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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第九章】 働き方改革その二とヒロイン達の攻防
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一話 俺が何をしたと言うんだ!

 謎めいたスティリナ神殿から帰還して、二週間が経った。あの場所の真実が気にはなるが、俺は色々と忙しい。というのも、そろそろ騎士団員募集をかける時期だからだ。

 ラスターが悪魔王を倒したとはいえ、悪魔の残党はまだ多く存在する。そして、アスファの襲撃という事件があったことから、今年は騎士団員を増員することになった。

 その為の準備がとにかく大変で、今は休んでいる場合ではない筈なのだが――


「ヴァリシュさん、あのドーナツ美味しそうです! 買ってください!」

「お前……まだ食べる気か」


 人通りが多い市場で、目敏く美味しそうな食べ物を見つけてはぐいぐいと腕を引っ張るフィアに、俺の方が満腹になってきた。働き詰めな俺にアレンスが休むように言ってきたので休みをとったのだが、「最近ヴァリシュさんが構ってくれなーい! ひどいひどい! 仕事と私、どっちが大切なんですかっ」とフィアが騒ぎ出したので、今日は二人で出掛けることになったのだ。


「えー? まだ焼き鳥とイカ飯とチーズケーキとみたらし団子と味噌田楽しか食べてないですよぉ」

「その全部を払わされている俺の身にもなって欲しいんだが。いや、それよりも食い合わせが酷い。また気持ち悪くなっても知らんぞ」

「今日は大丈夫ですよーだ。ていうかヴァリシュさん、テンション低くないですか? こーんなに可愛い女の子とデートなんですから、もっとウキウキしてくださいよっ」


 買ってやったドーナツを受け取りつつ、フィアが頬を膨らました。今日の彼女は鳩ではなく、人間に擬態した姿だ。翼を隠して歩いているだけだが、誰もフィアが悪魔だとは気づいていないらしい。

 デート、か。最初はその単語に特に何も思わなかったが、何だかだんだん恥ずかしくなってきた。というのも、出かける時はフィアが満足するまで食べ物を与えつつ、ついでに買い物でもすれば良いかと思っていたのだが。


「……なあ、あれってヴァリシュ様だよな。騎士団長の」

「あ、本当だ。何あの女の子、超可愛いじゃん! 彼女かな?」

「ええ、ヴァリシュ様に彼女が居たなんて……ショック」

「ロスだわ、これはヴァリシュ様ロスよ! もう今日は仕事できない、帰る……」


 などなど、周りが言いたい放題である。なんか、前にも似たようなことあったな。あれは悪口だったが、悪意じゃない方がなんかぞわぞわする。

 いや、女性達に黄色い声でキャーキャー言われるのは前世むかしからの憧れだったが。もう少し優越感があると思いきや、羞恥心の方が遥かに強い。動物園のパンダにでもなった気分だ。

 ああ、今すぐ帰りたくなってきた。久しぶりにじっくりノベルゲームとかしたい。無いけど。


「あ、もしかして、ヴァリシュさんってば緊張してますね? むっふふ。こんなに美人で可愛い女の子とのデートですからね、緊張するのも仕方がないですけどー」


 俺の腕に抱き付きながら、フィアがむふむふと気味の悪い笑顔を向けてきた。こいつ、俺が他人の声で身悶えているのが楽しくて仕方ないらしい。唇の端にドーナツの欠片をくっつけながら美人などと、どの口が言うんだ?

 ……まあ、でも。容姿云々は関係なく、女性とデートというのは確かにプレッシャーがあるからな。女性に楽しんで貰えないと想像するだけで、男としてのプライドがズタボロになる。

 だが、フィアは美味い食べ物があれば、にこにこと嬉しそうに笑ってくれるからな。お前が隣に居ても変に取り繕う必要がなくてとてもラクだし、意外な発見も多くて意外と楽しい。


「ふむ、改めて考えるとお前とのデートも悪くないな」

「へ?」

「それにしても、そのドーナツは美味そうだな」


 フィアの唇についてた欠片を指で摘むと、味見がてらそのまま自分で食べてみた。ふむ、結構美味い。帰りに留守番をしてくれたアレンスやマリアンに買って帰ろう。

 

「な、ななな……」

「うん? なんだ。顔が赤いぞ……って」


 ふと見ると、フィアが顔面を耳まで真っ赤にさせて口をパクパクさせていた。金魚っぽいなと暢気に構えていたが、何やら周りの様子までおかしい。

 ドーナツ屋の店主が唖然としながら俺とフィアを見比べていたり、近くを通りかかった女性三人組が口元を隠して震えていたり、後ろに居たおばさんが目をギラギラさせていたり。

 今までの騒々しさはどこへやら、しんと静まり返った市場の空気が不気味すぎる。


「え、えっと」

「ヴァリシュさんのえっち! 女たらしー!!」


 ぎゃんっ! と喚き始めたフィアに思わずぎょっとした。こいつ、何とんでもないことを大声で叫んでいる。しかも、こんな人混みで!

 せっかくこれまでの努力で評判が回復したというのに、また変な噂が立ったらどうする――


「ひゃああ! 聞いた、今の聞いた? 潔癖だと名高いヴァリシュ様が、あの女の子にあんなことを言うなんて!」

「聞いたわ、ばっちり聞いたわ。尊い、今ここで墓が建ちそう」

「リア充見せつけられてアレルギー出そう。でも、幸せならオッケーです!」

「ほほほ。お似合いなカップル成分が摂取出来て、おばさん若返りそう」


 きゃあきゃあと、市場中が色めき立つ。なぜだ、どうしてそんな反応が返ってくるんだ!? そんなに変なことは言ってないつもりだが。ひゅー! と陽気に囃し立てる口笛まで聞こえてくる。


「い、いいい行きますよヴァリシュさん!」

「は!? 行くって、どこに」

「とにかく行きましょう! 私、食べ合わせが酷かったのか気持ち悪くなってきちゃったのでっ。出来るだけ人間達が居ない場所で、お説教させて頂きます!」


 ぐいぐいとフィアに腕を引っ張られて、俺達は市場を後にした。気持ち悪いと言いながら、残っていたドーナツをバクバク食べ進める姿には謎としか思えなかった。

 

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