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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【第二章】異世界での働き方改革
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七話 悪魔な彼女との日常

「ヴァリシュさんって、結構女たらしですよねー?」


 夕方。仕事を終えた後で夕食の支度をしていると、ソファに腰掛けながら不満そうに足を揺らすフィアにそんなことを言われた。

 一体何のことやら。無視したいところだが、それはそれで更に機嫌を損ねて面倒なことになりそうなので諦めよう。


「全く身に覚えがないことを言われてもな。というより、働かざる者食うべからず、という言葉を知らないのか? 少しは手伝え」

「いーやーです! 料理なんてしたことありませんし、手に傷がついちゃったらどうするんですかっ」


 フィアがぷいっと顔を背ける。今までだったらそれで終わっていたが、一週間以上同居状態なのだから流石に色々慣れてきた。


「そうか、残念だ。俺は可愛い恋人に手料理なんて作られたら確実に落ちる自信があるんだがな」

「やります! 何をすれば良いですか!?」


 びゅん、と風を切って隣に立つフィア。単純すぎる。ちなみに、今日のメニューはシチューだ。


「そうだな、ナイフを使ったことはあるか?」

「見たことはあります!」

「それなら、ジャガイモの皮を剥く係に任命しよう」


 予備のナイフとジャガイモを渡して、剥き方を教えてやる。覚束無い手付きながら、フィアが見よう見まねで格闘し始める。


「むぐぐ……これ、このままじゃダメなんですかぁ? 皮も食べられますよねぇ」

「食べられないこともないが、このジャガイモは皮が分厚いからな。ちゃんと芽も取れよ、俺が死ぬ」

「む、それは困ります。ヴァリシュさんを神に横取りされるなんて耐えられません……ってちがーう! 話をそらさないでください!」


 きい、と声を荒げる彼女にやれやれと呆れる。駄目だったか。


「そういうところですよ! そういう、女子を勘違いさせる言動がたらしって言ってるんです! 私以外の女に優しくしないでくださいっ」

「なぜお前の言うことを聞かなければならないんだ? もう何度目か忘れたが、俺はお前と契約する気はない。気に入らないなら、大人しく悪魔の国に帰れ」

「うー……」


 完全に言い包められ、しょんぼりとするフィアを見やる。それにしても、俺が知るフィアと隣に居る彼女は別人ではないかと思う程に違う。

 記憶の中のフィアだったら、俺を洗脳してでも契約させてラスターを陥れようとしたことだろう。


「……そもそも、お前はこんなところで油を売っていて良いのか?」

「ほえ? どういう意味ですか?」

「いや、今頃お前の仲間達がラスターに倒されていてもおかしくはないと思ってな。邪魔しに行かなくても良いのかと思って」


 オルディーネ王国だけを見るなら、とても平和で人の出入りも変わらない。何も起きていないように見えるが、ラスターは勇者として今もどこかで悪魔と戦っている筈なのだが。

 インターネットが存在しないこの世界では、戦況がどうなっているのか知ることが出来ない。街を見回るついでに、出来るだけ情報を集めようとはしているのだが。


「うーん、別にどうでも良いですね。私は悪魔が勝とうが人間が勝とうが、どっちでも良いんで」


 ジャガイモの皮を剥きながら、フィアがしれっと言う。楕円形だったジャガイモがかなりカクカクし始めたが、まあ及第点だろう。


「随分冷めているじゃないか。ラスターが悪魔の王に勝ったら、お前達は根絶やしにされるというのに」

「私は自分さえ良ければ満足なので。たとえ悪魔王さまが負けたとしても、私一人ならどうにでもなります」


 淡々と話を続ける彼女に、思わず手を止める。おかしいな、確かにフィアという悪魔は飄々としたところがあって自分の目的以外はどこ吹く風と言った様子ではあったが。基本的にはラスターのことを嫌っていて、彼を貶めようとあれこれ悪事を働いていたのに。

 参ったな、変にこの世界の知識があるせいで混乱しそうだ。


「というわけで、私は悪魔がどうなろうが知ったことではありませんので。ずっと一緒に居ますよ、ヴァリシュさん! あ、悪魔が勝ったら悪魔の国で一緒に暮らしましょうね! オマケで百人のパティシエも付いてきますよ?」

「ここまで嬉しくない誘いもなかなか無いぞ」


 とりあえず、彼女は今のところ人間に害を与えるつもりはないらしい。信用して良いものかは微妙だが。

 いや、信用してはいけない筈だ。何をほだされようとしているんだ。悪魔だぞ、こいつは。


「出来ました! どうですか、ヴァリシュさん? キレイに剥けましたよ、褒めてくださいっ」


 元の大きさから二周りくらい小さくなったジャガイモを掲げながら、じいっと上目遣いしてくるフィア。まあ、とりあえず今はこのままで良いか。なんて考えてしまう自分に、俺は重々しいため息を吐くしかなかった。

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