八話 信頼と尊敬出来る仲間達だ。本当にそう思っている、嘘じゃないぞ。
「色々と見て回りたいところだが、この調子で行くと日が暮れるので、先に用事を済ませてしまおう。リネットも、それでいいだろう? 複製器は働いた後の報酬として使わせてやる」
「うう……わかったわよ」
「さり気なく地図を懐に入れたくせに、よく何食わぬ顔で言えますね」
「さて、と。シド、魔導機構の修繕とやらはどうすればいいんだ?」
じーっと見てくるフィアから目を逸らし、俺はシドを見る。彼は無条件で俺の味方なので、何か咎めることなく目をチカチカと光らせる。
『守護者である我から指示することも可能。しかし、王たちはスティリナの地理を把握していないと判断。ゆえにまずは、謁見の間へ』
こちらへ。シドの後を追って、研究所を出て再び城内へと戻る。そして階段を上り、大きな扉を開いて謁見の間へと足を踏み入れる。
無意識にオルディーネ王国の謁見の間をイメージしてしまったが、全くの別物だった。
「うわー……! 何これ凄い、カッコいい!」
「え、あれが玉座ですか? 随分高いと言いますか……それに、凄く広いですね」
リネットが駆け回り、マリアンが玉座を見上げる。マリアンの言う通り、玉座の位置がかなり高い。オルディーネの玉座が三段ほど高い位置に設置されているのに対して、スティリナの玉座は三メートル以上高い位置にある。
両脇に階段があり、そこからしか登れないようになっている。謁見の間というよりも、SFロボットアニメとかで出てくる司令室っぽい。ここの壁や天井も断続的に点滅しているので、尚更そう見えてしまう。
『王、玉座の背もたれに窪みがあります。そこに指輪をはめ込んでください』
「わ、わかった……って、お前は行かないのか?」
『我は守護者。平時である今、玉座まで上がれるのは王族のみ』
「ええ……俺一人であそこまで行けと?」
もう国としての機能は失くしたとはいえ、王族だけなんて言われてしまうと、何だかとても行き難い。今度は何が起こるのか、と皆がじっと俺を見てくるし。
そもそも王族の自覚なんてないし! こうなってしまっては、人数を増やしたのは失敗だったかもしれない。
そう心の中で愚痴っていると、おもむろにフィアが俺の手を掴んだ。
「どうしたんですか、ヴァリシュさん。お顔、引きつってますけど。まさか、高所恐怖症だったりするんですかぁー?」
「そんなわけあるか」
「ですよねっ。じゃあ一緒に行きましょ!」
「は? なんでお前まで……こ、こら引っ張るな!」
フィアにぐいぐいと引っ張られるがまま、俺たちは階段を上がって玉座の前に立った。
シドのやつ、王族だけと言っていたくせに。フィアはいいのだろうか。文句を言ってくる様子もないから、いいことにしよう。
「へえ、これがこの国の玉座ですかぁ。オルディーネの金ピカ玉座とは違って真っ黒……地味ですね! でも、座り心地は良さそうです」
「ああ。何だかゲーミングチェアみたいだ」
「あ、窪みってこれですかね? ヴァリシュさん、指輪をはめ込んでみてくださいよ」
フィアが指をさす。そこには確かに、指輪をはめ込めるくらいの大きさの窪みがあった。
何が起こるのか全くわからないので、あまり気が進まないのだが。早く早く、とフィアが急かしてくるので、腹を括って俺は指輪を窪みにはめ込む。
すると、けたたましい警報音と共に、城内の空気が震えた。
「な、何だ? 何が起こったんだ?」
『ジェレマイア城、再起動開始。再起動完了。魔導機構のスキャニングを開始し、並びに守護者との内蔵記録の同期を開始します』
頭上で響く女性の声。しかしそれは人のものではなく、シドと同じ人工音声だ。
うーん、これはあれだな。ゲームでスティリナがボツになったのは、スティリナが世界観からあまりにかけ離れていたからなのかもしれない。
『スキャニング、並びに同期を完了。新たなリーリス、ヴァリシュ・リーリス・スティリナの生体情報の登録を確認』
「あれ、なんか勝手に登録されてないか?」
『これであなたがリーリス、スティリナの王として登録されました。以降、魔導機構を使用、もしくは起動、停止する時などはその場で命じてください』
「命じて……ええっと、つまりあれか。AIアシスタントに話しかける、みたいな感じでいいんだな?」
誰も肯定してくれないが、多分そんな感じで正解だと思う。
間違ってたら相当恥ずかしいけど、もうここまで来たらどうにでもなれ!
「えっと……では、スティリナの機能を最低限に保つために、修繕が必要な魔導機構を教えてくれ」
『御意。前方をご覧ください』
人工音声の言う通りに、前を見る。すると頭上から強い光が伸びて、壁に映像を映し出した。
なるほど、プロジェクションマッピングか。確かに、これなら口頭で説明されるよりもわかりやすい。
「わ、凄い! これ、スティリナの地図?」
「ところどころ青と赤と灰色の点があるけど、これは何だ?」
『青が現在稼働中の魔導機構です。灰色は停止中、赤は修繕が必要なものを示しております。スティリナの機能を回復させるために必要な魔導機構は、二つです』
ラスターの疑問に、人工音声がすかさず答える。指示を受け付けるのはリーリスの特権だが、質疑応答は誰でも可能らしい。
『一つは防壁です。魔物の破壊行為により、麓付近の出力装置が破損。部品の交換が必要です』
「ラスターくん。そういえば麓の入り口に、ボロボロになったモニュメントがあったよね?」
「確かに、魔物がガリガリ齧ってたような」
『もう一つは治水の魔導機構です。こちらは堆積した不要物の除去、並びに部品の交換が必要です』
「つまり、部品交換だけではなくお掃除も必要なんですね? 自分、お掃除は好きです、お任せください!」
それぞれ何やら思うことがあるようで。纏めると、修繕が必要なのは二箇所。それさえ直してしまえれば、とりあえず魔力を制御することは可能になるとのこと。
しかも、修繕自体は大して難しくもない。予備の部品は保管室にあるので、それと壊れたものを交換すればいいだけだと人工音声は言った。
「ヴァリシュ、麓の方はオレとリアーヌで直してくるぜ。あの辺りは雪が多いし魔物が多いから、リネット達には任せられねぇし」
「うんうん、任せて」
「じゃあ、アタシとシズナは治水の方に行こう。あの辺、川や森があって素材がいっぱい採れそうだし!」
「ふ、ふふふ。雪まみれになるくらいなら、ゴミだらけになった方が数倍マシね」
「行きます! ピッカピカにしてみせます!」
「ふむふむ。寒いのはイヤですが、お掃除も面倒ですねぇ。ヴァリシュさん、私たちはどちらに行きますか?」
「そうだな……」
なぜフィアが俺にくっついてくる気満々なのかわからんが、それぞれ違った大変さがありそうだ。
だが、俺が悩むよりも先に、シドが割って入る。
『王、あなたにはもう一つお話したいことが』
「うん? 何だ」
『スティリナの最重要機密ゆえ、勇者が居る前では不可』
「って、またかよ。まあ、いいや。とりあえず、麓の魔導機構を直してくるぜ。信用を回復させるには雑用から、だもんな」
「アタシ達もパパッと行って終わらせてこよう。複製器を試す時間が無くなっちゃう前に!」
それぞれが地図と魔導機構の位置を覚え、謁見の間を出て行った。
ううむ、なかなかいいチームワークだ。流石、頼れる仲間たちである。