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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-16 脱出に向けて

#前回のあらすじ:騎兵隊の到着だ!(総勢一名)



[マル視点]



「どれどれ・・・お、あったあった」



荒れ果てた廃墟の一室で、しゃがんだ姿勢のままごそごそと部屋の隅を探る。

散乱するガラス片に気を付けつつ、月の光のみの僅かな視界で文字通り暗中模索すること数分、ぼくはお目当ての品を見つけ手に取る。


ぱんぱんと手で砂ぼこりを払ってから後ろを振り向くと、所在無げに立ち尽くしていた白髪の少年とばっちり目が合った。

―――長く伸びた前髪に半分隠れた瞳は、割れた窓ガラスから差し込む月の光を受け深い赤い光を放っていた。


まるで、夜空のお星さまみたいだ。

これだけの美貌を持ちながら自分に自信が持てないだなんて、全く世の中には不思議なこともあるものだ。


密かにそんな胡乱なことを考えつつ、ぼくははい、と叶くんに戦利品を手渡す。

ずっしりと重量感のあるナップザックを受け取ると、軽く中身を確認した彼は不思議そうに目を瞬かせた



「これ、ボクのバッグ・・・?」


「そこに落ちてたよ。連中、中身にまでは興味なかったみたいだね。一応無くなってるものが無いか確かめといて」


「えっと―――大丈夫、みたいです」



足元に下したナップザックの上に屈みこみ、しばしの間がさごそと中身を探った後に顔を上げると、少年はほっとしたように表情をほころばせる。

ぼくの方はと言えば、大した手荷物も無かったので取り返したのは来る途中で貰った木剣くらいのものだ。


感触を確かめるように軽く素振りしつつ、ぼくはこれからの事を考える。

―――何はともあれ、仲間たちと合流しなければならない。


確証は無いが、恐らくここが本来の目的地であった心霊スポット――『人肉屋敷』――なのであろう。

ならば、葉巻型UFOと戦った広場からこの廃墟までせいぜい1km強といった所の筈だ。


歩いて戻れない距離ではないだろう。



「―――という訳で、問題は帰り道なんだけど・・・流石に敵に見つからずって訳にも行きそうにないんだよねえ」



さっきから階下の方がざわついてるし。

ぼくたちはコンクリート床を通しかすかに伝わってくる振動に、互いに顔を見合わせる。



「ち、近づいてきてるみたい・・・です」


「急いだ方が良さそうだね・・・手短に意見を纏めようか。ぼくはすぐにここから出た方がいいと思うんだけど、叶くんはそれでいい?」


「は、はい」


「OK、じゃあ次はそれぞれの持ち札について確認しよう。ぼくの【神使】(ファミリア)はこちらのメル、基本は水の塊で、さっき見せたみたいに割れない泡で攻撃を防いだり、体当たりしたりできる。ぼく自身は…特に目立った技能とかは無いかな?手持ちの武器はきみのお姉さんがくれたこの木剣だけ―――とまあ、こんな所かな?」



手を振ってメルを呼び出すと、目線の高さまで移動させつつざっとその性能について叶くんに説明する。

緋色の瞳をぱちくりと瞬かせながら、紺碧色に淡く輝く水塊を興味深げに眺める彼へ話を促すと、白髪の少年は表情を曇らせうつむいた。



「ボクは―――何も、できません。他のみなさんが使えるような凄い力なんて、何一つ・・・」


「何も―――?じゃあきみの【神使】(ファミリア)は?」


「呼んでるけど、一度も出てきてくれなくて・・・」



―――どうやら、叶くんは【神候補】として自らの力をコントロールできないらしい。

彼自身もその事をかなり気にしているようだ。


ひょっとすると、何かにつけて自身無さげな態度にもこの事が関係しているのかも知れない。

とは言え、今はそんな事よりもどうやってここから脱出するかが問題だ。


他に何か、脱出に役立つ材料が無いか一縷の望みをかけて質問を続ける。



「・・・本当に何もないの?ヘレンはきみについて何か言ってなかった―――?」


「か、彼女は・・・その、素質はちゃんとあるから、きっかけさえあれば問題なく能力を使えるだろうって―――」


「うむむ」



絞り出すようにそう零すと、きゅっと口をつぐんだまま彼は黙り込んでしまった。

薄闇に包まれた室内に満ちる静寂が耳に痛い。


どうやら、叶くんが抱えた問題は相当に根が深そうだ。


あまり触れない方がいいデリケートな問題かもしれないが、今は状況がそうも言ってられない。

【神使】(ファミリア)神業(スキル)があてにできないなら、彼には何か他の形で協力して貰わなければならないだろう。


ぼくが思慮に耽りつつ周囲を見回していると、つい先程回収したばかりのナップザックに目が留まる。



「・・・そうだ。叶くん、ちょっといい?」


「え―――?あ、はい」


「きみのザックなんだけど・・・ひょっとして、お姉さんから渡された物じゃない?」



記憶が確かであれば、広場での戦いの折に明さんが使っていたのも、同じデザインのものだった筈だ。

彼女が青、叶くんが黄色と色合いの違いこそあれど、その外見は瓜二つと言ってもいい。


彼は握りしめていたザックに視線を落とすと、目の端に浮かんだ涙をぬぐってから遠慮がちに頷いた。



「は・・・はい、出かける前にお姉ち――姉さんに持たされたものです」


「ビンゴ!えーっと、それじゃあ中に入ってる物の使い道について答えられる―――?」


「はい・・・えっと、どれから説明しましょうか?」



―――広場での戦闘の折、彼女はザックから色々な道具を取り出しては使っていた。

先程持った時の感触からして、このザックにも結構な量の中身が詰まっている筈だ。


場合によっては、ここから脱出する活路を開けるかもしれない。



「じ・・・じゃあ、適当でいいから順番にお願い」


「わ、わかりました。それじゃあこれから―――臭気球(しゅうきだま)といって、この容器が割れると中身が付着して取れなくなります、すごい臭いです。一度誤って落としちゃった時は何日もニオイが取れなくって・・・」


「また取り扱いの難しそうな・・・いや、逃走用なら役立ちそう、かな?えーっと、他には・・・?」


「これは気力丸(きりょくがん)、強壮効果のある練り薬で・・・すごい苦いです。これは千楯符(せんじゅふ)って言って、防御用の呪術が封じられたお札だそうです。こちらは―――」


快癒珠(かいゆじゅ)雷鳴珠(らいめいじゅ)万力符(まんりきふ)、クラマスプレー。

何となく使い道のわかりそうなものからさっぱりわからない物まで、出るわ出るわで止めどもなくザックの中から種々雑多な道具が引っ張り出され、叶くんの足元を埋め尽くしていく。



「待って待って」


「・・・え?」



少年の読み上げる品目が30を超えたあたりでぼくはたまらずストップを掛けた。

多すぎ!


一体どれだけ入っているのかと口を広げて見せて貰えば、用途のわからない道具でみっちりと詰まったザックの中の光景に軽く眩暈を覚え、ぼくは天を仰ぐ。

いくらなんでも詰め込みすぎだろ!


パンパンに膨れ上がったナップザックを手にきょとんと小首を傾げる叶くんを前に、ぼくの胸中へ彼のお姉さんへの疑念が沸き上がる

弟くんに対し素っ気ない口調で接してたけれど―――本当は重度のブラコンなんじゃ?


何はともあれ、これを利用しない手はない。

ぼくは床に散らばるアイテムの山を睨みつつ、脱出に向けプランを練り始めるのであった―――



今週はここまで。

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