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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-15 間一髪!!

#前回のあらすじ:たすけた影につけられて~♪



「うぇ"・・・ぺっぺっ!」



ここに来てから既にお馴染みになってしまった蜘蛛の巣をまた頭から被ってしまい、ぼくはじたばたと両手を振り回し粘つく糸を振り払う。

少し口に入ったのか、何とも言えない味が舌に広がる感覚に思わずえずいてしまう。


―――叶くんの姿を求め、この廃墟を徘徊し始めてから既に十分以上は経過している。


障害物の多さもあり、廃墟の全てのフロアを確認できたとは言い難い。

それでも目当ての人物の痕跡すら見つけられない状況に、ぼくは密かに焦りを覚え始めていた。


もしかして、この建物内には居ない―――?


そういえば、あれから【彼方より(シング フロム )のもの】(ザ ビヨンド)の姿も見かけていない。

ひょっとすると見当違いの場所を探しているのでは?そんな可能性が脳裏をよぎり、ぼくはこのまま捜索を続けるべきか立ち止まりしばし考え込む。


そんな時だった。



「ひゃああああーーーッッ!!??」



薄闇に包まれた室内の空気を、突如として絹を裂くような悲鳴が震わせる。

それが聞き覚えのある声である事に気づき、ぼくは弾かれるように視線を上げた。



「―――上か!!」



どうやらこの建造物には2階が存在したらしい。

・・・そして時間もあまり残されてはいないようだ。


ぼくは決意を新たにすると、まだ見ぬ登り階段を目指し未探索のフロアへと駆け出すのであった―――



[叶視点]



もう駄目だ―――!



視界いっぱいに広がるヤスリのような歯が並ぶ口腔を前に、ボクは固く目をつぶりその瞬間を待つ。


―――姉さん、最期まで役立たずな弟でごめんないさい。

天国の父さん母さん、もし会えたら生きているうちに出来なかった分、精一杯親孝行します。


・・・しかし、いつまで経ってもボクの身体にはいささかの痛みすら走らない。


どうなっているのかとゆっくり目を開けば、そこは荒れ果てたコンクリート製の廊下の一角だった。

冷たい床に手をついて体を起こすと、すぐ近くにぽっかりと口を開けている部屋の入口から漏れ出る、見覚えのある菫色の光が目に入る。



―――ああ、まただ。



ぼんやりと、ボクは自分の身に何が起きたのかを理解する。


危機に陥った時など、一瞬気が遠くなった直後に見覚えのない場所へ移動している。

そんな出来事を幼少の頃から幾度となく経験していた。


姉さんに打ち明けた時は「母さん達が守ってくれたのかも知れないわね」とつぶやきつつ、何かを考え込んでいる様子だったが―――


そんな事を思い出していると、先ほどの戸口から漏れ出る光にふと影が差す。

何事かと目を向けると、戸口から差し込む菫色の光を痩せこけた子供のようなシルエットが遮っていた。


宇宙人型シングだ。



「ひっ―――!」



ぞろぞろと戸口から現れた宇宙人型達が、よたよたとおぼつかない足取りで近づいてくる。

立ち上がり逃げ出そうとするも間に合わず、ボクはあっという間に壁際まで追い詰められてしまった。


ひび割れたコンクリート壁を背に絶望の表情を浮かべ、じりじりとにじり寄る宇宙人型達のつるんとした頭部を見つめる。

黒目しかない眼が愉悦にゆがみ、今まさに飛びかかろうと先頭の個体が体を縮め―――



「メルさん!やーっておしまい!!!」


『・・・・・・!!』



―――横合いから飛び込んできた碧い奔流が宇宙人型の矮躯をまとめて呑み込んだ!!


一体何が起きているのか、混乱したままぽかんと液体の中でもがき苦しむ3体の宇宙人型を眺める。

視線だけを先程、声が響いた方向へ向けると、そこには息を切らせ身構える小太りの少年の姿があった。



「ま、マルさん―――!?」


「かーらーのー…神業(スキル)・バブルシールド―――内向き!!」


<< !!!??? >>



コバルトブルーの液体が輝きを増すと、次の瞬間には球状に膨らみ1.5m大の巨大な泡へと変じていた。

閉じ込められた宇宙人型達が内部から泡の壁を破らんと爪を立てるが、わずかに形を変えるだけで一向に割れる気配がない。


それを確かめ満足げにうなずくと、びしりと廊下の奥を指さしマル少年が高らかに言い放った。



「メル!お客さんと一緒にお散歩してきなさい!」


『!』



どすん、と重い音を上げて地面に落ちる特大の水球。

そして間髪入れずに回転を上げると、ごろごろと廊下の奥目掛け転がり始める。


内部で攪拌される宇宙人型達の声なき叫びを残し、薄暗い廊下の果てへと消える水球。

その光景をしばし呆然と見つめていると、再びゴロゴロという音が近づいてくる。



「・・・メル!!」


『・・・!』



マルが素早く目配せすると、高速回転する巨大な水球がぱちんと割れる。

水しぶきを上げごろりとコンクリート床に転がり出たのは、つい先ほど水球に呑み込まれたばかりの宇宙人型達だ。


さんざんに攪拌されたせいか、前後不覚に陥ったまま仰向けに目を回す宇宙人型達。

その一体がゆっくりと瞼を開くと、ぐらぐらと揺れる視界の中で小柄な少年が手にした木切れを振りかぶる姿が眼に入った。



「めん!どう!めェェーンっっ!!」


<< グゲッ!? >>


  << ギャアッ >>



無抵抗のまま体重の乗った打ち下ろしを頭部に受け、びくんと痙攣した後菫色の粒子となって消える宇宙人型。

3体すべての消滅を確かめてから、小太りの少年はふう、と額に浮かんだ汗をぬぐう。


そして振り返ってこちらに近づくと、笑顔を浮かべ片手を差し出すのであった。



「無事みたいでよかった、遅くなっちゃったけど―――助けにきたよ!」



今週はここまで。

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