∥004-13 捕まって敵地潜入はある意味王道
#前回のあらすじ:あまあまでトロトロ
[マル視点]
「・・・知らない天井だ」
目を覚ました時、ぼくはひび割れたコンクリート床に転がされていた。
無意識に伸びをしようと身じろぎしたところで、肘から先がほとんど動かないことに気づく。
見れば、標識ロープ――工事現場でよく見る黄色と黒のツートンカラーのロープ――でガチガチに腕が固められてしまっていた。
「どうしよう、これ―――」
何とか解かないと。
ぼくは床から現在いる部屋の中を見渡す。
薄暗い室内は剥き出しのコンクリート造りで、経年劣化のせいか随所がひび割れはく離した欠片が床に散らばっている。
壁は内装が剥がされたのか、配管や千切れた配線等が露出したままだ。
部屋の片隅に見えるテーブルにはうず高く埃が堆積しており、この場所が放置されていた期間の長さを窺わせた。
辺りはしんと静まり返っており、動くものの気配はほとんど感じられない。
―――誰かの助けを期待するのは止したほうが良さそうだ。
「そうとなれば・・・メル!」
『・・・・・・』
ぼくが念じると、中空に一粒の水玉が生じ、それはみるみるうちに30㎝大の碧く輝く水塊へと変じた。
もうひとつの自分にして【本質の世界】から零れ落ちた丸海人の化身―――【神使メルクリウス】である。
メルは僕の眼前へふよふよと近づくと、もの言わぬままこぽり、と小さな気泡を生じさせた。
「これ、何とかできる?」
『・・・!』
ぼくが掲げた両腕に、メルはわずかに身体を明滅させて応える。
しばし逡巡するように動きを止めると、メルは糸のようにその身を変形させロープの隙間へしゅるりと入り込んだ。
しばしの間、くすぐったいような感覚を我慢する。
やがて結び目の解かれたロープがはらりと落ち、ぼくは黒く変色したコンクリート床の上に広がるロープを呆然と眺めた。
「―――命じておいてなんだけど、まさか本当に解いちゃうなんて」
ぼくの【神使】ってすごい。
唖然としたまま見つめるぼくの前で、メルはどこか自慢げに青く輝くボディをくるりと一回転させるのであった―――
ちょっと短いけど今週はここまで。
 




