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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第四十一章 空に【天剣】が成る時
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第486話 あの日焦がれた君はもう……


「なんだ…………その顔は……」


 制止した刻の中で、ミハイルのピクついた鼻頭が赤く染まっていった。


「なんなんだ……その目は……」


 見上げるは、真っ直ぐにと彼を見下ろしながら煌めいた赤目……


「光り輝いた……その顔は……っ」


 誰よりも何よりも大切だった者が、愚物へと成り下がった。その事実に……


「うぁあ……ぅうう……っ!!」


 嗚咽を漏らして天使はむせび泣いた。もうそこに居る()が、どれだけ外面を酷似させていようと

 ――()()()()()()()という真実に。


「うううぁぁ……ルシルぅうっ……!!」


 胸に風穴の空いた様な寂寥感(せきりょうかん)と喪失感に満たされながら、ミハイルはその手の(つるぎ)を振り上げた――


()()がなんだ、そこまで人類に冒されたのか……あれ程失って、絶望してもお前は!」


 轟々と唸る神聖は、止まった刻の中であろうと変わらずに瞬く。そして全てを呑み込み、ソレは行使される……


「せめてこの止まった刻の中で……死んだ事さえ知覚させないで」


 どれだけ足掻こうと、どれ程喚こうと……刻を奪われた世界で人類に出来る事は無い。


「さらばだルシル……愛しき兄よ。ならばせめて人の様に、淡き夢を抱いて……」


 スゥと息を吸い込んだミハイルは、その目を冷酷非情に戻して天剣を振り下ろしていった。

 止まった肺の景色の中で、光輝いた漠然の光が空を割り、景色を両断していく……


 ……紆余曲折はあったが、結末はやはり天使の視た未来へと帰結される。人の持つ想いと力……ルシルを魅了したものがどれ程のものかと、ミハイルは未知なる可能性に身を投じた。


「さようなら…………ルシル」


 しかし結末は破滅。変え難いその運命から逃れる事などやはり出来はしなかった。

 そんな事など分かっていた筈であった。

 ルシルもまた、そう理解していた筈だった。

 それでも彼は()と混ざり合い、その意志を共鳴させた。到る結果が敗北でも、こんな顔をして死ねるならば本望だと……


 ……そう思ったとでも言うのだろうか?


 紅蓮の悪意と暴力に全てを掴み取ってきた男が……

 ぐちゃぐちゃの憤怒に溺れた男がひととき、なんの気まぐれなのか甘い夢に傾倒したというのか。

 だとすれば、それは闘争と怨恨の為だけに生きた男の、ささやかなる終の安らぎだったのかも知れない。


 あの日見た羨望のささくれはもう見る影も無く。

 角を刈り取られ、丸みを帯びた……


 苛烈で恐ろしく、何者にも曲げられぬ力と信念に魅せられた。道阻む者全てを叩き殺すだけの、あの灼熱の怨恨が美しいとさえ思った。誰よりも強烈な自己を持ち、あらゆる権威と力にも媚びへつらう事の無い自我に感服した。


 悪意を極めたあの混沌を、底の無いあの怒りを……

 羨望した、焦がれた……恋い焦がれた。心より。


 何よりも力強く、己の覇道を信じて疑わぬ魔王の足取りは……もう遠く……




()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




 骸と化したあの日の男の背中を追い求めながら、ミハイルは憧れを終わらせる――


 白熱する怒涛の閃光が空を突き抜け、大地へと振り落とされる。



 …………その下で

 完全に制止した世界の中で……

 






 ()()()()()()()()()()()()()事に……




 ミハイルは気付かない。


 明後日の方角を眺めていた悪魔の視線が、刻を剥奪された無慈悲の世界で……


 静かに標的を見据えたその事実に……

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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