∥001-08 にゃーんにゃーんでございます
#前回のあらすじ:女性陣は偉人縛り、男性陣は明治大正縛り
[マル視点]
「・・・【ネフェルティティ】」
「(にゃあ)」
少女の、鈴が転がるような声が響く。
―――と、同時に小柄なローブ姿の足元にわだかまる影に異変が生じた。
とぷり、と波紋が広がりると、それは意思を持ったかのようにするりと彼女の前へと移動する。
二次元の生命体のように蠢くそれは、一点に集うとある生物の姿を象った。
それは、一匹の小猫であった。
幼児の描いたイラストのように、輪郭と色のみで構成された黒猫。
その顔にあたる部分にぱちくりと二つの眼が瞬き、小さく可愛らしい鳴き声を上げる。
あたかも生身の生物であるかのように、影の猫は空中へぴょん、と飛び上がると、バスの床の上へ器用に降り立つ。
それは直線で構成された輪郭と体色を持ち、目と口があり、しかし―――厚みが無かった。
影絵の世界から飛び出してきたかのような存在。
【ネフェルティティ】と呼ばれた猫はトトト、とローブに覆われた左上を登り、幼い主人の頬を舐めた。
「私も参ります。【五色筆】よ―――お出でませい!」
続いて上がったのは、凛とした淑女の声。
黒髪の乙女が両手を掲げると、床面より生じた影が一瞬、地蔵のような像を結ぶ。
―――それは次の瞬間には一本の大筆へと姿を変え、細い指先によって掴み取られた。
流れるような所作で、大筆が舞う。
宙に描かれた軌跡は蝶々の群れを象り、それはひとりでに翅をはためかせ、ひらりと頭上へ舞い上がった。
差し出された少女の指先に止まり、翅を休める蝶々たち。
ゆっくりと開閉するその翅には艶やかな文様が浮かび、しかし―――黒以外の色が存在しなかった。
色の濃淡のみで描かれた、墨絵の生命。
奇跡の筆によって命を吹き込まれたそれは、生物さながらに宙を舞う。
「さあ、ダンスの時間でしてよ―――【ノーシュ】!!」
「(なぁう)」
そして、トリを務めるのは黄金の少女。
イブニングドレスと同じ真紅のヒールをタン、と鳴らすと、眼前の虚空がぐにゃりと歪む。
突如として沸いた虚空の渦から黒褐色の影が走ると、少女の足下へしなやかに降り立った。
それは、艶やかなダークグレイの毛並みを持つ、一匹の猫。
―――否。
一般的な『猫』はその長さ30cm以上にもわたる、しなやかで自在に動く髭など有してはいない。
それは既存の種から外れた生物であり、夢幻の領域に住まうという幻獣の一つ。
【土星猫】と呼ばれる存在―――それが、エリザベスの従える【神使】であった。
ノーシュは重力を無視するように動く髭をたなびかせ、真紅の令嬢の下へ歩みを進める。
喉を鳴らし足元へ首を擦り付ける相棒の姿に、エリザベスは束の間微笑みを浮かべる。
しかし、無言のまま片手を差し出すと、それに呼応するようにノーシュは動きを止め、己が主を琥珀色の瞳で見つめた。
再びタン、と靴音が響き、猫の姿を象る幻想は宙へと舞い上がる。
次の瞬間、その姿は一条の鞭へと変じ、少女の掌へと収まる。
若干サディスティックな笑みを浮かべ、エリザベスは声高らかに宣言するのであった。
「さあ―――わたくし達の戦いを始めましょう!!」
※2023/09/04 文章改定
 




