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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十八章 灯火消えようと、友はそこに居る
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第421話 グロリアル


 虚を突いてシャルルへと覆い被さった赤目の群れ――だがしかし、降り積もった生命の隙間より七色のオーロラが爆散して赤目を吹き飛ばしていった――


「あぁあああぁぁあああッ!!!! 私に触れるなロチアートぉオオオ――!!」


 全身に切り傷を負ったシャルルであったが、激しい闘志を燃え上がらせながら自らの流血を空へと巻き上げている。


「やるぞフロンス……」


 白目を剥く程に激情した“親愛王”の元へ、正面よりギルリートの赤目が、その背後よりフロンスの赤目が堂々歩み寄っていく。


「ヒィィアアアアッ!! 私に寄るな、私に近付くな下賤(げせん)なる生命共め!!」


 シャルルの振り回す光明の杖が、質量を得た光を軌道上に放って教会を打ち崩していく――


「貴方達は教会の外へ! シャルルさんは……私とギルリートさんで倒します」


 友のグラディウスを握り締めたフロンスが、崩壊していく体に更に拍車をかける様に『狂魂(きょうこん)』を施す。


「『狂魂(きょうこん)』……ぅ……!」


 眼前の拳に突き立てた親指と小指が反転すると、もう腐りゆくだけのフロンスの体が筋繊維を破裂させる程に膨張していった――


「……合わせろフロンス」

「ええ、言われなくとも貴方の“音”に」


 共に傷付いたフロンスとギルリートが、口元の血を拭い払いながら狂乱のシャルルへと駆けた――


「よぉく聴けよシャルル――」

「フヌゥアッ――!?!」


 暗黒滾るギルリートの棒術が、燦然(さんぜん)としたシャルルの眉間へと振り下ろされる――

 しかし、大王の杖はそれを受け止めている。


「舐めるなよギルリートッ弱き王めがぁ!!」


 ギルリートを前蹴りで蹴り飛ばしたシャルルが、光の杖をギリリと引き絞りながら自らの影へと狙いを澄ませた時――


「ぎぃい……ッ?!!」

「私の友は弱くなんか無い……」


 破裂音を鳴らせて地を踏み出したフロンスのグラディウスが、シャルルの背を深く斬り付けていた。


「コ、ココ……コノォ!!」


 光振り撒き拡散する波動で周囲を押し退けたシャルルが、狂気の面相で背後のフロンスへと振り返りながら横薙ぎの一閃を繰り出した。

 ――が、


「ハ――――!!」

「“楽想”は一人で奏でるのでは無い」


 その間に割って来ていたギルリートが、暗黒の棒術で光を薙ぎ払っていた――


「ギルリー……ッ!!」


 地を蹴って宙へと舞ったフロンスが、グラディウスの煌めきを空へと残す――


「私達は、王の指揮棒(タクト)に付き従うのみ」

「ロチアート、貫き殺してやる!!」


 頭上に迫るフロンスを迎撃する構えとなったシャルルであったが――


「――――ぉ……あ゛――!!」


 その腹を、太き暗黒に突き上げられて血反吐を吐いた――


「怒りに前しか見えんくなる貴様では、マエストロは務まらん」

「ゲバぁあ――ッ!!!?」


 グラディウスが大王の肩口を斜めに切り裂いた。しかしシャルルは怯む事無く、腹を突き上げた暗黒の棒を握り込んでギルリートの首を狙う――


「貴様だけは、貴様だけは私のこの手でッ!!」

「……ふぅん」


 得物を捉えてこちらへ引き寄せた必中の一撃――光明がギルリートの鼻先を捉えて浄化しようとしたその時、岩の様に肉厚な肘が大王の顎に捩じ込まれていた――


「ぁ……っ……カ――!」

「統治は一人では成らず……ギルリートさんはそう言いたい様ですよシャルルさん」

「おの……家畜!!」


 揺れた脳に一瞬放心したシャルルであったが、彼はその威光を取り戻してオーロラを振り乱した。

 どれ程痛めつけられ、どれ程血反吐を撒き散らそうと“親愛王”はその覇道を噴き上げ続ける。そこに譲れぬナニカが、守らねばならぬナニカがあるかの様に……


「民は私が守る、祖国は私がッ強き私の手で! 誰が手を汚す事も無い理想の世界で私は一人闇を被るッ! それが、それが私のッ」

「それは随分に殊勝(しゅしょう)な事だなシャルルよ……」

「貴方は優し過ぎたのですシャルルさん……貴方を慕う仲間達は、きっとその積み荷を共に背負いたいと思っていたのではないでしょうか」

「黙れ……私とクリッソンの理想を、貴様達にナニが……!」


 咆哮したシャルルが更にと光を強烈にして荒ぶると、その衝撃で意識を取り戻したポックが教会の隅で薄めを開いた。


「フロンスさんと……影?」


 『超再生』を失った事の分かるフロンスの傷付いた体……そんな彼と踊る様に、華麗に地を駆けていく影をポックは薄ぼんやりと眺め続けた。


「……凄いっす……」


 一撃で木っ端にされる事が分かるシャルルの猛攻をいなし、二人で絡み合う様に大王を撹乱(かくらん)しながら攻撃を加えていく二人。


「音が……聴こえるっす」


 ぎこちないフロンスに対し、優雅で美麗に戦場を踊る影……そんな二人のワルツを見ていると、不思議とポックの耳に旋律が流れ始めた。


「凄くキレイで華麗な曲が……」


 

 ステップを踏んだ二人の舞いが、力で押し退け様とし続けるシャルルを圧倒する。


「忌々し……一人では何も成せない小物共め……っ!」


 血反吐を吐いて膝を震わせたシャルルが、遂にはそこにオーロラの杖を落としていった――


「まだ……私の夢は理想は……クリッソンと、の……」


 暗黒の棒に顎をかち上げられたシャルルが天空を仰いだ――

 そこに映るは雲間より姿を表す刺すような太陽の発光――


「こんな、愚物共に……っ」


 だらりと腕を下げてしまった血塗れの大王へと、ステップを踏んだ二人の男が纏わりつく――


「聴こえるだろうフロンス……この“楽想”になんと名を付ける」

「……であれば単なる直感ですが」


 暗黒を弱まらせたギルリートと、肉体の限界を迎え掛けたフロンスは視線を合わせると――


「『グロリアル』と――――」


 互いの得物でシャルルを強烈に挟撃した――!


「カ――――……!」


 声も無く白目を剝いて崩れ落ちた大王――


「ギルリートさん……やり、ました」

「…………」


 手に残る確かな感覚に、フロンスは『狂魂(きょうこん)』を解いて何とか形を保った体へと戻る。


「無事ですか……?」


 身の暗黒を不鮮明にしたギルリートの影……未だシャルルを見下ろした彼の背へと歩み寄ったフロンスは、崩れ落ちていく肉に呻いた……


「やりましたね……私達のワルツが、シャルルさんを――」

「いいやフロンス、この勝負は()()()()()


「え…………」

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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