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美形悪役に生まれ変わった俺が、英雄になるまで  作者: 風嵐むげん
【プロローグ】闇堕ちキャラは結構な確率で美形である
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一話 初っ端から間一髪!

 最初は、同じ場所に立っていた筈だった。


 それなのに、背の高さで抜かされて。体力や腕力で圧倒されて。周りから信頼を勝ち取り、どんどん先を行く親友に追い付けなくなって。いつの間にか、『勇者』になったあいつの影に追いやられて。

 凡才だと嗤う人々。腫れ物のように扱う陛下。そんな俺が、親友に恨みを抱くようになるのは仕方のないことだった。


「どうですか、ヴァリシュさん。今まで受けた屈辱を思い出しましたか?」


 勝手に部屋に入ってきて、くすくすと嗤いながら女が言った。ふわふわとウェーブがかった黒髪に、金色の瞳。細長い瞳孔も相俟ってまるで猫のような女だ。

 いや、そもそも人ではない。背中でゆったりと羽ばたくコウモリのような翼は、敵対種族である『悪魔』である証拠だ。

 人間を脅かし、あるいはそそのかして支配を企む悪しき者達。彼女も見るからに、人間を誘惑して堕落させそうな姿をしている。普段なら、悪魔なんて話をするどころか近付くことすら拒絶して斬り捨てるところなのだが。

 だが、もはや悪魔と契約してでも成し遂げたい目的が出来てしまった。


「貴様と契約すれば、本当に勇者であるあいつに復讐する力が手に入るんだな?」

「ええ。勇者さんだけではなく、あなたを蔑ろにした全員に復讐することも可能です。何なら、悪魔王に代わってこの世界を支配することも。ヴァリシュ・グレンフェルさん、あなたにはそれを成すだけの力があります」


 俺のことを見下し、おとしめた親友に復讐を果たす。あいつにひざまずかせ、泣いて許しを請う姿を嘲笑ってから殺してやるのだ。これこそが、我が悲願。

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「……ん? 闇堕ちキャラ?」


 不意に脳裏に過った三文字。何だ、闇堕ちキャラとは。微妙にオタクっぽい響きというか、自分で言っちゃぶち壊しというか。いや、そんなことを気にしている場合ではないのだが。不思議と気になってしまう。

 闇堕ちとは、一体。そこまで考えた瞬間、こめかみに鋭い痛みが走った。


「うぐ、あ……頭、が……」

「え、え? 大丈夫、ですか? 私、まだ何もしてませんよー?」


 楽しくお話ししていただけですよー! 悪魔の女が椅子に腰掛ける俺の前にしゃがんで、見上げてくる子供のように俺の顔を覗き込んでくる。

 ドレスのスリットから露わになる白い太腿に、はしたないと罵るところだが。頭部を鈍器で殴られ続けているような激痛に呻き、長い髪を振り乱し掻き毟りながら耐える。

 激痛が脳を切り裂き、記憶をこじ開けるかのような感覚。開かれたそこから、洪水のように一気に注がれる知らない情景。

 灰色の街並みに、狭いが何だか妙に懐かしくて安心する室内。そして、俺が死ぬ寸前まで熱中していたゲームの内容。


 思い出した、昔の記憶を。いや、前世の記憶と言った方が正しい。


 ……ひょっとして、これって転生? しかも主人公の勇者じゃなくて、よりにもよってそのライバルである脇役に?


「おーい、大丈夫ですかー? 私の名前、言えますか?」

「……フィア?」

「はぁい。大悪魔七人の内の一人、皆大好き色欲の悪魔のフィアさんです! きゃあっ、ヴァリシュさんに名前を呼んで貰えました」


 宙に浮かんで、くるくると躍るフィア。そりゃわかる。だってこいつのせいで、当のヴァリシュは闇堕ちしてしまうんだから。

 徐々に収まる頭痛に、俺は落ち着きを取り戻していく。いや、まだ混乱しているんだけれども。とりあえず、早急に片付けなければいけないことがある。

 ――それは、このキャラが辿った悲惨な末路を回避すること。前世の俺は、復讐やギャンブルなどとは無縁な、日々コツコツ真面目に生きる人生を送ってきたのだから。

 異世界に来たからと言って、その生き方を変えるつもりはない。何より、あと数十年は死にたくない。


「きっと憎しみで脳みそが悲鳴を上げちゃったんですね、でも私と契約すれば全て解決です。さあ、私と契約しましょう!」

「いや、結構です」

「はい! では早速……へ? なんで?」

「俺は俺の出来ることで頑張っていくんで。帰ってください」

「どど、どうして! 今まで割と乗り気だったじゃないですか。ひゃっ!? 何を、あ……確かに悪魔との契約って言うとそういうことをする場合もありますけど。ヴァリシュさんとなら全然オーケーなんですけど、でも待ってベッドはそっちじゃな……え、なんで夜中なのに窓なんて開けるんですか。なるほどそういう趣味ですか、意外とスケベですねって、きゃああ!! 人でなしー!」


 小柄なフィアの身体を抱えて、開け放った窓から放り投げる。彼女は人間の数百倍は頑丈に出来ている悪魔だし、ここは三階だが翼があるんだから飛べるだろ。

 窓を再び閉めて、鍵もしっかりかける。静かになった自分の部屋を見回して、壁に掛かっている鏡の前まで歩く。

 うん、やっぱりそうだ。このちょっと影のあるイケメンは、主人公のライバルであるヴァリシュに間違いない。

 寝間着姿のまま部屋を飛び出し、俺は急いでテラスへと走った。

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