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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第四十一章 空に【天剣】が成る時
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第494話 貪欲なる力の渇望


 ――――――


「ここ…………は……」


 開眼された黄金の眼が光の世界に覚醒する。何もかもが光に呑まれた世界で、ダルフは心に残された自らの姿を具現化させていた。


「どうなった……鴉紋は……みんなは?」


 いうなればそこは夢幻の世界。精神世界にて自我を呼び覚ましたダルフは、光以外の一切が無い世界で頭に手をやった。


「……そうだ俺は完膚なきまでに、奴に、鴉紋に……っ」


 立ち返るは敗北の記憶……そして――


「みんな死んで、殺されて、それから……それから俺はっ」


 繰り返される惨劇が、筆舌に尽くし難いあの無力感が、ダルフにトラウマを呼び起こす。永遠と続く拷問の様な“生”を思い起こし、ガタガタと震えながら肩を抱き寄せた。

 

「何も出来ず、ただ暴力に怯え……次第に体も動かなくなって、逃げ出す事も出来なくなって……苦痛が、苦悩だけが俺を支配して……っ」


 永劫に続く苦渋の時は、ダルフの身と心を激しく擦り減らした。ただそんな雑念などもすぐに消え去り、やがて彼に残されたのは、漠然とした不安と恐怖、確かに迫る絶望と苦しみだけだった。


「うぅ……っうううう……っ」


 何が起こったのか、ひとときの休息が今、ダルフを無限地獄よりすくい上げた。


「うぅうあぁ……ぁぁあっ」


 神より与えられたそんな休息に、この様な境遇の人間が何を望むのか……それは想像に難くないだろう。


 ――――死を願う。


 終わりの無い『不死』という呪い、その(くびき)に繋がれながらも、人はきっと、その莫大を行使した事も忘れて赦しを乞うのだろう。


 ――――殺してくれと。


「うわぁぁあ……っ」


 ――――終わらせてくれと。


「ひぃぁああああっ」


 ――――楽にしてくれと!


 そう……浅はかに愚かしく…………






「力が……欲しい…………」



 ――――――!!!!


 

 されど、ダルフの願いは違った。


「奴に届くだけの力を……ッ」


 彼は()を願った。その様な惨劇に陥りながらも尚――


「どんな悪魔に、魂を売ってでも……っ!!」


 ……『不死』を行使し、呪いに苦しみ、身を引きちぎるかの様な苦難に絶句しながらも。


「力をぉ――――ッッ!!」


 彼は、もっともっと、と手を伸ばし続けていた。

 まるで冥府を彷徨う愚かな亡者の様に、不遜に過ぎる程の貪欲に身を沈めていた。

 条理も不条理も知った事では無い。貪婪(どんらん)たる獣の様な目はギラつき、脂ぎった髪を逆立てて、神へと薄汚れた手を伸ばし続けていた。

 想像を絶するだけの罰、その代償を支払わされても尚――


「死んでいったみんなの為に……」


 その異常性、勝利への執念は、世界を変えるだけの業の焔となって、ダルフの心を燃やし続けていた!


「これから生きる、みんなの為に!!」


 愚かなる正義は決して自己の幸福を望まなかった。むしろその身を代償に、他者の……否、世界の全て、全生命の未来を願い続けていた。

 これ以上なく高尚……されど人の身に余り過ぎる巨大な願いは、もはや強欲の大罪と断じ切れる。


 抗うには余りに途方も無い世界……

 遥かに常軌を飛び越え、そんな願いに愚直に手を伸ばし続ける愚か者、


 …………だからこそ――



「クス……」



 天使は彼に微笑んだ。


「ミハイル…………さま?」

「そんな大きな声で泣いていたら、静かに眠れないじゃないか」


 決して折れぬ強靭なる心。打ちのめされ、鋼鉄の如く鍛え上げられた人間の()()に、全てを賭ける為に。

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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