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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十六章 最期の闘争
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第330話 人喰らう悪夢


   *


 岩山の上の宮殿を左方より目指す西軍――2000の兵と魔物達を従えたセイルとシクスは、雑多に入り組んだ商店街にて敵軍に接敵した。


「あーあ〜、見える民家全部に敵が敷き詰まってビックリ箱みてぇになってるじゃねぇか、どうするよ嬢ちゃん」

「大丈夫……地形を利用されようと、敵の兵は1000、こっちには倍の2000と魔物達もいる」


 身を寄せ合って進軍して来たセイル達を取り囲むようにして、傾斜に建ち並んだ家々や細い路地より騎士達の白い鎧が見え隠れしている。


「アンギャァアア兄者、来た、来たぞ家畜が徒党を組んで!」

「そんな事見れば分かるぞ、哀れなギーよ」


 セイル達が相対するは、第17国家憲兵隊のジル・ド・レとギー14世・ド・ラヴァルである。

 無数の騎士達を前にしながら路地の後方に並んだ二人。するとジル・ド・レは、勾配の上よりロチアート達を見下しながら、鼻の下のヒゲを跳ね上げた。


「地形は取ったが数が多いな、下民がわらわらと虫の様に湧いている」

「虫の様に湧いている! フゥオアアア!!」


 しゃがみ込んでガリガリとノートに書き記し始めたギーを奇怪に思いながら、セイルとシクスは顔を見合わせる。


「並んだ民家の二階から騎士共がこっちを狙っていやがるぜ、気を付けろよ嬢ちゃん」

「うん、サッサと片付けて鴉紋と合流しよう」


 シクスが不気味な魍魎(もうりょう)達を纏い、セイルが全て焼き尽くす火炎の大弓を現していった。そして背後のロチアート達が猛り、魔物が地や空を這い回り始める。


「フオオオオッ寄り集まった悪魔の群れは邪悪な闘志に団結して我等が前に立った勇敢なる騎士達はそれに相対しながら……はぁ、誓いを立てた白銀の長刀を……はぁ……ふにやぁ……」

「おいギー、筆マメなのは良いが、ジャンヌ以外の事など記してどうする、私はそんなもの読まんぞ」

「ふにぃいい〜……」


 ギラつき始めたロチアート達を前にして未だノートを開くギー。しかし勢い良く書き始めたは良いが、何やらやる気を削がれて眠そうな目になった彼は、終いにはペンを置いて膝に頭を埋め、栗色の巻毛をクリクリと指に巻き付け始めてしまった。


「『業火の大弓(インフェルノ)』――!」


 ――そこに走った漆黒の炎の矢じり!

 セイルの大弓より放たれた風を切った焔が、有無を言わさず長マントそよぐジル・ド・レの顔面へと迫っていった――


「『捻れ(ツイスト)』」

「――っえ?!」


 全てを焼き尽くすセイルの黒炎が軌道を変えられてジル・ド・レから逸れ、背後の民家を盛大に打ち壊していった。

 そのまま空へと消えていく焔の射線……


「野蛮である……戦場で名を名乗る前の騎士に攻撃を加えるとは、やはり下民、およそ教育も受けていないな」


 ギチギチと鎧を鳴らせながら上体を背後へと捻ったジル・ド・レが、正面へと戻る頃には手に得物を携えていた。


「私の炎が……()()()()()?」


 ジル・ド・レが手に握るは、極端に刀身を曲げた両刃の曲刀――ショーテルであった。かぎ爪の様な形状をした奇怪な剣が、再びに腰を捻じり始めた妙な男よりセイルに差し向けられる。


「捻じり裂いてやろう、肉袋共」


 ――その声と共に、高所より騎士達の魔法弾が雨あられとロチアート達に降り注いだ。


「ぬぁ――っつつつ、いきなり始めやがった……んならこっちも――『(げん)』!」


 降り注いで来る雷球や火球を華麗に飛び跳ねて避けたシクスは、腰から黒いダガーを取り出して空へと躍り出る。

 そして赤く滾るロチアートの右目――


「いっひひヒャ!! さぁ悪夢がテメェらを押し潰すぜぇ!!」


 突如赤く染まった曇天より、恐ろしい怪異の群れが現れて騎士の群れへと飛び込んでいった。


「ボグゥウアハア……ァぐうう!!」

「なんだコイツは? 肉が腐敗して……鼻がもげる!」


 (ただ)れた肉の巨人が、数多ある腕で騎士を掴んで丸呑みにしていく。更には骸のより固まって出来上がった巨大な車輪が敵を押し潰す。細い亡者の群れが肉を求めて大挙していく――


「ニグ……なんでもい……喰わ」

「にんげ……ニグ、はやく」

「くそ、醜い幻影め!!」


 1000の敵兵を相手取るシクスの悪夢の群れ、更にその場へと2000のロチアート達と魔物が雪崩込んでいった。


「あっヒャヒャヒャ、死ね死ね、もっと潰れて血の花を咲かせろよ騎士様!!」


「『業火の大弓(インフェルノ)』――」


 嗤うシクスの隣より、セイルの大弓が騎士の潜む民家を一挙に刺し貫いて焼き上げていった。


「フフッ良い匂い……人間の焼ける匂い。香ばしくて涎が止まらなくなる、あぁ炭になってしまうのが勿体無い」


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