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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第十一章】新たな闇落ちフラグが建設されました
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七話 勇者御用達のあの便利アイテムをゲットだぜ!

 だが、城内に足を踏み入れた瞬間、俺たちは言葉を失った。


「な……なに、これ」


 勇敢にも、最初に声を出したのはリネットだった。それも、いつも快活な彼女らしくない、絞り出すようなか細い声で。

 無理もない。なぜならこの城は本来、この世界には存在する筈がなかったのだから。


「え、ええ!? 何ですか、ここ! 壁や天井が点滅しています!」

「それに、床には大きな歯車がいっぱいだよ! こんな大掛かりな仕掛け、見たことない……」

『ここは王の居城、ジェレマイア城である。スティリナの叡智の結晶であり、あらゆる魔導機構の核』


 シドに案内されたそこは、ありえない光景だった。この世界はいわゆる、剣と魔法のファンタジーに分類されるもの。それなのにまさか、こんな機械仕掛けの国が存在していたとは。

 思えば最初にシドに会った時も、リーリスの指輪が入っていた箱もそうだった。スティリナの技術は、機械と魔法を組み合わせたもの。ただの機械と違うところは、これらが電気やガソリンではなく、魔力を燃料として動いている点くらいだろう。

 シドが定期的に整備していたおかげなのだろうが、国民が居なくなってから何十年も経っているのに今もまだ動いているとは。この目で見ても、夢か幻のように思ってしまう。


 技術力だけで言えば、間違いなくスティリナはこの世界に存在するどの国よりも高い。それも、圧倒的に。


「ここは……本当に、城なのか? なんか、人が住めるような場所には見えねえんだけど」

『王族の住まいは上層である。この階は魔導研究所を備えているゆえ、過度な装飾は不要』


 無骨とも言える城内。寒々しい景観に自分の腕を擦るラスターに、シドが当然のように答える。

 魔導研究所。王が居る城に研究所があるというのは驚きだが、その単語はリネットの探究心に火を点けてしまった。


「研究所!? ううー、もうアタシ我慢出来ない! お願いシドさん、ちょびっとでいいからスティリナの魔導技術を見せて!」

『む、しかしそれは……』

「お願い! この通り、一生のお願い!!」


 お願いお願い! 足にしがみついてねだってくるリネットに、シドが俺を見てきた。助けを求めているのか、それとも研究所を見せるかどうかの判断を委ねているのか。街路樹にしがみつくセミっぽい、と思っているかもしれないし。無表情とは難儀なものだ。

 ……でも、確かに魔導研究所というのは気になる。


「研究所か、俺も見てみたいな。シド、案内してくれないか?」

『御意。しかし先程も申したように、稼働している魔導機構は限られているために、最低限のものしかお見せ出来ませんが』


 リネットをペリッと剥がし、城内を西側へと進むシド。俺たちもついて行くと、突き当たりにある両開きの扉を開けて中へと入った。


 一瞬、俺は前世に戻ってきたのかと錯覚してしまった。


「わあ……何ここ、凄い! ねえヴァリシュ、ここ凄いわね! 面白そうなものいっぱいだわ!」

「あ、ああ……凄いな、確かに」

 

 勝手に学校の理科室のようなものを想像してしまったが、実物は想像を遥かに凌ぐ代物だった。

 奥が見えない程の、広大な空間。室内でこれだけの空間が続いているのも驚きだが、そこに数え切れないほどの部屋が敷き詰められているのも圧巻だ。

 昔はここで、何人もの研究員が仕事をしていたのだろう。残念ながら、うっすらと埃っぽい暗闇が支配するこの空間は既に役目を終えている。

 多くの魔導機構は、シドが言うように停止しているらしい。


『本来であれば、研究所内の魔導機構を我が使用することは不可能。しかしスティリナの守護者として、こちらの『アイテム複製器』のみ特例として使用』

「アイテム複製器?」

『台に置かれたアイテムを解析、魔力を物質化し全く同じものを瞬時に複製します。食料、武器、爆弾等種類は問わず』

「何それ絶対に面白いヤツじゃない! 見せて! お願い!」

『王が居る以上、現時点での使用権限は王のみ』

「何ですって! じゃあ……」


 リネットだけではなく、全員の目が俺に集まる。今更だがシドのやつ、面倒ごとをもっともらしい理由で俺に丸投げしてないか?

 でも、確かに面白そうではある。どんなものでも複製出来るなら、この世界でただ一つしかない貴重アイテムでも可能なのだろうか。

 ……そういえば、丁度いいのがあるじゃないか。


「よし、ラスター。お前が持ってるオリンドの地図を貸してくれ。それで実験しよう」

「い、いいけど……信用出来るのか、こんな怪しい代物。地図が駄目になったらどうするんだ?」

「今はシズナも居るんだから、問題ないだろ。地図が燃えようが濡れようが、俺は何も困らない」

「オレが困るんだよ!」


 ぎゃんぎゃんとやかましいラスターから地図をひったくり、シドの指示通りに地図を台座に置いた。

 台座には魔法陣、もしくは電子回路のような模様が描いてあり、地図を置いた途端に眩しく光り始めた。

 そういえば、コピー機ってこんな感じだったな。今となっては懐かしい記憶だ。


『解析結果、複製可能。魔力の物質化成功、オリンドの地図へと構成中……複製完了』

「え、もう出来たのか?」


 シドが頷くので、台座の隣にある円柱状のポッドの蓋を開いてみる。そこには確かに、オリンドの地図と全く同じものが入っていた。元の方はまだ台座に置いてある。

 恐る恐る手にとって、元の方と比べてみる。地図自体もそうだが、シミや折り目も元の方とそっくりそのままだ。


「……出来たな、本当に」

「確かに見た目はそっくりだな。でも、流石に移動することは不可能なんじゃね?」

「じゃあ、試しにやってみよう」

「え、ちょっと待――」


 ラスターが止めるよりも先に、俺は地図上に記されたオルディーネ王国へと指先で触れた。いや、俺としても見た目を似せるだけで限界だろう、とは思ったのだが。


 期待はことごとく裏切られ、視界が暗転した――


 ※


「――いたッ、いったぁ!?」

「うわあ! な、なんだ!?」 


 突然謎の浮遊感に襲われたかと思ったのも束の間、瞬きするよりも先に尻餅を床へ強かに腰を打ち付けた。落ちた、と言うべきだろう。

 今までラスターに任せきりだったから、知らなかった。これ……結構難しいんだな。


「え、え? ヴァリシュ様、ですか?」

「む、この声は……アレンスか?」


 腰を擦りながら、目の前の机に手をついて立ち上がる。信じられないことに、ここはもうスティリナではない。と言うことは、複製したオリンドの地図でもワープは可能になってしまったのだ。

 ちなみに、ここは見慣れた俺の執務室だ。アレンスが居たのは、しばらく彼に留守を任せていたからだろう。彼としては、まさか出掛けている筈の俺が急に湧いて出てくるとは考えもしなかっただろうから、上司に対して悲鳴を上げたことはお咎めなしにしてやろう。

 ……だが、


「アレンス……お前、そんなに菓子が好きだったのか?」

「え、いや! こここ、これはその!!」


 俺の机で仕事をしていたのはいいとして、書類の隣にクッキーが缶のままで置いてあるのは一体何なのか。しかも、もう半分も残っていないし。なんなら書類仕事をしているくせに、握ってるのはペンじゃなくてクッキーだ。

 ううむ、知らなかった。アレンスが甘党だったとは。今まで俺が菓子を作っても、積極的に食べようとはしなかったような。いや、大抵フィアやリネットが遠慮なしにボリボリ食うから、手が出しにくかったのかもしれない。


「驚かせて悪かったな、アレンス。それから、今度はお前にも食べて貰えるように菓子は多めに作るようにする」

「……ありがとうございます」


 顔を真っ赤にするアレンスに約束して、俺は再びオリンドの地図を広げて、魔導帝国スティリナへと戻った。


 ※


「イケメンは二度も尻餅なんかつかない!」

「あ、戻ってきた」


 今度は気合を入れて踏ん張り、なんとか着地に成功した。ついでにスティリナへのワープも成功だった。


「どこに行ってたんですか、ヴァリシュさん? ちゃんと目的地まで行けましたか?」

「オルディーネまで行ってきた。ちゃんと俺の執務室まで行けたぞ。アレンスがクッキー缶を独り占めしていた」

「え、アレンス様ってお菓子好きだったんですか?」

「そのようだ。何はともあれ凄いな。これはいいものだ。ありがとう、シド」

『お褒めに預かり光栄です』

「だが……凄いとはいえ、乱用するのは危険だな」


 感動しながらも、同時に俺は恐ろしく思う。この複製器はとても便利ではあるが、使い方によっては危険にもなり得る代物だ。

 例えば、リネットが作った薬や高性能な爆弾。もしくは金や宝石。それらを複製すれば、戦争も富も思いのままだ。


「シド、お前はこの複製器を今までどのように使っていたんだ?」

『我が剣の予備を作成するために二度ほど。それから、他の魔導機構の部品などの予備を作成するために何度か』

「ふむ、それくらいならいいか。しかし今後は俺とシド、二人の許可が下りたものだけを複製することにしよう」

『承知。使用権限並びに使用条件に追記します』

「ずるいずるい! ねえ、アタシも試したいぃ!」


 ずるい! と喚くリネットと、彼女を宥めるリアーヌとマリアン。これ以上彼女の探究心に付き合っていたら日が暮れるので、他の用事が済むまで我慢して貰うしかない。

 ちなみに、偶然にも手に入れてしまった複製版オリンドの地図は、このまま俺がちゃっかり頂いてしまうことにした。ラッキー、というやつだ。

 


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