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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十九章 豚と死神
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第445話 【終夜】


「は…………っ??」

「全部が神任せ。テメェはただ誰よりも運が良かっただけだ。選ばれただけなんだよ神の()に、哀れなる傀儡(かいらい)に」

「あァ…………ッ!!?」

「テメェ自身は何もしてねぇ、何も褒められた所もねぇくだらねぇ雑魚ってだけだ。ただ神の定めた()()とやらをひた歩いているだけの、何の個性も自我も無い人形と同じなんだよ」


 言葉につっかえ強く歯噛みしていったジャンヌ……額に手をやった少女は、辿々(たどたど)しいままにその怒りを声音に込めていった。


「どの口が言うのですかルシフェルっ……貴方こそ……貴方こそ誰よりも恵まれた生を受けた一人でしょう、神より産み落とされた全天魔の長……かつて誰よりも主に近い所に居た貴方こそ、冥府に追放されて尚、()()()()()と形容される比類無き力を与えられた貴方こそッ!!」


 肥大化した桜の大翼が開いて周囲が桃色の陽光で満ちると、空に舞い上がり、そして崩れ去っていた岩盤が一気に収束して鴉紋を押し潰した。中空に上がっていく石の球体は磁力の様に他の石を吸い寄せ、何処までも巨大化しながら拘束を強めていく。


()命とは()()()と読むのですっ! 人の意志を超越した神の意志こそが、全生命体の宿命であると貴方はまだ理解出来ないのですかッ!」


 興奮冷めやらぬジャンヌが光の御旗を大きくしていく。


「……そんな風だから、神に()()()()()のです!」


 薄紅舞い散る嵐の中で、その旗の先端が天を突いたその時――神の怒りの雷轟が巨大な岩の球体に墜落していた!


「……ッ」


 何もかも吹き飛ばした風巻の中で、ジャンヌは木端微塵となった大岩――その稲光が捉えた黒き落雷地点を覗き――


「…………ッ!!?」


 ――――驚愕としていた。


「……この俺が、産まれ落ちてより()()だと考えているなら、とんだ思い違いだ」

「なんだ……その耐久力(タフネス)はっ?」


 緩やかに伸びていった十二枚の暗黒……ささくれ立っていく闇の下に白煙上げて佇みながら、ジャンヌへと歩み寄って来る灼熱の眼光、その暴虐の波動に――


「ぁ……ぃ……っ」


 少女は()()としての本能的な畏怖を覚える。


「ぅあ……ぁ……ッ」


 ――それはまるで、神の御前に立ったその時の様に!


「夜明けを意味する“明けの明星(ルシフェル)”としての生を受けた俺を縛らんとしたあらゆる()()。この俺の上に立ったつもりでいる支配者気取りの(クソ)に仕組まれたくだらねぇ宿命とやらに、俺は抗い続けた!」

「……なんで貴方から、神と似た威光が……っ」

「血で血を洗い、友を殺した……育ての親の首を捩じ切った、弟の肉を押し潰して故郷を焼いた……傷付き、傷付けられ、俺を取り巻くあらゆる全てと戦い続けたッッ!」


 その身を冥府の漆黒に染めた男より、目を覆う程の赤の閃光が瞬く……それは彼の中でフツフツと煮え滾る()()灼眼(しゃくがん)である。

 限界まで目を見張り、わなわなと口元を震わせたジャンヌ・ダルクは萎縮する。


「全てはッ――神に仕組まれた運命とやらをねじ伏せる為にッ!! このオレが、俺の意志で覇道を行く為にッ!!」

「ご、傲慢(ごうまん)……獄魔、明けの明星、夜明けを告げる者……い、いやチガウ――」

「この“生”を、神なんざにくれてやらねぇ為に――ッッ!!」

「“終夜”……()()()()()()()()か……ッ」


 “明けの明星”として生きる事を強いられたルシル。決定付けられていた夜明けの星としての()()


「だからテメェに言っている――ッ!」

「ヒ…………ぅ……っ!!?」


 期待され、祝福され、羨望される。神によって約束された栄光の花道にさえも――


「神に任せたその生き方……」


 ――この男は叛逆(はんぎゃく)し、神の頬を殴り付けた。



「その()()()全てがクダラネェッッ!!」



 すべては己が為に、

 ――己が“生”の為に、


   修羅の道を選んだのだ。

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