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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十八章 灯火消えようと、友はそこに居る
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第394話 沢山の“ご飯”


 いざ敵将を討たんと決死の覚悟を決めたクレイスの前に、(まなじり)を下げたフロンスが現れる。


「フロンスさん……」

「わぁぁあ良かったー!! フロンスさーん!!」


 いきり立ったクレイスを見やり、フロンスは薄く微笑みかけながら彼を止めた。


「とても素晴らしい気合と根性ですが、危険を侵すならば、何度かは失敗の効く私に先陣を切らせて下さい」

「しかし、フロンスさん……」

()()()の宿った私の体は、この魔力が続く限り何度でも再生します。それに、私は()()()()()()()()から」


 自らの術である『死人使い』で行使する体を見下ろし、フロンスは髪を耳に掛けて言った。


「無謀と勇敢は違いますよクレイスさん」

「……」

「二度と戻らないのです。()()()()()……です」


 黙して承知した様子のクレイスは引き下がり、前へと踏み出したフロンスが“球”を目前とする。


「まぁ、私もこの策しか無いと思っていました。少し泥臭くなりますが、この役は私にしか出来ません」

「すまないフロンスさん、損な役回りをさせているな」

「損……? とんでもない。死人となった私にはもう失う物もありませんし、それに……」


 ふと自らの胸を見下ろしたフロンスは、次の瞬間にはニタリと気味の悪い笑みを大王へと向けた。


()()()が彼を食べたいと言っています」


 ヘロヘロと腰を折っていったシャルルの戦慄(せんりつ)する顔を認めながら、フロンスはペロリと舌舐めずりをしてポックを急かす。


「さぁ行きましょう。まだ()()()()()()()()()()

「え……ぁ、分かったっすフロンスさん!」


 未だ“球”の外でひしめく赤目と騎士の群れは、薄い被膜の様になった風を纏うフロンスを認めた。


「……ではお手合わせ――」


 そして前屈みとなって地に手を着いたフロンス。ぎりぎりと筋繊維の張り裂けるまでに膨張した巨体は次の瞬間に――


「――お願い申し上げます!」


 強烈な踏み込みによって破壊された床の景色を残し、その場より()()()


「ホぁッッ?!!」


 ――それは脳のリミッターを解除したフロンスの加速が、周囲の反応を置き去りにする領域に達した故に観測された現象であった――


 “球”の中心点で佇んだシャルルが、げんなりとしていた顔を強張らせる。


「く……ッ! ぁぁ〜あぁ〜何だお前は! みにくい、恐ろしい〜!」

「ほう……やはり反応しますか」

「黙れ醜い……この化物がッ!!」


 ガラスの身に変じたフロンスはシャルルと額を突き合わす程にまで接近するも、巧みな棒術とその反射神経によって振り払われた――


「ぅ……」


 またもや豹変していったシャルルは袖より表した鉄棒でフロンスを突き、腹部より木っ端となった肉の異形に侮蔑の視線を下ろす――


「これが、ガラスの体ですか、やりにくいですね……しかし、ポックさんの風のベールはしっかりと機能しています」

「余裕そうだな、家畜よ!!」


 残る鉄棒の一閃で下半身を吹き飛ばされたフロンス。しかし彼の無くなった筈のガラスの体がみるみると再生していく。


「『超再生』か……だがそれがどうした哀れな下賤(げせん)よ、貴様の魔力が尽き果てるまで、このガラスの世界でいたぶり続けてやろう」

「それは嫌ですねぇ……ァっ――」

 

 軽口を叩いたフロンスの頭が鉄棒で粉砕された……だが首の無くなったその身が、頭の無いままに“球”の外へと跳躍していった。


「無様で下劣な能力だ……」

「……ぅ……ェあ……ボ……――あぁ、やっと頭が再生した」


 “球”の外へと出た事で肉の身を取り戻したフロンス。彼は無くなった頭を再生すると、たった一度の出入りでほとんどの魔力を使ってしまった事に気付く。


「やはり燃費が悪い……余り傷付けられ過ぎるとすぐに魔力が無くなってしまう。私は不死身では無い……魔力が尽きれば、この身は滅びるでしょう」

「逃げたか化物……良いだろう、貴様の魔力が枯渇するまで、何度でも、幾度でも叩き伏せてやろう」


 鉄棒を袖に仕舞い込み、等身ほどにもなる金色の杖を構えたシャルル。大王の圧倒的力を体感したフロンスは、長い鼻息と共に視線を周囲へと彷徨わせていった。


「はい、それでお願いします」

「…………は?」

「持久戦になりそうです」

「何を強がって見せている……貴様の身にはもうほとんど魔力が残されて――」


 言葉を失った大王が認めたのは、“球”の外にごった返した騎士の群れへと腕を突っ込み、その内の一人を引っ掴むと、裂ける程に開いた大口でメキメキと頭から咀嚼し始めたフロンスの姿であった。


「貴様……なんと愚劣な事を……」

「っ……ぁぁあロチアートに喰われる、俺達は、ロチ、ロチアートに喰われるんだ!」

「か、家畜に喰われるなんて! こんな、こんな屈辱がっ」

「っ…………」


 騎士の噴き出す血液に塗れたフロンスが、人一人をアッという間に飲み込み尽くす。するとその身に再びと魔力が滾り始めた事にシャルルは気付いた……


「あぁ〜美味しい…………」

「ちっ……」


 ドブを見下ろす様に冷ややかなとなったシャルルの視線に向き合い、フロンスは顔に浴びた鮮血を拭う事もせずに……笑った。


「それではお願いします。ここにあるご飯が無くなるまで、()()()()()()()()()……ね」

「人の味を覚えた野獣めが……反吐が出る」


 逃げ惑う騎士達の悲鳴。しかし彼等という生命にはもう、何処にも逃げ場などは無い。

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