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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-27 何度目かの知らない天井

#前回のあらすじ:お〇じゃないから大丈夫!大丈夫です!!




「・・・・・・はっ!!?」



ゆっくりと意識が浮上する感覚。


固い床の感触に瞼を開くと、眼前に広がっていたのはくすんだ色の板張りの天井だった。

―――ここはどこだろう。


むくりと起き上がり、霞がかかったようにはっきりしない頭を手でおさえ周囲を見回す。

どうやらここは、寮の小広間のようだ。


すぐ側には、見覚えのある雪色のふわふわな頭髪が見える。

少し離れて大テーブルのあたりからは未だに飲み比べでもしているのか、わいのわいのと楽し気な喧噪が伝わってくる。


巻き込まれてはたまらない、ぼくは忍び足で遠ざかることにした。


丁度、叶君の近くへ来たので起こさないようこっそりと顔を覗き込む。

板間にごろんと横たわる白髪の少年は、なぜか空の瓶を抱えたまま幸せそうな顔で眠りこけていた。


―――かと思えば、眉根をきゅっと八の字に寄せてさめざめと泣き始めた。



「うぅ・・・お姉ちゃん・・・。どうして目隠しなんてしたんですかぁ・・・そんな事しなくてもボクは―――ぶつぶつ」


「・・・それって、まさか」



どう考えても、宇宙人(グレイ)型が大フィーバーしていたあの森林での一幕だろう。


あの時助けてくれた謎の仙女の正体が誰なのか。

寝言なので確証は無いが、彼にはその答えがわかっているのかもしれない。


ひょっとすると、あの時助けてくれたのは―――


フローリングの床の上にぺたんと腰を落とし、ぼくは腕を組んだまま物思いに耽る。

今、ぼくの頭はある疑問でいっぱいになっていた。


―――会取明(えとりあきら)とは一体、どういう人物なのだろうか。

現在わかっている情報を纏めてみよう。


彼女はここ―――【揺籃(ようらん)寮】の住人で、白髪赤目の美少年こと叶君の実のお姉さん。

この二人は血のつながった姉弟でありながら、あまりにも異なる点が多いように思える。


華奢で繊細、触れれば折れてしまいそうな印象の弟君に対し、彼女は女性としては長身で体つきもかなりしっかりしている。

(ついでに言うなら、ちょっと目のやり場に困るくらいにメリハリ(凹凸)の利いた体形だ)


闇夜の林道を颯爽と歩いていた様子から見て、相当に体力もあるのだろう。

早々にバテて足を引きずっていた弟君とは大違いだ。


次に性格面。


弟くんの方は、出会って間もないぼくにも丸わかりなくらいのシスコンぶりだった。

しかし当の姉はといえば、叶君のそんな態度にどこか突き放すようにして接していたように思える。


そんな彼女本人は、どこか飄々として捉えどころのない、ありていに言えばちょっと胡散臭い印象の人物だと感じた。


―――もし、あの時、ぼく達の危機に助けに入ったのが彼女だったとして。

はたしてその真意は何処にあるのだろうか?


むむむ、と唸りつつ首をひねるぼく。


その脳裏に、廃墟で目にしたずっしりと中身の詰まったザックがよぎる。

表面上は冷たい態度を取っているとは言え、あれは弟に対し無関心と呼ぶにはちょっと無理のある分量だった。



「案外、ただの隠れブラコンだったりして―――」


「誰が隠れてるって?」


「・・・うわぁ!??」



思索にふけりすぎたのか、真後ろから聞こえた少しハスキーな声に思わずぎくりと身を震わせる。

おそるそおる振り返ると、大ぶりな黒縁眼鏡を光らせジャージ姿の少女がこちらを見下ろしていた。


その手には二つのグラスが握られている。

よっ、と声を上げるとぼくから少し離れた場所に腰を下ろし、彼女は無言でグラスの片方を差し出した。


表面にわずかに水滴の浮いたグラスをしばしまじまじと眺めると、我に返ったぼくはそれを慌てて受け取った。



「・・・アルコールは入ってませんよね?」


「安心しろ、ただの烏龍茶だ。さっきみたいな無茶な飲み方はうちじゃ普段あんまりやらないから、そう警戒しなくても大丈夫だぞ」


「ん―――それじゃ、ありがたくいただきます」



口を付けようとして一旦止まり、ジト目のまま発した質問に彼女はくすりと苦笑する。

自分のグラスを傾ける彼女の、綺麗なラインを描く喉が上下する様子を横目で盗み見た後、ぼくもグラスに口を付けた。


仄かな苦みのある液体が喉を滑り落ち、身体の奥へ染みわたるようにじんわりと広がっていく。

どうやら、自分で思っていたよりずっと喉が渇いていたらしい。


そのまま二口、三口と飲む様子をじっと見つめると、再び明は口を開いた。



「それで―――今日一日やってみて、どうだ?」


「ん・・・何というか、大変だった、かな?敵もわんさか湧いてくるし・・・」


「・・・言っておくが、普段はああじゃないからな?任務(クエスト)には危険度が定められてて、基本的にそれを越す相手は出てくることがない。今回のことは私からもちゃんと報告を上げてある。異常の原因は調査されるし、今後同じことが無いよう対策もされるだろう」


「そうなんだ・・・」



何となく口をついて出たとりとめのないひと言に、ちょっとだけ眉をしかめて彼女は口をとがらせる。

どうやら寮の先輩たちにとっても、あの大量発生は明らかに異常事態だったらしい。


あれを基準と捉えないように、と指を一本立ててこちらを軽く睨むと、彼女はもう一口烏龍茶を飲み込んだ。



「・・・まあ、今回はイレギュラーだとしても。私たちと逸れた後も上手く立ち回ってたみたいだし、今後【神候補】としてやって行くには十分だろう」


「ほんとですか?」


「私が保証するよ。・・・危険度ランクの低い任務(クエスト)に限って、だがな」


「・・・そっか」



しばし眼を瞑り、今の言葉を噛みしめる。

わけもわからず巻き込まれて始まった今の生活だが、どうにかやっていけそうだと先達からも太鼓判を押してもらえた。


素直に言って、嬉しい。


ぼくはもう一口、グラスを傾けると、照れ隠しに頭をかきつつ苦笑いを浮かべた。



「・・・まあ、あの時下手にジタバタせずあの廃墟でじっとしてれば、もっと早く皆と合流できた気もしますけどね!」


「そんなことは無いさ」


「―――えっ?」



若干の自嘲を込めて放ったぼくの言葉に、即座に否定の一言が被さる。

その声色があんまりにも優しくて、ぼくは思わずまじまじと彼女の顔を見つめ返してしまった。



「―――そんな事は重要じゃない。致命的な状況で無ければ結果がどうなったかより、どう行動したか、何の為に動いたかの方が大事なこともある。そういう所に人の内面は表れるし、他者の心により深く響くからな」



部屋の隅にかけられたランタンの淡い光に照らされ、亜麻色の髪の少女の横顔がぼんやりと浮かび上がる。



「少なくとも貴方は、叶の為に誰よりも早く行動してくれた。独りぼっちにしないでいてくれた。だから本当に感謝しているわ。―――あの子を助けてくれて、ありがとう」


「え、う、ぁ・・・?」



―――その笑顔があんまりにも綺麗で。


ぼくは阿呆のようにぽかんと口を開けたままああ、だとかうう、だとか、言葉にもならない呻きを上げることしかできなかった。

猛烈に顔が熱い。息が苦しい。なんだこれ。



「―――とまあ、この話題はもういいとして。いいかげん遅くなったし、ここらで歓迎会もお開きにするぞ」


「・・・うえっ!?」


「じゃ、とっとと片付けるか。・・・いつまで寝こけてるんだ愚弟、起きて手伝うかモップの代わりに床磨きするか選べ。ハリーアップ!」


「あいたぁー!!?」


「えええええ・・・??」



すっくと立ちあがったかと思えば、足下ですやすやと眠りこんでいる叶君の尻を蹴とばし、そのままずかずかと大テーブルへ向け歩いてゆく明。

そんな彼女の後ろ姿を、ぼくはただ茫然と眺めていることしかできなかった。



「おら!いつまで飲んだくれてるつもりだ、お前らもいい加減切り上げてこっち手伝え!!」


「ああ!拙者の酒が・・・」


「横暴だわ!弁護士を呼びなさい!」


「・・・ツケの返済 (ぼそっ)」


「「・・・・・・!?」」



彼女が向かった先からは、ぎゃあぎゃあと酔っ払い達の上げる声が騒がしく響いてくる。

・・・かと思えば、水を打ったかのようにあたりは静まり返った。


若干青い顔のまま無言ですっくと立ち上がると、いそいそと散らかったテーブルの上を片付け始める二人。

ぼくは何が起きているのか、展開について行けずぽかんとしたままその光景を眺めるのであった。


そんな様子をひとり離れた場所から、紹興酒をちびちびとやりながらにこやかに見つめる黒髪の少年。



「ふふ・・・此処もまた、賑やかになりそうだな」



(フォン)先輩のそんなつぶやきも、再び始まった賑やかな喧噪にかき消されてゆくのであった―――



これが第4話最後の本編エピソードとなります。

次回からは何話か番外編を挟んだ後、次のエピソードへ進む予定です。

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