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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-21 アタック・ザ・フラットウッズ・モンスター

#前回のあらすじ:支給アイテムはケチらず使うべし



鬱蒼と茂る森の中。


夜空を背景に黒々と枝を広げる木々の下を、奇妙なものが小走りに駆けていた。

その全長は80cm程、小さな子供程度の大きさで東洋風の簡素な着物を纏い、その裾からは赤茶けた健康的な肌が覗いている。


運動中にもかかわらず真一文字に結ばれた口の上にはシンプルな三角形の鼻、筆で一息に描いたようなまんまるな目が並んでおり、その頂点には立派な一本角がそそり立っていた。

言うまでもなく―――人間ではない。


護法童子。


陰陽道に通ずる者が使役する、子供の姿を取るヒトならざる従者。

―――いわゆる式神の一種である。


その後を見守るように、木立の陰からこっそりと付いてくる影が二つ。

ぼくこと丸海人(マルカイト)と、雪のようにふわふわの髪の下から不安そうな赤い瞳を覗かせる少年、会取叶(えとりかなえ)の2名であった。


童子の移動に併せ、隠れる木を移りつつぼくらはひそひそと声を殺し囁きあう。



「―――今のところ大丈夫そうです、ね」


「奴らと出くわさないのは幸いと言えるんだけど。これ、何だか良心の呵責が・・・」



そうつぶやきつつ、前を行く小さな背中に視線を向ける。


あれが人間ではない、どころか生物ですら無いということは、事前に説明を受け知ってはいる。

いるのだが、それでも気になってしまうものは仕方がないのである。


―――『インスタント童子』を使うことを提案したのは叶くんだった。


彼が姉に持たされた荷物(アイテム)の一つ。

手のひらに収まるサイズの簡素な人形を指さし、偵察や戦闘の補助を行う小鬼を呼び出す呪具だと説明された時は正直、半信半疑だったのだが・・・。


指の先から血を一滴垂らした人形がみるみるうちに大きくなり、デフォルメされた目鼻の小鬼に変化する光景には正直、度肝を抜かれたものだ。

武器を持たせれば、見かけによらぬ怪力で活躍してくれるそうだが―――今回の目的はそれではない。


童子をオトリとして先行させ、襲ってきた敵を横合いから奇襲、ないしは襲われているうちに自分たちはこっそり逃げてしまう。

そんな算段に、ぼくもはじめは深く考えず賛同したのだが―――



「こうして実物を前にすると、なんだか地雷原を子供に歩かせるクズ親みたいで・・・はぁ。」


「―――具体的かつ心にくる例えはやめてください!?」



ため息交じりにぼそりと零した一言に、表情ををひきつらせた叶くんから鋭くツッコミが入る。

それに苦笑いで応じていると、先行する童子の様子に変化が生じたことに気づく。


ぼくが油断なくその後ろ姿に注視したその時。

ぱたぱたと元気よく走っていた小鬼は、前へと脚を振り出した姿勢のままびくりと小さな身体を震わせ―――みるみるうちに手のひら大に縮み、地面の上へぽとりと落ちてしまった。


慌てて木陰から飛び出し、童子の前へ屈みこむ二人。

そっと持ち上げた身体は軽く、それこそ小さな人形そのものだった。


ぼくは童子がぴくりとも動かないことを確かめ、首をひねりつつ唸る。



「人形に戻っちゃった・・・どうなってるの?」


「インスタント童子には制限時間があるんです。繰り返し使えるんですけど、与えた血が切れると元の姿に戻るから、その度こうして回収する必要があって・・・」


「ふむふむ・・・ちなみに、制限時間ってどのぐらいなの?」


「3分です」


「ウ〇トラマンかーい!」



びしっ。

手首のスナップを利かせ虚空にツッコミを入れるぼくに、白髪の少年はあははと苦笑いを浮かべる。


3分間しか戦えない特撮ヒーローを引き合いに出したが、実際この制限時間は長いようで短い。

毎回針で指先を刺して血を与えなければならない手間を考えると、使いどころもよく考えた方が良さそうだ。


―――とは言え、今はあまり贅沢を言っていられる状況ではない。


ぼくは密かにため息をつくと、一度しまい込んだ裁縫セットをポケットから取り出すのであった―――




  ・   ◆   □   ◇   ・




最初に異変に気付いたのは叶だった。


―――誰かに見られている。

そんな感覚に襲われ、思わず背後を振り返るが―――そこには誰もいない。



「・・・どうかした?」


「いえ、気のせいだと思い―――っ!?」



突然、きょろきょろと周囲を見回し始めた同行者の様子が気になりに声をかける。

紅色の瞳にわずかに不安をにじませた少年はなんでもない、と苦笑いを浮かべ―――


すぐにはっと表情を消すと、弾かれるように前を向き直る。

つられて向いた先で―――童子が赤い怪光に貫かれた。



「・・・!?」


「あそこです!目が―――」



胸に大きく穴を穿たれ、力なく草の上に倒れこむ童子。

みるみるうちに人形サイズに縮むその姿の奥に―――赤く光る二つの光点があった。


凍り付いたように身動きの取れないぼくらの前へ、ゆっくりとそれは姿を現す。


最初に目に入ったのは、フレアスカートのように幾重にも縦襞の刻まれた、なめらかな質感の脚部。

上に向かうにつれ細くなるそれは腰にあたる部分でお椀型の胸部と合流し、その両側にはひょろりと細長い鉤爪を有した両腕が見える。


胸部の上には涙滴型の頭部が載っており、その中心には最初目にした、赤く光る二つの大きな眼が怪しく輝いていた。

明らかに、友好的な存在では無さそうだ。



「新手の敵か?それにしても―――」


「大きい・・・!!」



怪物の背丈は立ち並ぶ木立の中程にまで届いていた。

目測だが―――3M強はあるだろう。


先程まで嫌というほど目にした、宇宙人(グレイ)型シングとは比べ物にならない程の巨体だ。

葉巻型UFOと比較すればそれでも小さいほうではあるが、目の前の存在はただそこに佇んでいるだけで物理的な威圧感を放っているように見えた。


―――にらみ合ったまま、両者の間に静寂が満ちる。



<< シュウウウウウウ・・・・ >>



怪物に動きはない。


ちらりと地面に落ちた童子(の人形)に視線を送るが、その胸には焼け焦げたような穴が開いており、ぴくりとも動かない。

もし、身代わりを立てず無警戒に歩いていたら―――


ああなっていたのは自分かもしれないと、ぼくは背筋を震わせる。


・・・不意打ちを受けずに済んだのは不幸中の幸いだろう。

どうにかしてやり過ごせないかと、ぼくは叶くんに視線を送るが―――



「マルさん!!」


<< ・・・シュゴォォォォォォ!! >>



―――空中を滑るように、怪物がこちらに向け突進を始めた!

不意を突かれる形で反応が遅れたぼくに対し、叶くんはいち早く怪物の動きに感づき迎撃態勢を整えていた。



「くっ・・・断絶の枷!!」


「・・・避けられた!?」



反射的に突き出された右手から、半透明の立方体が(はし)る。

しかし怪物はぬるりとした動きでそれを躱すと、赤く光る両目の輝きをいっそう強めた。


ひっ、と小さく悲鳴が上がる。

その前に、滑り込むようにぼくは立ちはだかる。


それらをもろとも貫くように―――怪物の眼から極太の真っ赤なビームが放たれた!!



<< シュゴッ―――!!! >>


「させるか―――バブルシールドぉ!!」


『・・・・・・!!』



破壊的な威力をもって迫る怪光は、射線上に展開された壊れずの泡によって阻まれていた。

怪光線の放つ光とバブルシールドのたたえるコバルトブルーの輝きがせめぎ合い、紫紺のシルエットのみが浮かぶ深夜の森を赤と青の二色に染め上げる。


それを見届けほっと一息つくぼくだが、すぐにまずい事態が起きていることに気づき眉をひそめた。

―――ビームを受け止めている部分の水壁が、白く濁っている。


化学の授業で習った内容が脳裏に流れる。

水の沸点は約100度、それを超えると液体の水は水蒸気へと変化する。


直撃は防げても、温度上昇によって気化してしまえば―――



「気体じゃ攻撃は防げない!いけない、叶くんこっちへ―――うわっちゃぁ!?」


「マルさん!!?」



蒸発した部分を基点に爆ぜるように、バブルシールドが破られる。

それを察していち早く木陰を脱したぼくは、背後から熱蒸気のあおりを喰らいたまらず悲鳴を上げた。


背中が熱い。

そのまま衝撃に吹き飛ばされ、ごろごろと地面を転がり木の根元に強く身体を打ち付けてしまう。


ぐらぐらと揺れる視界の中、ゆっくりと怪物のシルエットが大きくなってゆく。



「―――ルさん・・・マルさん!しっかりしてください!」


<< シュゥ・・・ゴォォォォォ! >>


「くぅっ・・・」



全身の痛みを堪えながら、短い下草に手をついて顔を上げる。

―――怪物は、手を伸ばせば届きそうな距離でぼくを見下ろしていた。


息をのむぼくの前で、不気味に赤く輝く二つの眼が一瞬ほくそえんだような気がした。

奇妙に細長い腕が振り上げられ、月の光を受け鉤爪がぎらりと光る。



(やられる―――!?)


<< フギャアアアアアア!! >>


<< シュゥウウウ!? >>



―――避けられない。

そう悟って思わず身構えたぼくの視界に、横合いから黒い影が飛び込んでくる。


大きく口を開き―――その影は頭上に振り下ろされる寸前の怪物の腕に噛み付いた!

呆気に取られ見上げるぼくの前で、謎の影にかじり付かれた片腕を振り回し暴れる怪物。


どれだけ振りほどこうとしても一向に離れない影に業を煮やしたのか、怪物は腕を高く振り上げると、近くの木へ勢いよく叩きつけた。

ずしん、と重い地響きと共に地面へ倒れこむ影。


―――そこでようやく、ぼくはその正体を思い出した。

あの廃墟で、彼(?)とは一度だけ出会っている。



「きみ・・・ひょっとして、スカイフィッシュ型に絡まれてた―――?」


<< ウゥ・・・ウ・・・ >>


<< シュゴォォォォォ!!! >>



力なく呻く人影に手を伸ばそうとしたところに、怪物の上げる雄たけびが響く。

3mの巨体の頂には、赤く輝く両の眼がいっそう強い輝きを帯び―――こちらを見据えていた。



「マルさん・・・逃げて―――!!」


「やられる―――!?」



怪光線が来る。


―――正しく絶体絶命の状況。

そんな時、ぼくはふと上空に浮かぶ月に小さな陰りが落ちていることに気付いた。


頭上に、誰かが居る・・・?


思考の片隅でそんな事を考えるなか、ぼくは視界いっぱいに広がる真っ赤な光を真正面から浴びるのであった―――


今回出たボスについてはこちらを参照。

https://dic.pixiv.net/a/3%E3%83%A1%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%AB%E3%81%AE%E5%AE%87%E5%AE%99%E4%BA%BA


次回へ続きます。

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