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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第四十章 人類のエデン
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第465話 奴隷戦士と神罰代行人


   *


 緑色の風と双剣の乱舞――回廊に並ぶ細かな装飾の柱は砕け、降り積もって出来た瓦礫の山を、銀の大鎚が力任せに薙ぎ払う。


「待ちやがれこのユダがッッ!!」

「血の気が多いっすよ〜聖職者じゃないんすか?」


 残された左眼――その隻眼(せきがん)を鬼の様な形相で怒らせたフゥドが、小鼻の上で踊る割れた鼻眼鏡(アイグラシズ)をかなぐり捨てる。


Shiiiiit(クッッッッッソ)が――!!」


 緑色の旋風に乗り、舞い踊る様に宙を駆け回るポックに神罰代行人の手が迫る――


「『緑旋風(りょくせんぷう)――斬』!」

「――くぅぃイイイイッ!!」

 

 ポックの双剣より巻き起こされた竜巻が、フゥドの体を再びに切り刻んで黒きスータンを引き裂く。


「あ〜、二度は使えないって訳っすか」

「ドタマかち割ってやるッ!!」


 肌身切り裂く激しい旋風の中で、紫眼(しがん)光らせたフゥドが深く腰を落として堪らえている。吹き飛ばされていく筈であった乱気流の中を、神罰代行人は銀の聖十字と共に踏み出して来た。


「罰ぅ……罰! 罰! 罰! 罰!!」

「狂ってるっすねホント……」

(God pu)(nishment)――ッッ!!!」


 何かに取り憑かれたかの様でもあるフゥドが、何処となく父親を思わせる巻き舌を披露し始めた次の瞬間――


「くたばれshitッッ!」

「……ッ」


 瞬く銀の聖十字とグラディウスの双剣が鍔迫り合っていた。


「クッッソがぁあ!!」

「剣が保たないっすねこれじゃ……っ!」


 衝撃を物語る風圧の後、互いの得物が弾かれあった。


「ここは逃げるに限るっすっ『緑旋風――舞』!」

「――どぉらぁあ、待てぇぇええええエエ!!!」

「ぇえッ!!?」


 緑色の爆風に乗って敵との距離を離そうとしたポック。だがしかし、風を割って強引に差し込まれたフゥドの掌に胸ぐらを掴まれていた――


「腕、落ちるッスよ……?」

「んなもん関係アルかぁぁああッッ!!!」


 風に切り刻まれたその腕で、フゥドはポックを大地に叩き伏せる。


「ぅァ――!?」

「いくぜぇ……ッ」


 悶えるポックの体を跨ぐ形で、フゥドはギラついた獣の目をして聖十字を真っ直ぐに振り上げていった。


「く……!」

狂怒(ディヴァイン・)神罰(パニッシュメント)ぉおおおおッ!!」


 陽光に照り輝いた聖十字……銀色に瞬く神の鉄槌が、慈悲も容赦も知らずに全力で振り下ろされていった!

 高く上がった砂煙に、紫色の隻眼とレザーグローブの赤き十字の刻印だけが残される……


「チッ……Holly shit(クソ野郎が)ッ!!」

「『反骨の盾』……」


 ポックの前に展開された半透明の甲が、渾身の聖十字の一撃を鼻先スレスレで止めている。そして巨大となっていき、頭上のフゥドを押し退ける。


「お前には割れないっすよ……引き継がれたこのグラディエーターの“気骨”を」


 クレイスより託された想い。それに同調する様にして、ポックの中では新たなる力が開花を始めていた。それは奇しくかはたまた必然か……クレイスと同じ“気骨の悪魔”の能力を――!


「そっくりそのまま貰い受けたって訳じゃ無いっすけどねぇ……共に構えたこの盾と、あの槍の握り方は知ってるッス!」

「ンだからんなもん知るかァァァッ!!」


 狂戦士と化したフゥドが駆けて、ポックの構えた巨大な盾に拳を乱打する。


「――――ッッ!!」

「ビクともしないっすよね……これは俺の、俺達の思いの強さが強度になってるっす」

「くぅァァァッ砕け飛べぇぇええッshiiit!!」


 更にとフゥドの乱打は続き、終いには聖十字を力任せに振り回している。


「『反骨の槍』……」

「ぁあっ――――?!!」

「貫けぇえッ!!」

「ぇボぅァ――っ!!」


 盾と同じくして半透明の槍がポックの手元に現れると同時に、彼は赤き瞳を閃光の様に発光させてそれを力の限りに投げ放っていた――

 それは見事にフゥドの左肩を貫き、そのまま遥か後方の壁に強烈に打ち付けながら瓦礫を降り積もらせる。


「あとは畳み掛けるだけッス――」


 双剣を手に、緑色の風に乗ってフゥドへと迫ろうとしたポックであったが――


「マジっすか……」


 飛び込むつもりであった白煙の中に、鋭く吊り上がった紫色の眼光を見付ける。


「主よ導きたまえ……」

「ん……え、なんすか怒らないんすね」


 立ち上がったフゥドは逆上のままに汚い言葉を吐き散らすかと思えば、何やら粛々(しゅくしゅく)と詠唱の様な文言を繰り返し始めた。


「我等は神罰代行人。ただ神の意志として断罪を。ただ神の意志として粛清を。脈々たる血は主の為に。厳粛たる手は主の為に」

「……っ」


 禍々しく捻れ始めた神聖のオーラ……ポックが知る由は無いが、その“誓い”は彼の父が神罰を執行する前に述べていたルーティンである。

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