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【悪逆の翼】  作者: 渦目のらりく
第三十四章 侵食されゆく世界でも、下等生物は笑う
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第303話 覚醒するエデンの番人


「まだ立ってる!! すごいすごいアハハハ!!」


 上空を見上げたままとなっているヘルヴィムに、頭上より紫色の大気が一直線に降り落ちて来た。


「――ヘルヴィム神父!!」


 するとそこに飛び込んで来たフゥドが、その聖拳で邪悪を切り払っていた。


「もー……キミは良いよー」


 酷く冷めた眼差しに戻ったベリアルは、大翼を羽ばたいて宙に留まった。


「ヘルヴィム神父! しっかりして下さい、ヘルヴィム神父!!」

「…………」


 彼を揺り動かすフゥドであったが、ヘルヴィムが頭上に苛烈な視線を残したまま気絶している事に気が付く。


「立ったまま……っ!? 死なせるか、このまま貴方を、死なせてなるものか!」


 何時しか再びに闘志を奮い立たせていたフゥドが、ダルフに呼び掛ける。


「侵入者! 聖十字架(クロス)を寄越せ!」

「……っ聖十字を!? 何をする気だ」

「良いからとっとと寄越せ! この人には荒治療が一番なんだよ!!」


 唖然としていたダルフだったが、フゥドの声に翼を開くと、地に突き立ったままの巨大な聖十字を彼へと投げ渡す。

 その重く巨大な十字架を受け取ったフゥドは、夥しい流血と共に、心臓の拍動を弱めていく目前の男を叫び付けていた。


「Shit! このクソ神父!! テメェの使命を遺したまま……っ死んでんじゃねぇええ!!」

「おい何してるんだフゥド――!!」


 振り被られていく大槌を目に、ダルフは驚愕の声を上げたが、既に遅かった……


「――Holy shitだクソボケがぁあ!!!」


 横薙ぎの聖十字による一撃が、立ち尽くしたままのヘルヴィムの頬に炸裂していた。


「………………ん」


 すると後退る事もしなかったヘルヴィムの眼球が、ジロリと動いて眼下のフゥドを睨め付けた。


「んぁ……フゥド? 何してやがる! 蛇はどうしたぁ!!」


 頬に打ち込まれた痛快な一撃に気付いても居ないかの様に、ヘルヴィムは死に体同然のまま現世へと繋ぎ止められていた。


「聖十字にはまだ触れるなといつも言ってんだろうがクソガキがぁあ!!」

「いでぇえ!!」


 そしてヘルヴィムは強烈な拳骨をフゥドの脳天にお見舞いすると、彼の手元にあった十字架を奪い取る。


「しかしだぁ……」

「……っ?」

「お前、まともに聖十字を振るえる様になったんだなぁ」

「え」


 獣の様な眼光が、ややばかり緩んでフゥドを見下ろしていた。そしてヘルヴィムは聖十字を肩に担ぎ上げ、上空漂うベリアルを見上げていく。


「良いだろう……ここで蛇を討て無くばぁ、俺もお前も、代行人としての未来は無い……力を貸せフゥドぉ」

「え、あっ……は、はい!」


 白い歯を見せ始めた少年に向き合い、ヘルヴィムは最後の一撃を放つ構えとなる――


「13番目の神罰代行人、ヘルヴィム・ロードシャインがぁ……今ここに――神罰を体現するぅ……」


 ヘルヴィムは両足を前後に広く開き、沈めた上体を膝頭に並ぶ程に低くしていった。その肩に巨大な十字架の大槌を背負い込みながら――


血の聖(ブラッドホーリー)十字(クロス)


 その囁きに、聖十字架が共鳴して紅く血の色に変わっていく。体から吸い上げられていく血液に、ヘルヴィムは全身をガタガタと震わせ始めた。


「それ以上は危険だヘルヴィム神父!」

「黙っていろぉフゥドぉ……」


 神罰代行人の放ち始めた並々ならぬ緊張感に、ベリアルは面白がって空を降りて来た。


「なになに、何をするの?」


 やがて十字架が鮮血色に染まりきると、ヘルヴィムは蒼白とした顔を上げてベリアルに眼光を解き放った――


「血を貸せフゥド……」

「はい……っ!」


 ヘルヴィムの頭上で横向きになった聖十字にフゥドが触れる――するとその瞬間から、二人の代行人の血が止めども無く吸い上げられていった。


「『威赫流呀(イカルガ)』ァァ……」


 激しい回転を起こす血の風車が、歴代の血の記憶を吹き荒らしていく。その水流に呑まれていくフゥドとヘルヴィムであったが……奇妙な事に二人はその血潮の中に、心地の良い温もりを感じていた。


「アッハハハ! 次は何を見せてくれるんだい代行人!」


 先程よりも遥かに量の多い大河が渦巻き、車輪が血を掻き混ぜていく。前も後ろも無い紅い記憶の中に埋もれて、神罰代行人は歯を剥きだし、紫の眼光滾らせこう叫び上げた――!!



「『エデンの番人(ヘルヴィム)』――ッッ!!!」



 13目の神罰代行人が代々襲名して来た聖名。それを告げると、血の濁流は“翼”と変わり始める。


「アハ……ハ、…………あ……?」


 不敵に笑っていたベリアルの笑みがストンと落ちる。そしてそこに“二対の血の翼”が完成する頃には、少年はおぞましい位の気迫で彼等の存在を認めていた。


「キミ達の正体が分かったよ……ムカつく」


 紅き聖十字より打ち上げる天に伸びる翼は上空に交差し、もう一対の翼は彼等の体を護る様に横に交差されていた。

 ――その下から伸びるは、()()()()


「見たか侵入者()……これが魔力の無ぇ、俺達神罰代行人の真骨頂だぁ」


 ――その手が、回転する刃を振動させた聖十字を力強く握っていた。

 人ならざる領域へと踏み込んだヘルヴィムが、真なる姿をそこに顕現(けんげん)した――


「ルルードのぉ……弔い合戦と行こうじゃあねぇかぁフゥドォッ!!」


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