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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
91/340

∥004-24 空を覆いつくすもの

#前回のあらすじ:謎の仙女、一体何者なんだ・・・!?



[???視点]



理解ができない。

納得がいかない。


我は頭上に浮かぶ不快な小蠅――人間種の雌――に向け熱線を放つ。

しかし、それを読んでいたかのように彼奴(きゃつ)の姿がブレ、その攻撃は虚空を薙ぐのみで有効打を与えられずに終わる。


お返しとばかりに死角より降り注いだ二つの影が、素早く周囲を飛び回り我の肉体を削りとってゆく。

先程から幾度となく繰り返されたこの光景に、ふつふつと沸き上がる怒りを込め鉤爪を繰り出す―――が、当たらない。


影は弾むような音色を奏でると、互いに交差するような軌道を描き月を背景に浮かぶ彼奴(きゃつ)の元へ飛び去って行く。

ちくちくと刺すように繰り返される攻撃は我に大したダメージを与えるには至らないものの、彼奴(きゃつ)の立ち位置は先程からずっと変わらずはるか上空のままだ。


何故こうなったのか。

怒りの咆哮を上げる我の脳裏に、幾許か前の光景が去来する―――




 ・  ◇  ■  ◆  ・




【彼方】。


下位世界にそう呼ばれる我の故郷は漠然とした菫色の大気で構成された、不毛の世界だ。

故に、我ら種族は等しく世界を渡る術を持つ。


全時空を内包する時空間連続体を通じ【彼方】の大気を流し込み、世界の壁に『穴』(ゲート)を空ける。

―――我らの狩りは人間種の概念で言うところの『釣り』に近い。


世界を越えて送り込む『糸』と、その先に付ける『餌』で標的を捕える。


本来、不定形である我らには決まった姿が存在しない。

故に、『餌』は送り込んだ世界に存在する獲物の精神を読み取り、それに応じた姿を取る。


―――その世界で最も精神を発達させた生命が抱く『未知への恐怖』が、自らを襲うモノの形となるのだ。


狩場となる数多の世界と【彼方】は天体のように接近と離隔を繰り返しており、世界間の距離は狩りにかかるコストと直結する。

故に、コストに対するリターンを見込める『近い』世界が狩場として定められる場合が多いのだ。


幼生体達の動きが慌ただしいことに気づいたのは、ほんの少し前のことだった。


理由はすぐに判明した。

本来『遠い』位置関係のとある下位世界が【彼方】と接近しつつあったのだ。


先程、世界同士の位置関係を天体に例えたが、それは数多の世界が取る挙動にも通ずる。

世界同士は様々な軌道を描き接近し、あるいは離れる動きをめいめいに繰り返しているのだ。


そこは、はるか過去より幾度となく極大接近を繰り返した世界の一つだった。

記憶が定かであれば―――高度に発達した精神を有する生命(ニンゲン)が溢れる、豊潤なる大地であった筈だ。


仮初の肉体を通じ獲物に鉤爪を突き立て、溢れ出る精気を啜り上げる。

その甘美な味わいを想像し、我は思わずほくそ笑むのであった。


それからどうしたかは―――語るまでもない。




 ・  ◆  □  ◇  ・




何故こうなったのか。


最初に遭遇した下位世界生命体――人間種――は我の敵ではなかった。

生意気にも『狩場』の中で動き回り、ちゃちな『力』を振り回していたようだが軽く炙っただけで動かなくなった。


楽だ。

楽なのは良い、コストも少なく済むし何より―――楽しい。


それが、何故。


我は一際大きく咆哮を放つ。

上空で彼奴(きゃつ)がわずかに身構えるのを感じる。


彼奴があそこから動かない理由は明白だ、我の飛行能力が高度を取るのに向かないことを、最初の数合で見切っているから。

ならば、その想定を上回ればいい。


足元で森がざわめき始める。

菫色の光点が幾重にも灯り、それは木々の蔭より這い出し我の直下へ集結を始めた。


最初に集ったのは円盤型の幼生体だった。

飛行能力に長けるこやつらを、仮初の肉体から伸びる菫色の光で包み込んでゆく。


続いて、人間種を模した形状の幼生体が互いの肉体をよじ登り、肉の塔となって我の足元へ到達する。

帯状に広げた光で絡めとると、ぎゃいぎゃいと喚く幼生体達はじきに我と同化してゆく。


数分と経たず、同化を完了した我は夜空に産声を上げた。


今の我は(おお)きく、(つよ)く、(はや)い。

これなら負けない。


密かにほくそ笑む我を見下ろす彼奴(きゃつ)は―――ため息交じりにこう呟いた。



「―――起きろ」



彼奴(きゃつ)の掌中で、銀色の扇がひときわ強い燐光を放つ。

ひとりでにくるくると回転を始めたそれは蒼い炎を纏い、白銀の月の下怪しくきらめいた。



()()律令(りつりょう)(ごと)く命ず。真の名が表すままに汝の力を示せ。其の名は―――『銀燐蜉蝣扇』(ぎんりんふゆうせん)


稲光のごとく、空を()く燐光が走る。

その中心にあった扇は既にその形を失い、青白い双翅を広げたゆたうかげろうの群と化していた。


抑揚のない声が続く。


「蜉蝣はかげろう、刹那の時を生きるうたかたの命也。蜉蝣は浮遊に通ず、(すなは)ち風に乗りて()く空を駆ける物也」


しゃん。


「銀は闇を切り裂く一筋の光、病を退け邪気を払い、ヒトに害為す魑魅魍魎(ちみもうりょう)(ことごと)く滅する破邪の白銀(しろがね)也」


しゃん。


「燐はまほろばの炎、闇を照らし(そら)を舞い冥府への(しるべ)となる。また燐は鱗に通ず。即ち―――」


しゃん。


「汝、空を駆ける貪食の大魚。其の鱗は邪を払い、燐火を纏いてく魔を滅す物也」



しゃん。


扇から―――扇だったモノから鈴のような音が響く。

それは、体表を覆う銀光を纏う鱗がこすれる音。


それは、黒雲のように空を覆いつくし―――我を睥睨していた。

眼球のない洞穴のような眼窩に、青白い光が灯る。


理解ができない。

納得がいかない。


今の我は(おお)きく、(つよ)く、(はや)く―――しかし、空を覆いつくすモノと比べあまりに矮小だった。


月を背景に彼奴が笑う。



「わざわざ集めてくれて結構、かえって手間が省けた―――『喰らえ』」



轟。

雄たけびが津波のように夜空を震わせる。


瀑布のように押し寄せるそれが間近に迫った時―――ようやく我はその正体を見た。

幾億千万にも上る蜉蝣(カゲロウ)の群、燐火を纏い寄り集い大魚の姿を模すそれに呑み込まれ、我はこの世界で活動する仮初の肉体を失った。



今回はここまで。

連休中にもう何度か投下したいところ。


06/26 一部修正

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