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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第四十一章 空に【天剣】が成る時
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第483話 世界の辿る闘争の歴史


   *


 白き光に満たされた世界で、鴉紋はふと瞳を開けた。


「ここは……」

「生と死の狭間、意識の世界だよ」


 見上げると、そこに神々しいまでの大天使が翼を広げているのに気付く。

 鴉紋は憎々しいといった顔付きで、生身となった弱き体に拳を握る。己の体からはルシルの漆黒が消え去り、そこには無力な人類だけが残っていた。

 

「だったらなんでテメェが居るんだクソ野郎が!」

「お前の魂を逃さず、いたぶり、完全に消滅させる為だよ」

 

 天魔の体を失った鴉紋であったが、それでも負け時と灼熱の眼光を上げる。黒く灯った二つの虹彩を……


「こんなとこまで出向いて大層な事だ」

「フフ……お前の為とあらば」

「俺が今居るこの世界が、異世界では無いとお前は言ったな」

「ああ」

「俺の居た世界の、成れの果てがこんな狂った世界だと」


 果敢に歩み出した鴉紋は続ける。


「ならば教えろ……どうして俺はこの世界に飛ばされた、なんで俺にこんな世界を突き付けやがった!」

「お前がルシルに選ばれたのは……()()()()としてだよ」

「そんな事は分かっている……俺が聞いてんのは、それが偶然だったのかって事なんだよ!!」


 そこに降臨したままの天使へと、鴉紋は渾身の拳を打ち付けた……しかし。


「偶然では無く必然だ。お前でなくてはならぬ理由があったのだ、終夜鴉紋」

「ぁあ゛――ッ!」

「今や人の身でしか無いお前が、私を害する事など出来ると思ったのかい?」


 ミハイルの前に現れた光の障壁が、鴉紋の拳を弾き返していた。


「どうせ概念ごと消え去るんだ、せめてこの世界の種明かしでもしてやろうか」

「ク……ッ 概念だと?」

「そうだよ、お前は完全に世界から抹消する。もう誰からも思い出される事も無い様にね」


 徐々にと光に溶け始めた体に気付き、鴉紋は過激に牙を剥き出した。そうして割れて流血する拳を光の障壁に乱打し始める。

 鮮血飛び散るさなか、細き視線で鴉紋を見下したミハイルは、世界の辿って来た闘争の歴史を語り始める。


「太古の昔、()()()()()()()。君達人類の知る()()()に置いて、ルシルは“天魔”を引き連れて神々へと戦争を仕掛けた。動機は確か、創造主(父さん)が世界の中心を人類と定めたからだ」

「ぅヴォアアァァ!!」

「弱く不完全なる生命体。父さんはそんな人類世界の完成に従事し、彼等へ威光を示して導けと命じたが……それがルシルには許せなかった」

「フゥぅうッ!! ゥァァァアァガアッ!!」

「ルシル率いる叛逆天使達との凄惨な戦争の後、私はルシルを討ち破り、遠い未来、次元の狭間へと突き落とした。それがお前の生きた時代、今この時から観測すれば、遠い過去でしかない歴史のその時にね」

「フンがぁあッ」

「だけど私はルシルの意志を完全には殺しきれなかった……いや、消し去りたく無かったというのが本音となろう。奴の意志は()()()となって生き続けた」

「ァアッ!!」

「天魔とは肉を失うその時、“原初の石”へと立ち返る。そこに魂と記憶のエネルギーを宿してね」

「ウォオオオァァァッ!!」

「その()に覚えがあるだろう?」


 強靭なる障壁が鴉紋を阻み続ける……だが何がそうさせるのか、彼は心煮え滾らせてミハイルへと歩み出すその足を止めなかった。そこに宿る一人の人間の意志、驚嘆に値する並外れた闘志は、決して届かぬ筈の“天魔”を睨み続けていた。


「ウウオァァァアァァァァガァァ――ッッ!!」


 ――吠え続けている。

 拳が割れても、膝が戦慄いても肉が限界に唸り出しても……


 ――そこに届くと信じる自分が、決して揺るがないかの様に。


「お前の系譜が代々とそれを引き継いで来た筈だ」

「ェエアァァアアッッギィァア――!!」

「遥か遠くに混ざり合った“天魔”の因子が、神話の域にまで薄らいだ那由多(なゆた)の遺伝子より覚醒を果たすその時まで」

「ァァァあッミハイルゥウウウ――!!!」

「無限に広がる砂丘より、いつかその砂の一粒がすくい上げられる奇跡まで……延々と永遠と、久遠の時をルシルは待ち続けた、神々への叛逆の刻を、“原初の石”に眠り続けながら……」

「ミハイルゥウウウウッッ!!!」

「そしてその時は、思ったよりもずっと早く訪れた。まるで私でさえもが予測だにしない、未知で恐ろしいナニカがそうさせた様に」


 決して砕けぬ障壁が鴉紋自らの血に濡れていく。打ち付けた膝が割れ、拳が裂けても、鴉紋は決して消えゆくだけの自分を許す事をしなかった。

 そんな人間を軽蔑する様に見下ろし続けた天使は、首を捻りながら淡々と語る。


「そしてお前が産まれた。ルシルという規格外の魂の器となり得る、“天魔”の因子を宿した()()が。お前の“生”は初めから、世界の終焉とも形容できる今この時へと組み込まれていたのだ」

「ォグォオオオオオオオオアッッ!!!」


 眼光噴き上げた鴉紋の拳が、血濡れの壁を全力で殴り付ける。

 ……ピシリ…………

 とヒビの入った障壁が、人の身には侵害し得ぬ概念を打ち壊す――!

 開かれた道、敵へと到る一本の道筋――!


「ォオオオオオオオオオオオ――ッッ!!」


 全てなげうち投じた拳が、摂理を破壊する!

 振り抜かれるは、全存在、宿した“想い”を込めた魂の一撃!

 人の身には本来あり得ぬ筈の“天性”が黒き波動となり、僅かにではあるが鴉紋の拳より打ち上がった!


 ――――しかし!!


「だが所詮()、お前の中に芽吹いた“天性”など、私の前では取るに足らない雑魚と同じだ」

「ハ――――ッ?!!」


 まるで虫ケラでも見下ろすかの様な表情で、天使の大翼がそれを払い落とした――

 もう半身程が光に消え去った鴉紋は四つん這いとなり、しばしの間放心する……


「お前という概念が消え去るまでもう時間もない。すべて諦めてルシルに託せよ」

「…………ッッ」

「より強く邪悪で……美しい、あるべき姿へ」


 決して届かぬ生命の次元……

 されど鴉紋は、


「ゥウ……っ」


 ――されど鴉紋は、激情の目をミハイルへと上げる。


「ウゥ゛ォオオオ――ッ!!」

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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