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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十八章 灯火消えようと、友はそこに居る
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第389話 揺り起こされる“親愛王”


 クリッソンからの幼稚な挑発を受け、赤面しながらその場を踏み出そうとしたポック。


「待てポック……それこそが奴等人間の思うツボだ」

「……クレイス」


 ポックの肘を掴んで止めたクレイス。彼は背後のクリッソンへと振り返る事もせず、相手にもしていない。


「そうっすね……軽率だったッス!」


 頬を叩いて気付けをしたポックは、クリッソンへと背を向けてもう振り返る事は無かった。


「話しを戻すがポック……変貌したシャルルの風格や身のこなしから分かった事が一つある」

「なんなんすか?」


 シャルルの姿にひたすら傾倒していたクレイスは、僅か一瞬のみ現れた大王の“本能的な姿”について何か気付いた事があるらしかった。


「元の奴は、武人としてもかなりの達人……加えて厳格な王であったと思われる」

「…………っ」


 息を呑んだポックは前方で狂乱した大王へと、その指先をそろそろと向かわせた。


()()()っすか……?」


「ぁぁあ〜! どうして私がこんな目に〜、帰りたい! 宮殿に引きこもって錠を下ろすのだ〜、世間や人命などどうでも良い〜ただ私が無事で恐ろしい目に合わなければそれで万事良いのだ〜! ぁあ〜なぜだ〜、悲劇だ〜何がどうしてこうなった〜、私が何をしたのだ〜」


「……アレがだポック」


 頭を抱え込んだ老王を眺め、まるで苦虫を噛み潰したように眉根をしかめたポック。だが続けて投じられて来たクレイスの言葉に、徐々にその推論を受け入れ始める事となっていった。


「考えても見ろ、あれ程猛烈に鉄棒を振り乱したというのに、突風に砕ける程に繊細な筈の奴の身には傷の一つも入っていない」

「本当っすね……なんでなんすか?」

「まぁ見ていろ――」


 頭上に手をやったクレイス。するとシャルルの頭上には、半透明体の巨大な亀の甲の様な物質が出現した。


「『反骨の盾』――プレスッ!!」

「い、いきなり仕掛けるッスか!?」


 シャルルを押し潰す形で天井より迫った巨大な盾――クレイスの“思いの強さ”に比例したその強度は、あのヘルヴィムや鴉紋でさえもが手を焼くだろう。


「ハァう?! 潰れる、潰さ、潰される〜! 賊に私を〜! 繊細で高貴なこの体が〜!!!」


 ――だがそれは、『反骨の盾』が“本来の性質”で出現した時の話し。

 シャルルの“球”へと侵入した巨大な盾は、その全体をシャンデリアと見紛う様な美しきガラスへと変貌させられた。


「やはり物質化する俺の盾もが、あの術の対象であるか……!」

「いやでも! あんなバカでかいガラスの塊、奴には防げっこ無いっす! やったッスよクレイス!」


 ポックの瞳が好機に輝いた通りに、頭上より迫る巨大なガラスを見上げたシャルルは、声ともならぬ悲鳴を上げてわなわなと肩を震わせ始めた――


「こ、こんな大きな殺意〜!! ふぅあ、ぁあ、あああ〜! もうどうしょうもない〜! 押し潰されるのだ私は〜、砕き割られるっ無惨にもっこの身を破壊されて〜ぁあー! ぁぁあ〜どうしてぇ〜〜!!」


 頭に手をやってしゃがみ込んでしまった老王の姿に、銀風に晒される全ての生命が勝利を確信して瞼を上げる――


「愚民めが」


 ――だがその瞬間、シャルルはやはり“変貌した”


「ク、クレイス……やっぱりアイツ豹変してっ!」


 敵の人格がすげ変わる瞬間をしかと目撃したポックが驚愕としていると、直ぐ頭上にまで迫ったシャンデリアの下で、シャルルは金色の杖を地に突き立て、ローブの袖より新たな鉄棒を落として両手に握り込んだ――


「この様な凡策でッ……この私の命を取ろうなどとッ!!」


 立ち上がった将は天を真っ直ぐに向きながら、接触するすんでの所まで来ていた巨大なガラスの塊へと、その両手の鉄棒を遮二無二振り乱した――!


「片腹痛い、片腹痛いッ!! フランス王国王家の血脈をッ! この程度の愚策で狩り取ろうというその魂胆が――ッ!!」

「な、なんすかあれは?! とても素人の動きじゃ……っ」


 鉄棒の乱打に合わせて舞い散っていく銀の破片……閃光を上げる程の激しい衝撃が幾度もガラスの塊を打つと、やがてピキピキと音を立てながら巨大な『反骨の盾』に亀裂が走った。


「愚策が過ぎるッ!! このシャルルの命を貰い受けたくば――!!」


 足元へと鉄棒を投げ出したシャルルは、煌めいた眼力を解き放ちながら、地に突き立てた金色の杖を両手に握って遠心力を付けていた――

 華麗な弧を描き回転する金の軌跡、そして――


「城を穿つ大型弩砲(バリスタ)の数百でも差し向けて見せろ――ッッ!!!」


 炸裂した金色の杖がシャンデリアを砕き割り、木っ端となったガラス片がキラキラと舞い上がった。


「なぁッ、マジっすか!? あの大岩みたいなガラスの塊を一瞬で!」

「あれは手強いぞポック」


 彼等があ然と見上げるは、反射する光の粒子に照らし出された――まるで天に選ばれたのかと思いたくなる程に厳粛で、そして幻想的な空間に一人立ち尽くす――“大王”の、その厳格極まる熾烈(しれつ)な面相であった。


「ぐふふ……そうよ、あれこそがシャルル本来の姿――」


 息をする事さえ忘れてしまった兵達の中で、クリッソンは一人破顔していた。


「あれこそが“狂気王”と侮蔑される以前――“親愛王”と呼び親しまれた、()()()()()()()()()姿()()


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