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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
最終章 【悪逆の翼】
521/533

第509話 悪神が湧き上がる


   *


 溜め込んだ“神聖”を一挙に吐き出したフランベルジュが、真紅より元の白銀へと戻っていった。


「倒したぞ、みんな……」


 息をつき、空を見上げると“闇”は晴れ渡って元の景観を取り戻している。天上に淀んだ灰の液こそ残っているが、地平の果てまで満ちていた終焉(しゅうえん)は、ダルフの手によって退けられたのだ。

 しかしダルフは、怪訝な顔付きで空のもう一方を見渡していった。


「何をしている」


 そこに見えるは、未だひしめくコルカノによる“無限”。世界の半分は、未だ“神聖”による()()を終わらせていない。目まぐるしく移り変わる地平一杯の景色は、見ているだけで吐き気を催した。


終焉(しゅうえん)を留めただけでは意味が無い。押し寄せる開闢(かいびゃく)も阻止しなければ、世界は新生に塗り替えられるだけだ!」


 フランベルジュを地に突き立て、腕を組んだダルフは、世界を埋め尽くすもう半分の空に思いを寄せた。

 そこで闘う怨敵を想い、鼻を鳴らすと、侵食して来た“無限”を仰ぐ――


「早く始末をつけろ……鴉紋」


 (うごめ)き始めた天上の灰……

 必ず勝利すると、数奇な信頼感を産んだ忌々しい宿()()を待ち、ダルフは瞳を瞑む。


   ――――――


 過ぎ去りゆく“無限”の世界に呑まれ、いま鴉紋は、飽和した情報量の中で白目を剥いていた。


「…………ぁ……か…………」

『コの世界は、お前達ノ心より導き出シた、幻想と妄執の結晶でアる』


 “神”へと反乱する黒き雷電さえとうに消え失せ、膝を着いて脱力した上体を仰け反りながら、その顔に驚愕を貼り付けて失神した鴉紋を、コルカノは目と鼻の先から見下ろしていた。


『だがシカシ、そこには実態が伴イ、同じ様に刻がナガれ、愉悦ばかりでなく苦悩もアる』

「…………――、」

『もし、()()()()()()()()という()()ガ、疑いようも無く流れサル』


 コルカノはその姿形を変え、鴉紋の記憶の中に眠る住人へと、1秒毎にシャッターを切る様に変異していき始めた。


 ネツァクの天使の子、マニエル・ラーサイトペントが言う。

「この妄想の」

 ケセドの天使の子、ザドル・サーキスが言う。

「何が嘘でありましょうか」

 毒に喘ぎ、悶えて死んだ少女、ネルが言う。

「あなたにとって!」

 コクマーの天使の子、クラエ・インプリートが言う。

「ここは現実だよ」

 ビナーの天使の子、ヨフエ・インプリートが言う。

「現実に出来る。キャハハ」


 コルカノによってそこに体現されていく人格は、無表情の容姿のみに収まらず、その声音、纏う気配、癖や性格に至るまでが完全に再現されていた。

 一人の精神が抱え込める限界を超えても、尚流し込まれ続ける“無限”の情報量に、鴉紋の目からは血の涙が溢れ出し、その全身はガタガタと痙攣し始めた。


 継ぎ()ぎだらけの肉の化け物にされた、ゼルが言う。

「とろける様な甘言(かんげん)に」

 ホドの天使の子、ラル・デフォイットが言う。 

「甘い誘惑に」

 ゲブラーの天使の子、ギルリート・ヴァルフレアが言う。

「はたして人は抗えるか」

 エデンの番人、ヘルヴィム・ロードシャインが言う。

「いや、抗う必要などどこにあろうかぁぁ」

 神罰代行人、フゥド・ロードシャインが言う。

「はたしてそれが」

 神からの恩寵(おんちょう)を受ける奇跡の少女、ジャンヌ・ダルクが言う。

「夢であったとしても。イヒヒ」

 異界の冷酷、エドワード・黒太子が言う。

「その現実から……」

 人類の監視者、大天使ミハイルが言う。

「誰も抜け出せない」


 夢想に沈んだ鴉紋の顎が落ちて、空洞の様になった大口が開かれる。茫漠な情報の強制に脳がショートしているのか、その耳からも流血が認められ始めた――……

 されど、“神聖”はいたぶる様に続けていく。


 優しき教育者、フロンスが言う。

「抜け出す必要なんてありません」

 貧民街の人でなし、シクスが言う。

「狂人が夢から」

 同胞との殺し合いを強いられた剣闘士(グラディエーター)、ポックが言う。

「醒めようとしない理屈に同じっス」

 悲しき剣闘士(グラディエーター)達を纏め上げた長、クレイスが言う。

「さぁ呑まれましょう」

 かつて鴉紋とこの世界へ転移し、食肉として解体された五百森(いおもり)梨理が言う。

「“無限”の世界へ」

 ルシルと共に覇権を目指し、永劫の罰を課せられた獄魔、グザファンが言う。

「素晴らしき」

 失意の鴉紋に寄り添い、その心の支えとなった最愛、セイルが言う。

「……幸福に溺れて」


 “無限”に呑まれ、僅かにも動き出さなくなった鴉紋にセイルは微笑み掛けた。もう戻り得ぬ深みへと堕ちた人類を確認し、踵を返したコルカノは、再びに存在を不明瞭にさせてその場を歩み出していった。


『――――ッ!』




「…………ぁ……」


 振り返る事もせず、ただ“神聖”は歩みを止めて、背中から起こる()()()()()に戦慄した……


「ざ……けんナ…………ボケェ……」

『――――――ッ!!』


 背後で、確かに動き出した“人類”へと、神は狂気を感じて絶句した。

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