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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十六章 最期の闘争
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第344話 野蛮極まる神聖


   *


 鉄と鉄を重ね合わせる激しい喧騒の中で、血飛沫を浴びたフゥドがロチアートを殴り付ける。


Holy shit(クソ野郎)だボケがッ!!」


 黒いレザーグローブに刻まれた十字架の刻印が赤く発光し、彼の拳を前に推し進める。

 陣も何も無く突撃し合った両者であったが、数の優位もあってか優勢は各地より集った1000の騎士混成団である。


「はっはぁ、楽勝だ、いけるぜフゥド! っオラァ!」


 フゥドを中心にして群れた黒の狂信者達が、群がる魔物を銀の十字剣で切り裂いていく。


「ああ……」


 しかし浮かない表情を落としたフゥドは、激しい剣戟(けんげき)の最中で猛烈なる怒号の飛び交う戦の中心点を見やる。


「ヘルヴィム神父……どうか!」


 ――過ぎる一抹の不安。いかに雑兵が優位を取ろうと、手出し無用と繰り広げられている頭同士の一騎討ちの勝敗で、戦況はどちらにでも転ぶだろう。それ程突出した“個”がいま、雌雄を決しているのだ。

 胸に十字を切ったフゥドは途端に獣の様な眼光を携え、赤目狩りへと繰り出していった。



「ギィェェエエエエエエエェイッ!!」


 風を切り裂いていく神父の奇声が空にこだますると、ドロドロとした紅き閃光が鴉紋の頭上に突き落ちていった――


「キャィアアアアアッッ!!!」

「ぐぅぅう……こいつ、ここに来て力を増してッ!!」


 代行人の聖血を吸い上げ紅く変色した聖十字が、その先端を激しく回転させて接触した鴉紋の右腕を削り続ける。


「貴様はその程度であったかぁあ、エエッッ!? ヘビぃッ! 我等神罰代行人が世代を超えて執念を燃やし続けた宿敵とはぁ、こぉおんなにも脆弱(ぜいしゃく)なぁア!!」


 エンジン音の様な物音を立てて回転する車輪。頭上に交差した腕より火花が飛び散り、踏み堪えた地が陥没する。そうこうしている間に風車にかき混ぜられた血の濁流が、ヘルヴィムの背後より放射状に拡散して鴉紋に覆い被さっていく。


「くぁぁあああッ……おのれ、この(けが)らわしい代行人の血がっ!」

「穢らわしいのは貴様だ蛇ぃ! クセェクセェドブの様な血だぁあ!!」


 不可思議に宙を揺蕩(たゆた)う紅の液に鴉紋が触れると、その身は溶けて朽ち始めた。黒き皮膚すらをも容赦無くめくり上げられ身悶えするが、鍔迫合(つばぜりあ)う最中に置いて、悪魔は強く歯軋りをした。


「チョウシに乗るな人間風情がぁッ!」


 車輪を受けたまま背後に身を倒した鴉紋。すると黒き豪脚がヘルヴィムの大槌を蹴り上げて空の高所まで吹き飛ばしていく――


「――ぅがッ!!」


 得物を無理に引き剥がされ、指を抑えたヘルヴィム。聖十字を手放した事で血の濁流の操作権は失われ、ただの液体と化して血溜まりとなる。


「……ぬぅう」


 一旦後方へと飛び退き距離を取ったヘルヴィムは、関節の反対方向に曲がってしまった中指を無理に戻していく。


「――――ン!!?」


 ――だがそこで、正面から迫り来る猛烈なる悪意の凝縮に気付いて顔を上げる。


「潰れろ、人間……細切れにッ!!」


 十二の暗黒の翼を噴出した鴉紋が、その豪腕を振り上げヘルヴィムに目掛けて来ている。その速度は最早目で追う事すらも困難で、周囲の者には黒き閃光が空を駆けて行った残光のみしか映っていない。

 得物を失い、静かに吐息を吐いていく代行人……

 

「フゥゥ……」


 しかしヘルヴィムの紫色の眼光は、正面より差し迫る鴉紋の存在を確かに捉えていた――!


「くたばれヘルヴィ――――ッぁ!?!」

「――ふんぬぁぁあッッ!!!」


 聖十字を空高く飛ばされたままのヘルヴィムは、なんと腰を据えたその拳骨一発で、強烈に突撃して来た鴉紋を迎撃してしまった――


「くは…………っ?!!」


 こめかみにカウンターの一撃を振り下ろされ、地に埋め込まれた鴉紋。訳も分からず動揺を刻むしか無かった視線が揺れると、その頭上では両腕に巻き付けたイバラの一方を空へと伸ばしていく男が見える。


(なんじ)神の膝下へと(ひざまず)け」


 空へと伸ばしたイバラが大槌を絡め取り、ヘルヴィムの手元へと戻って血の濁流が空へと昇る。

 ――そして神罰代行人は続ける。紅き聖十字を激しく殺人的に回転させながら、その獰猛(どうもう)なる(まなこ)で眼下に打ち沈めた男を見据えながら――


「神に感謝せよ、神に懺悔(ざんげ)せよ、神に頭を垂れろ、神に命を捧げよ……自らが罪人である事を深く後悔しぃ、その左胸を眼前に晒すのだぁぁ……神にぃぃ、殺してくださいとせがめぇぇ」


 野蛮極まる神聖が鴉紋に伸し掛かり、その光明が眩く灯る。

 軽い脳震盪を起こして地に埋め込まれたままの鴉紋は、生死も定かで無い様なボンヤリとした表情でそれを見上げ――


 ――舌を突き出して目元を歪め……邪悪に極まる微笑みを見せる。


「嫌に決まってんだろうが……気色悪い」


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