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【悪逆の翼】  作者: のら
第三十一章 AETERNAM
237/533

第230話 Communio【聖体拝領唱】

【14.Communio】

(聖体拝領唱)


“Lux aeterna luceat eis, Domine:”

(主よ、彼等を永遠の光で照らしてください。)


 類稀なるフォルナの美声は、芯があって重厚であるのに、何処か軽やかに滑り出した。

 彼女のドレスに火が灯る。それでも彼女は焦る事もせず、持ち得る全ての技能を発揮して歌声を響かせ続けた。


“Cum Sanctis tuis in aeternum, quia pius es.”

(聖者たちとともに永遠に、貴方は慈悲深くあられるのですから。)


 全ては主君の勝利の為。より高尚なる楽想が、王の力になるが故。

 炎に燃えていく足に膝を着き、カルクスは血眼になってヴァイオリンの弦を力強く弾く。

 声楽家達が尊大なハーモニーを作り出す。


«“Lux aeterna luceat eis, Domine:”»

(主よ、彼等を永遠の光で照らしてください。)


 焼けていく全身に声も無く悶えながら、カルクスがピアノの鍵盤を叩く。

 ウェービーは体をくの字に曲げながら、手に持ったタクトだけを振り上げて動かし続けていた。

 残された奏者は熱波に巻かれながら、足下に転がった仲間たちを捨て置いて弾き続ける。


«“Cum Sanctis tuis in aeternum, quia pius es.”»

(聖者たちとともに永遠に、貴方は慈悲深くあられるのですから。)


「果てろ鴉紋、悪逆の魔よッ!!」


 ギルリートの闇が勢いを増して張り上がる。炎を押し退ける闇が空に爆発する!


「フッハハハハハ――!!」

「…………っ」


 押し潰されていく鴉紋。

 拳を突き合わせ、肉薄する互いの視線が混じり合った時――――


「な…………っ」


 ギルリートは――――

 地獄の底から迫り上がって来る業(・)火(・)を目撃する。


「――――っ!?」

「よくも痛め付けてくれたな……」


 接触する程の間近まで踏み込んで来た鴉紋の眼光が、ギルリートを覗く。


「俺の大切なロチアート(人間)をッ!!」

「ぅあ…………っ」

「グザファンの末裔をッ!!」


 ロチアートが虐げられて来た遥かなる時を超え、それは今!! 

 永劫の檻を抜け出して声を上げる!!


「オオオオオオアアアアアアアアガァアアアア――――――ッッッ!!!!」

「ナニ――――ッが?!」


 溜め込んで来た茫漠たる怒りが解き放たれる――

 叛逆の翼の背後には、空の果てまでも埋め尽くす程に、命尽きて来たロチアートや獣達の幻影が映り込んでいた。


「な、なんだ……コイツ等は――っ!」


 轟音。大地が共鳴しているかの如き凄まじき轟音が、鴉紋の背の十二枚の希望から噴き出していく!



    «Requiem aeternam»

     (永遠の安息を)



 同じくして地鳴りの様に低く垂れ込め始めた楽想。

 強引に頭上の打撃を押し返し始めた鴉紋の瞳で、灼熱の炎が、何処までも深い闇黒が滾る――!!


「俺の役目……オレの役割ッそんなモンはとっくに見えてんだッッ!!」

「ぐぅ…………が……ッ!」


 ここに到るまでに繋がれて来た命のバトン。

 鴉紋は彼女に声を届ける。

 二度と揺るがぬ決意の声を!


「もう迷わねぇ……もうッ二度と揺るがねぇッ!」


“dona eis,”

(彼らに与え、)


 命尽き果てながらに鎮魂歌(レクイエム)は続けられる。

 共に再現し、交互に、そして入り乱れながら。美しく、そしておどろおどろしくもある混声四部の四重唱を――


«Requiem aeternam»

(永遠の安息を)

“dona eis,Domine, ”

(主よ、彼らに与え、)

“dona eis,”

(彼らに与え、)


 鴉紋は左足の膝を着き、だが右足を地にめり込む程に踏ん張りながら、ギルリートの拳を下から突き上げていく。


「何処から……ッこの、下等生物共ッ!!」

「ォオアゥウガァラアアアアアアアァァァ――――ッッッ!!!」


«Requiem aeternam»

(永遠の安息を)

“dona eis,”

(彼らに与え、)

“dona eis,”

(彼らに与え、)


 爆裂的な闇のぶつかり合い。暗黒の最中で拳を押し返されたギルリートは、困惑して力(りき)を全開に上げる。


「ほざけ……負けられぬ理由があるのが貴様だけだとッ――思い上がるナァッ!!」


 暴力的な暗黒で鴉紋を沈めていくギルリート。


「――――ぅ!!」


 ――だが彼は、闇の隙間で赤く滾る眼光に竦む。


«Requiem aeternam»

(永遠の安息を)

“dona eis,”

(彼らに与え、)




「俺(・)の(・)野(・)望(・)は(・)、(・)赤(・)い(・)瞳(・)の(・)人(・)間(・)の(・)喰(・)わ(・)れ(・)る(・)事(・)の(・)無(・)い(・)世(・)界(・)」




 耳元で囁かれた冷たい悪の声音、そこに籠もる果てしの無い冷酷さにギルリートの背筋が冷える。


 そして十二枚の悪逆が、数多の幻影の手に推し進められるのをギルリートは見た――――


“dona eis,”

(彼らに与え、)

“dona eis,”

(彼らに与え、)


「その役割の為に! 俺はもう如何なる手段も厭(いと)わネェッ!!!」


 翼に身を推し進める憤激した鴉紋の拳が――――


「――あぐぅア――――ッ?!」


 ギルリートの拳を破壊して、前腕の骨を弾け飛ばしていた――!

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↑の☆☆☆☆☆を★★★★★にして頂けると意欲が湧きます。 続々とスピンオフ、続編展開中。 シリーズ化していますのでチェック宜しくお願い致します。 ブクマ、評価、レビュー、感想等お気軽に
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