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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第十九章 紅蓮の瞳は灼熱を思い出し、逆巻く大炎は命を穿つ
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第94話 予想外の援軍


 目まぐるしい乱戦の中、フロンスが私の肩に手を置いた。


「私達も行きましょう、シクスさん一人では無茶です!」

「うん!」


 すると突然に、走り出そうとした私達の周囲を取り囲むように水の柱が現れて包囲された。


「なっ、何なんですか次は!?」

「逃げられない!」


 するとその激流は中心に居る私達に向けて勢い良く流れ出した。しかもその水流は、電撃を纏っている様で、触れれば感電する事が目に見えた。


「フロンス、私の元に!」

「頼みますセイルさん!」


 激流が球体となって私達を閉じ込めかけた刹那、テレポートでその包囲を抜け出した。すると即座に激しい明滅が起こって、水の球体は白煙を上げてたち消える。

 背を着けて周囲を警戒し始めると、私の髪がとてつもない風圧を感じてざわめき出した事に気付く。


「危ないセイルさん!」


 とっさに私を突き飛ばしたフロンス。真っ直ぐ、私達を分断する様に縦に地が裂けて亀裂を作った。とてつもない濃度で圧縮された風が、斬擊となって飛んできたのだ。


「咄嗟の機転は多少は利く様だ。最も貴様達のゲスの辿る結末は同じだろうが」


 白髪のオールバックが、眼鏡のブリッジを中指で押し上げながら私達を見下すように眺めている。手元には金色の杖が握られて、その後方では無数の騎士達が剣を引き抜いて、炎を照り返している。


「クルーリー! 鴉紋を何処にやったの!?」

「黙れ。愚人如きが高貴な俺に語り掛けるな。吐き気を催す」


 フロンスは彼の姿を認めると同時に何か思い至った様で、やや距離の出来た私に向かって叫んだ。


「セイルさん! 彼がここに居るという事は、転移魔法を妨げる結界はまだ敷き直されていないという事です! 早く鴉紋さんの元へ飛んでください!」

「そ、そんな事言ったって、鴉紋の居場所が分からないよ……それに」


 クルーリーがニヒルな笑みと共に私達の会話に割って入った。


「ふん。転移の魔方陣をこの俺が見過ごすとでも思うのか? 加えて、結界はもうじきに再形成される。転移はすぐに出来なくなるだろう」


 クルーリーの持つ杖の先で風が圧縮されていった。そしてそこから、息も着かせぬ無数の斬擊が飛んで来た。


「何のために遮蔽物の無いこの場所に貴様達を誘き寄せたと思っている。そこのメスに転移をさせない為だと分からんのか?」


 風の斬擊が私を襲う。先程の攻撃と違い、細かく小さな攻撃を連続して来ている。とても避けきれず、体中に切り傷が出来ていく。


「セイルさん! 私が時間を作ります。その隙にこの場をテレポートで離れましょう!」


 防御魔法を展開しながら私に駆け寄ろうとしたフロンスの正面に、桃色の魔方陣が縦に空中に浮いて現れた。同時にクルーリーの足下にも桃色の魔方陣が展開されていた。


「逃げてフロンス!」

「なっ、これは……」

「ゲスに言っても分からんか」


 クルーリーが足元の魔方陣に向けて風の斬擊を撃ち抜いた。するとその斬擊は彼の足元の転移の魔方陣から、フロンスの正面に現れた魔方陣より現れた。


「ぐぅッ!!」


 強烈な風圧を防御魔法で防ごうとしたフロンスだったが、あまりの風圧に吹き飛ばされ、更に私から離れてしまった。


「これならどうっ! 『黒炎(こくえん)』!」


 私は手元に巨大な黒い炎を作り上げ、クルーリーに向けて解き放った。


「生意気な魔力だな」


 クルーリーは杖の先から、私の黒炎を包み込む程巨大な転移の魔方陣を起こした。それを見てとった瞬間、私はフロンスに向けて声を振り絞っていた。


「避けてフロンス!!」


 クルーリーの転移の魔方陣に飲み込まれた私の黒炎が、再びフロンスの前に現れた魔方陣から吐き出された。


「セイルさんの黒炎まで転移させるとはっ!?」


 強烈な豪火を、フロンスはすんでの所で飛んで避けられた様だった。

 クルーリーは再び眼鏡を押し上げると、後方の騎士達に命令する。


「予定通り奴らは分断した。フロンスは俺達第4隊と第5隊。セイルは第6隊と第9隊で始末をつけろ。行け」


 クルーリーの号令の元、後方に控えていた400の騎士達が私達に向けて駆け出して来た。


「指図してんじゃねぇよクルーリー、俺達第9隊はお前の下についた覚えはねぇぞぉ」

「ギャアっっぴぃいいいいっっ!! あのメス殺していいの、あ!? あんな上物なのに、あ!? いいのかよおい隊長さん、あ!?」

「バァアーハハハハハ! 殺せコロセコロセ!!」

「黙っていろ第9隊の低能共!」

「貴様らと肩を並べるなど、騎士としての品格が落ちるというものだ!」

「待て陣形を崩すな! 指揮は我々第6隊が取るという約束の筈だ!」

「ギャアハハハハ!!! 構わねぇよやれやれ!!」


 私の元に何やらもみくちゃになった約200名の狂乱の騎士達が迫ってくる。そしてフロンスの元にも。

 私達三人はいつしか分断され、それぞれ見事に200対1の絶望的状況を作り出されてしまっていた。しかも私達の能力に合わせた適性な戦力が当てられている。

 

「こんなの、どうすれば……」


 圧倒的数の大差。こんな状況どう覆せば良いと言うの……テレポートで飛ぶ? いや、まだクルーリーが私に杖を向けている。転移の魔方陣を起こした瞬間に撃ち抜かれるだろう。

 クルーリーがやって見せた様に、私も風の斬擊を跳ね返せば……いや、風の斬擊は不可視な上に早すぎる。捉えきれないうえに、そもそも転移の魔方陣を起こす隙がないんだ。

 隙が欲しい。僅かな隙が。騎士達が私の前に辿り着き、乱戦となれば、更にチャンスは無くなるだろう。……だから。


「一か八かやるしか……」


 私が意を決したのを察したか、クルーリーは杖の先に膨大な風を圧縮し始めた。恐らく始めの一撃と同じ位強力な攻撃を繰り出そうとしている。あれをくらえば私の胴体は真っ二つに引き裂かれるだろう。

 それでもやるしかない!


「ふん。やはり低俗な種族には低劣な思考しか浮かばないらしい。全てクラエ様の予測通りだ」


 クルーリーが白髪を撫で付けながら、私に向けて風を凝縮した杖の先端を差し向けた。


「……なんだ?」


 その時、辺りに起きた異変にいち早く気が付いたのは、クルーリーだった。私に杖を差し向けながらも、周囲を囲む燃え盛る森の方を気にする素振りをし始める。


「何をした……シクスか? いや違う。これは」


 灼熱の森がざわついた。ガサガサと燃えたまま木々が揺れ始める。辺り一帯を取り巻く炎から、何かが這い出してくる。


「馬鹿な……聞いていないぞ。クラエ様から、こんな事は……!」


 明らかに冷や汗をかき始めたクルーリーが危惧しているものの正体は、すぐに無数の生命となって私達の前にその姿を現した。まさに、その大広間を埋め尽くすほどの数で。

 森が鳴き始めた。それぞれの咆哮を上げて、その場に雪崩れ込んで来る。


「この魔物の群れは何だと聞いているのだッ!!」


 怒声を上げたクルーリーが、私に向けて風の斬擊を放った。


「あっ…………。あれ?」


 その斬擊は、私の周囲に黒いもやと共に現れた、巨大な魔物が身を呈して受けていた。


「何で魔物が貴様達に加担するのだっっ!! 奴等に知性などありはしない筈だろう!!」


 瞬く間に溢れ返る魔物達に向けてクルーリーが風の斬擊を乱射する。他の騎士達も突如襲い掛かって来た魔物に応戦していた。


「セイルさん!」

「フロンス、これは!?」

「分かりませんが……以前シクスさんが魔物が助けてくれたと話していましたが、これも……」

「どうして魔物達が私達を助けてくれるの?」

「分かりません。ですが好機です!」


 フロンスは突如として凄まじい密度となった大広間を走り抜け、私の元にまで来て肩に手を置いた。


「行って下さい。テレポートで、鴉紋さんの元へ!」

「……でも、鴉紋が何処に飛ばされたのか」


 言い掛けた時。都の方角で凄まじい轟音が鳴り、黒き落雷が宮殿に落ちる瞬間を見た。緩やかに、フロンスは私の正面で口角を吊り上げる。


「ほら、狼煙が上がりました。鴉紋さんがあなたを呼んでいるのです」

「鴉紋が、私を?」

「そうです、さぁ早く行って下さい!」


 フロンスは私に背を向けて、シクスの姿を探り始めた。


「待って、フロンスとシクスは一緒に行かないの!?」

「ええ、シクスさん一人置いていく訳には行きませんし、それに――――」


 その時、私の前でフロンスが防御魔法を展開した。するとすぐに強烈な風の斬擊が突き刺さった。


「下等生物共が! そこらに散らばった愚かで卑しいゴミ共と同じ様に、貴様も切り刻んでやる!!」


 足下に転がって来たロチアートの少年の顔面。乱戦で踏み荒らされて飛んできたのだろう。その頬に垂れた雫の跡を、フロンスをジッと見下ろしていた。

 その時、私が横から眺めたフロンスは、未だかつて見たことが無いほどに、冷酷な装いをして、瞳を上げたのだった。



「こんな感情は産まれてこの方始めてで、戸惑っているのですが……」

「うん……」


 冷たく、激しい眼差しが、炎に包まれながらクルーリーを見上げていた。


「殺してやりたいのです。今ここに居る騎士。全員を」


 フロンスの意図を汲み取った私は、少し肝が冷えた心持ちになった……しかし同時に、愉快でもあった。今にも心が踊り出しそうでさえあった。

 少し前まで認め様としなかった、自分のそういった心の移ろいが、今は良く理解出来る。


 足下に桃色の魔方陣を起こすと、クルーリーが動揺しながら歯を食い縛るのが見えた。


「待て待て待て待て!!! 待て!! 待てッッッ!!! 聞こえんのか、この俺の言葉が!! 高潔なる俺の言葉が!!」

「いってらっしゃいセイルさん。鴉紋さんを頼みました。これはきっと、貴女にしか頼めない事なのです」


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