第27話 迫る教徒*挿絵あり
第六章 彼の愛し方
鴉紋達は都の中心に位置する豪奢な宮殿の内部へと侵入していた。目的は勿論、最上階に居る天使の子の殺害である。
「静かだな」
盛大な反撃を受けるかと思いきや、場内はシンと静まり返って、行く手を阻む者も無い。流石にこのまま最上階の大聖堂までスルーという事は無いだろうが、何やら不気味な位に静かなのである。
「確かに……ですが気を付けましょう。ここにはザドル・サーキスを崇める教徒が多く居る筈です。天使の子の親衛隊の様な側面も強い、武闘派集団だと聞き及んでおります」
「お前の連れて来たそれに怖れて、誰も出て来れないんじゃないか?」
鴉紋が言っているのは、フロンスが先程の戦闘よりそのまま連れ出して来た、死人達の群れの事だった。およそ20は居ると思われる。生気の無い騎士達が、ガシャガシャと甲冑を鳴らしてついてくるのである。
「成る程……それならこちらも助かるのですがね」
疲労困憊のセイルは、先頭を走る死人に飛び付いて背に乗っている。死人はされるがままである。
「セイルさん……私のサハト達は乗り物ではありませんよ……」
豪華な装飾の廊下を抜け、上の階へと続く巨大な螺旋階段に辿り着いた。途中幾つか部屋があったが締め切って誰も出てこない。また膝を折って、胸の銀の羽根に祈りでも捧げているのだろうか。
「居ます鴉紋さん!」
フロンスが足を止めると、死人達が鴉紋達の前に出た。
「背教者」
「冒涜者よ」
「神の使徒へと這い寄る愚か者よ」
螺旋階段の端から転々と、青いローブに身を包んだとんがり頭のフードが見下ろしている。それぞれ杖を持ち、胸には銀の羽根を煌めかせていた。
「死んで貰おう」
教徒が杖の先に光を溜め込んでいき、死人達に向けて放った。
すると光弾を受けた死人が蒸発して灰となる。
「フロンスの死人が消滅しただと?」
「……弱点を知られている様ですね」
フロンスの操る死人は、頭や手足をもいで無力化するか、強烈な光をあてる事で消滅するのである。どうやらその事を承知済みである様子の教徒達は、光弾を再び杖の先に溜め始める。
「死骸を操るとはおぞましい能力よ。それも誇り高きケセドの騎士の死骸を」
「死して尚使徒様への謀叛に加担させられるとは、さぞ無念な事でしょう」
「使徒様に習い、慈悲を彼の者達へ」
教徒の光弾が更に死人を消滅させていく。鴉紋は鼻筋にシワを刻み込みながら、フロンスに問い掛ける様にした。
「慈悲だと?」
「天使の子ザドル・サーキスは極端に慈悲深い者だとか……とかく、どうしますか、このままサハト達の後ろに隠れていては……」
フロンスと、何時しか死人から飛び降りていたセイルが鴉紋を見上げた。
――先の戦いで消耗したセイルはあまり使いたくない。後々セイルの能力が必要な時が来るかもだろう。
「正面突破だ」
鴉紋は螺旋階段を駆け上がって教徒達に迫った。途中放たれた光弾も弾き落として、尖ったフードを右腕で叩き潰す。血飛沫が上がり階段を赤く染まり始める。
しかし……
鴉紋を取り囲んだ教徒の一人が、目映い光弾を鴉紋の背に炸裂させた。
「あつッ!」
「鴉紋!」
「鴉紋さん退いて下さい!」
喰らうと同時に体内から光が暴発する。その照度に目がチカチカと明滅し、更に光弾の触れた箇所は熱を帯びて皮膚を焼いた。
憤激した鴉紋は牙を剥いて反撃する。
「調子に乗りやがってッ!」
「が、使徒様…………」
鴉紋は視界も定まらぬまま、二人の教徒の始末する。しかし彼らは死の間際にまでも胸の銀のネックレスを額に付けて、かしづく様にして事切れていった。
「くそ! 気色悪い!」
「……っ鴉紋さん! 奥から更に来ます!」
「続々出てきやがったか!」
螺旋階段の上から、続々と教徒が杖を持って現れる。
「フロンス、セイル。突っ切るぞ!」
「それしかない様ですね」
言いながらフロンスは、紫色の魔方陣を展開して死人となった教徒を使役して階段を走らせた。彼等は光弾によって数を減らされていくが、それでも猛進して鴉紋達の活路を切り開いていく。
「反逆者を粛清しろ!」
「慈悲深き使徒様の為に! 民達の安寧の為に!」
一進一退の攻防が螺旋階段で繰り広がる。死人や教徒が高所から落下して地に叩き付けられていく。
「フロンス。俺が前に出る! 援護させろ!」
「え、で……ですが鴉紋さん!」
再び真正面から戦火の中央に飛び込んだ鴉紋は、強引にその腕を振り上げて、殺戮の進撃を始める。死人達はその後に続いていった。
「止めろ! 魔法を放て!」
途中幾つか光弾を喰らった鴉紋であったが、決死の形相のまま足を止めなかった。鴉紋の駆ける一筋の道が教徒の赤い血で染まっていく。
「セイルさん続きますよ! これ以上鴉紋さんにダメージを負わせる訳にもいきません!」
「うん! 鴉紋がぼろぼろになっちゃうよ!」
フロンスは途中教徒達の死骸を回収しながら鴉紋の後に続いた。




