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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十九章 豚と死神
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第447話 桜降りしきる悲運の中で


「何もわかってねぇんだなテメェは……」

「……何故だ、なぜ私の神聖が……っ離せ!」


 ――それは絶対なる神の御力を押し返す確かな悪意……何人も抗う筈の出来ない崇高が、野蛮なる男の腕に押し返されている事実。

 黒の掌に御旗を握り込んだ“獄魔”が、神聖との接触面を燃え上がらせ――だがその手を決して離さないままに、ジャンヌへと歩み出してくる……!


「運命論は間違ってなどいませんッ……生命達の命運は神にどれだけ愛されているか。この世に生を受けた時点で決しているのです、その宿命に逆らう事など叶いませんっ!」


 御旗を捕らえられたジャンヌは必死な形相で鴉紋を振り払おうと力を込めながら、得物より放散する神聖を強くしていく。

 やがて悪魔が口火を切り始める……


「“生”とは誰かに決定付けられるもんじゃねぇ」


 鴉紋は噴き上がる神の焔にも構わずに、その手に捉えた御旗を固く握り締めてジャンヌとの距離を詰めて来る。


「……ましてや産まれた時点で決まっているものなんかじゃ」


 神聖を濃縮出来る光の御旗……鴉紋に致命的なダメージを与え得るその得物を手放せば、もうジャンヌ・ダルクに残された攻撃の手は僅かとなる。だがそれ以前に、やはり主をその身に宿した少女はその場を退く事など出来なかった。


「ぐ……、……ッ!」


 ――出来よう筈が無かった。御力を疑う様なその行為は、絶対の信仰を寄せる“神”への背信を意味するのだから。


「黙れアクマッ!! 私は貴方の言葉を否定する、貴方の感じている世界など、主の御前には矮小なモノでしかないのです!」


 桃色の眼光拡散し、空に輪を描いた天輪――

 ようやっと鴉紋の手より御旗を振り払ったジャンヌは、薄紅の光降り注ぐ下で、背に咲いた桜の大翼を御旗へと絡ませていった。


 そして唱えるは、“人”を超える最期の儀――


「『神桜(しんおう)』――ッッ!!」


 超越的なるエネルギーを爆散させながら、神聖宿した光の御旗に桜花弁の(ころも)が纏われる。

 一体化した“使徒”と“神聖”。そこより溢れ出るプレッシャーは鴉紋の闇をもかき消していく――!


「私、は……貴方の言葉を否定……する……っ!!」

「身が千切れそうだぞ……人間」

「貴方にっ……問い掛けます……ッ終夜鴉紋!」


 ……されど、限度を超えた“神聖”に身を焼かれているのか、はたまた急激に変化していった己が魂に翻弄(ほんろう)されているか、その身より薄紅の光明を暴走させ始めた少女には余裕が無かった。

 それでもジャンヌは眼下の鴉紋へと血眼を向ける。異形と変じ始めた全身の苦痛にも堪えながら、憎き“悪”へと過激な声を投じていくのだった――


「かつて……戦乱のど真ん中に身を投じていった私は、あらゆる悲運の“運命”をこの目に見て来ました……!」

「……」

「もし産まれ落ちた時点で腕が欠損していたら……足が不自由だったら! ……人並みの知能を持ち合わせていなかったら、盾を持つ腕力さえもが得られなかったら!」


 張り裂けるままの桜花と神聖の嵐の中心で、ジャンヌ・ダルクは決死の形相で訴え掛けながら涙を振り撒いていた……その全身を、桜と神聖にブクブクと膨れ上がらせながら――


「――あの哀しき戦争の渦中でっ……()()()()()はどう生き延びられたと言うのですッ!!」


 数多の非業を見届けて来た神の使徒……背負ったその宿命が故、決して平穏の中に身を置ける事など無かった。


「……」

「ァァァアァアッ――アアァアアアアアアァァァアアァアアアアアア――ッッ!!!」


 彼女は見て来た……どうにもならない()()を見て来た……飢えに死に絶えそうな極限の中でも、一つのパンを子ども達へと分け与える様な……決して死ぬべきでは無い、信心深く親切な人達の――


 ――余りにも酷い“運命”の仕打ちを。


「答えろ――ッ!! 終夜アモォオオン――ッ!!」


 桃色の天が瞬いて赫灼(かくしゃく)する――


 今入り混じった神との調和。見るも耐えない異形へと成っていきながら、ジャンヌ・ダルクは桜の大樹に呑み込まれていった。


「ホギィィアァアァア、ィバイヤィァイアアア――ッッ!!」


 ――少女の心にあった唯一の()()()()……記憶の中の()と融合を果たしたジャンヌ・ダルクが、天上に薄紅の天輪を開いた。

 あの頃見上げた慕情(ぼじょう)の様に、空より桃色の花弁を舞い飛ばして……

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