私のことを聞いていたようで嬉しそうにあいさつをしてくれた。
「初めまして。江波です」
「始めました。姫野です」
キャプテンさんとキラ星さんが並んで座ったので、私は向かい側の江波さんの隣に座った。すると江波さんが目を丸くした。
「えっ? 彼女が俺の隣でいいの?」
「いいんだよ。それに、彼女は江波さんと同じ中学校の卒業生だし」
キラ星さんには以前話をしていた。キラ星さんが住んでいる街に私も住んでいたことがあることを。
「えっ! そうなんだ」
「そうなんですよ」
驚く江波さん。江波さんは私より3つ先輩で一緒に在籍はしていなかったのだけれど、知っている先生の話とかで盛り上がった。
「そっか…。姫野!」
「はい! 江波先輩」
「おー! いい子だ」
江波先輩は話している間にもどんどんお酒をお替りする。すごいハイペース。大丈夫なのかしらと心配になってしまう。
「この子、本当にいい子だよね。あの子のこととかも全部知ってるんだって」
キャプテンさんがその話を持ち出すと、江波先輩も呆れていた。そして、その後、少し遅れてもう一人合流してきた。
「初めまして。姫野です」
「あー! 噂のお姫様ね。俺は高峰健太。宜しく」
これで、今日のメンバーが揃ったみたい。改めて乾杯。それからはキラ星さんの元カノの話が始まった。
「吉良さん、あの子と離れてくれて本当によかったよ」
しみじみとそう言うキャプテンさんはまるでキラ星さんの父親のようだった。そのことからも分かったのだけれど、キラ星さんの元カノはみんなからあまりよく思われていなかったみたいね。だから、キラ星さんは余計にあの子に執着していたのかも知れない。
「それより、星也、彼女に友達を紹介してもらおう。星也だけこんないい子と付き合ってるなんて納得いかねえよ」
「あ、俺も! 今度、合コンしよう」
高梨さんがそう言うと江波先輩も乗ってきた。
「麻子ちゃんはどう思う?」
「私は合コンとかはあまり好きではないです」
「そうか…。じゃあ、しょうがないか」
「私のお友達なんて皆んなおばさんですよ」
「そういう方がいいんだよ」
「ケンさんはそういうのがお好みなんですね。では、機会があれば」
「星也はいいよなぁ。どうしたらこういう子と知り合いになれるんだ? しかし、あの子とはまた正反対の子だよな。それにしても、あの子と別れて良かったじゃんか」
「私もクリーンになったから吉良さんと仲良しになりました。でも、またあの子のところに行ってしまうようなら、私たちはおしまいですよ」
「もう行きませんよ」
「さあ、どうでしょう…」
「大丈夫です!」
そう言って胸を張るキラ星さん。けれど、私は彦星さんとのことがあるからどうしても臆病になってしまう。キラ星さんも彦星さんと同じようにいつか離れて行ってしまうのではないかと…。
ふらっと買い物に出るつもりが思わぬ展開になってしまった。おかげで楽しく過ごせたわ。でも、そろそろ帰らないといけないわね。
「それでは私はそろそろ夕飯の支度もありますからお先に失礼しますね」
「じゃあ、店の外まで見送りに行くよ」
そう言ってキラ星さんと一緒に席を立つ。キラ星さんに近くの駅までの道を教えてもらって店を後にした。
駅からバスに乗った。昔住んでいた街並みを眺めながら。そして、バスを乗り継いで帰宅した。
今度はちゃんと試合を見に行きたいな。
今日はキラ星さんがみんなに愛されているのがよく解かって、なんだかそれが自分のことのように嬉しい。
キラ星さん、ありがとう。そして、ステキなお友達も。またお会いしたいな。