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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第十一章】新たな闇落ちフラグが建設されました
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九話 安寧を踏みにじる者

「……それで、最重要機密とは何だ?」


 皆の足音が聞こえなくなるのを見計らって、俺はシドに向かって問いかける。シドはその場に留まったまま、俺を見上げながら話を続ける。


『スティリナの防衛、並びに迎撃の魔導機構の管理に関する事項。王には、それを確認して頂きたい』

「げ、迎撃?」

『対悪魔、対竜、対国。あらゆる敵を想定し、迎撃するための魔導機構です』

「ほっほーう? 俗に言う、攻撃は最大の防御ってやつですねぇ?」


 意味ありげに顎を擦りながら、フィアがうんうんと頷く。

 ……勇者は駄目なのに、悪魔の同席はいいのか。


「管理に関する事項とは?」

『スティリナは自国の守護を主としており、本来、迎撃の魔導機構……『魔導砲弾』は魔力の消費が大きいために使用不可。王の承認があった時のみ、他の魔導機構を一時停止し、限定的に使用が可能となる代物です。しかし現状、多くの魔導機構が停止しており、溢れた魔力を集め保存するために魔導砲弾へ充填しています』


 そう説明しながら、シドがプロジェクションマッピングを地図から切り替えた。

 よくわからないが、何かの仕組み……恐らくはその魔導砲弾とやらの図形だろう。真ん中のメーターが、魔力の充填状況を示しているのは理解した。

 で、そのメーターによると……魔力は九割近く溜まっているようだが。


「この魔導砲弾って、魔力が満タンにならないと撃てないんですか?」

『否。これは充填出来る魔力量を示しているのみ。王の判断で、最大千発まで分割、発射可能。ちなみに、現状の魔力量で魔導砲弾を発射した場合の射程データはこちらになります』


 プロジェクションマッピングが地図に切り替わる。しかし今度の地図はスティリナではなく、世界地図だった。

 矢印と丸で示されたデータを見る……背筋が冷たくなった。


「うーん、よくわかんないですねぇ。つまり、どこまで届いて、どれくらいの威力があるんですか?」

『計算上では世界中のどこまでも届き、国一つ分の大地を跡形もなく塵にすることが可能。しかし完成から一度も使用していないため、実際の誤差がどれ程になるか不明』

「へー、面白そう! ヴァリシュさん、ちょっと試し撃ちしてみましょうよ」

「誰がするか!!」


 目をキラッキラに輝かせ、試し撃ちをせがんでくるフィアにチョップを打ち込みつつ。もう一度、プロジェクションマッピングを眺める。

 デイルが言っていた魔法兵器とやらは、この魔導砲弾で間違いないだろう。思っていたものよりも、百倍はエグいが。


『現時点で、魔導砲弾の管理権限も王に譲渡されました。今後、何か思うことがあれば、いつでも発射可能』

「いや……それは、ちょっと」

『以上が、あなたに引き継がれたスティリナの遺産の全てです。他にも停止した魔導機構はいくつかありますが、詳細は必要な際に参照してください』


 まだまだ色々ありそうだが、主だったものはこれで全部らしい。

 ある程度は想像していたものの、どれもこれもが圧倒的に凄かった。凄すぎて、俺では完全に持て余してしまう。

 だから、シドには言っておかなければならない。


「シド。お前には言っておきたいんだが、俺はこの国……スティリナの王になるつもりはない。というか、無理だ」

『何故?』

「王とは国民を護り、国民から信頼されてこそ成り立つ者。国民が居ない以上、俺が王になることは不可能だ。そして仮に国民が居たとしても、国を纏めることなんて無理だ。俺は王だなんて立派な器じゃない。騎士団長という立場であってさえ、部下に振り回される毎日だからな」


 俺は知っている。孤児である俺を拾ってくれて、ここまで面倒を見てくれた陛下がどういう人であるかを。

 大きくて、優しくて。それでいて国の行く末を見定め、時に厳しい判断でも下せる人。王はそうでなくてはならない。

 でも、スティリナをこのまま放っておくことも出来ない。魔導砲弾などという物騒な代物があるなら、尚更だ。


「スティリナのことを放置する気もないんだ。スティリナを国として復興させるつもりはないが、可能ならば管理者としてこの国を任せて貰いたい」

「管理者って、具体的には何をするんですか?」

「とりあえずは現状維持だな。この国の存在を徹底的に秘匿しながら、魔導機構を安定させる。魔導砲弾に関しては、情報が流れたらそれだけで争いの火種になりかねないから出来れば解体したいところだが」

「えー、勿体ないですねー」


 ぶーぶー、と唇を尖らせるフィアは置いておくとして。俺は一度下に降りて、シドの前に立つ。


「これが、今の俺に出来る全てだ。スティリナの事情は理解しているが、かと言ってオルディーネから離れることは出来ない。あの国には拾って貰った恩があるし、大切な人たちも居る。せめて騎士団長を引き継げる状態にしてからじゃないと、離れることは無理だ」


 俺がオルディーネに返せる恩など、大して多くはない。だからこそ、蔑ろにしたくはない。

 俺の中では、たとえスティリナが本当の故郷であろうとも、オルディーネの方が優先順位が上になる。それだけはシドに言っておきたかった。

 表情が変わらないから、彼が何を考えているのかわからない。何をしでかすかもわからないから、思わず身構えてしまったが。


『……御意。王が望むならば、そのように』

「え、いいのか? 意外とあっさりしているな」


 デイル達がしつこかったから、シドも食い下がってくるかと覚悟していたのだが。


『我はスティリナの守護者。守護を司ることはすれど、復興に関する権限はありません。何より、この国を復興することは計算上不可能。移民を受け入れることは可能、しかしそれは、もはや元のスティリナとは別物』

「ならば、どうして俺を王と呼ぶんだ?」

『我は守護者であり、あなたは王の血を継ぐ方。ならば、あなたは我が護るべき対象。しかしあなたには、他に護るべきものがある。それを奪う権限は我には無い。ゆえに守護者としてあなたを護るには、この国の遺産をあなたに譲渡すべきと判断しました』


 スティリナは既に滅亡した国であることを、シドは理解している。それでも彼はスティリナを護るために生み出された存在であり、どのような形になっても、己に与えられた役割を果たすように出来ているのだろう。

 人工的な声が、少しだけ寂しげに聞こえるのは気のせいではないのだろう。


『我はあなたを王として、これからも仕える所存。あなたは、あなたのすべきことを全うしてください』

「シド……ありがとう」

「むむむ、なんだか綺麗に纏まったようですが……勿体ないですねー。もっと有意義に活用しましょうよぉ。この国の力があれば人間を支配することも、お菓子を山ほど作ってその中で溺れることも出来るんですよ?」


 フィアが不満顔で、上から俺とシドを見下ろしている。シドが何か言いたげに俺を見てくるが、もちろん支配や菓子などにこの国を利用するつもりはない。

 そうだ。もう二度と、スティリナを争いの火種などにはしない。スティリナの力を悪用されないように護っていくことが、俺がリーリス……管理者として出来ることだから。


 ――そんな決意は、呆気なく第三者に踏みにじられた。


「うん、確かにそうだ。嫉妬の悪魔、お前の言い分に同意するよ」

「お、わかってくれますか。ですよねー……え?」

「それにしても驚いた、まだスティリナの血族が生き残っていたとはね。人間というものは脆くもしぶとい」


 くすくすと聞き慣れない声に、その場に居た全員が扉の方を振り向き身構える。皆が出て行った時に、そのまま開けっ放しにしていたのが悪かった。

 いや、違う。この城は建材や造形の影響で割と音が響きやすい。足跡一つでも結構目立つ。それなのに、闖入者の足跡なんか聞こえなかった。

 薄い唇が、ふっと嗤う。裾の長い黒のローブと、目深に被ったフードのせいで相手が何者であるか探ることすら出来ない。

 唯一、落ち着いた深い声は男のものだが。その声の持ち主に心当たりはない。


 ――ただ、俺は知っている。


「おや、お前は……そうか、スティリナの血族だったか」

『データ照合、該当なし。侵入者と判断、直ちに退去せよ。さもなくば――ぐあァッ!?』


 俺とシド、二人揃って剣を抜く隙を与えられなかった。瞬きよりも速く、黒ローブの男の腕から鋭い斬撃が放たれる。

 しまった! 相手の狙いがわかるも、遅すぎた。


「シド!? 大丈夫か、シド!」

『ガッ、ァ……全身の損傷甚大。機能、停止……』

「やれやれ、本当に耳障りな声だな」

「ヴァリシュさん!? 大丈夫ですか!」


 床に崩れたシドの元に駆け寄り、膝をつき咄嗟に起き上がらせようと彼の手を掴む。フィアも降りてきて、真っ青な顔で俺の隣に立った。

 シドはスティリナの叡智の結晶。人とは違い、寿命という概念はない。

 でも、だからといって不死身というわけではない。永遠というわけではない。


 無残に両断された鎧姿の守護者。俺の声に答える前に、彼の目から光が失われた。



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