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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
79/340

∥004-A Vt.Day特別編・キャシーの手作りチョコレートチャレンジ!!

※本編とは時間軸の異なるエピソードです

#前回のあらすじ:そりゃシスコンになるわ。



[梓視点]



「たーのもーーーっ!!」



元気のよい声と共に、両開きのドアが勢いよく開かれる音が響き渡る。

突然の出来事に驚いたのか、広間の方々からあたしへ視線が集まっているのがわかる。


でも声の主が誰かを確かめると、すぐに「ああ、なんだ」といった様子で皆談話やティータイムへと戻っていってしまった。

あれ?なんか思ってたのと反応が違う。



「おかしいなあ。・・・たーのも―――」


「はいはい、どうしたの?これでも食べて落ち着きなさいな」



あたしが首を傾げてると、丸眼鏡をかけた黒髪の少女がクッキーを数枚渡してくれた。

・・・今あたしは忙しいんだから、そんなモノでごまかされたりしないんだからね?


クッキーおいしい。



「ふぉへへ、ほほひひはほはへ――」


「喋るときはまず口の中のものを飲み込んでから、ね?」


「むぐむぐむぐ・・・ごっくん」


「はい、お茶」


「ずぞぞ・・・ぷはぁ。いつもいつもすまんねぇ」



紅茶おいしい。


ぷは、と一息つくと、部屋の外からばたばたと靴音が近づいてくるのが耳に入った。

あたしが入ってきたのとは逆側のドアがばんと勢いよく開かれると、真っ赤なドレスの女の子が飛び込んでくる。



「あ、リズリズー、ねぇねぇ、チョコの作り方教えて?」


Cathy(キャシー)!今の大声は何ですの・・・って、チョコ??」



現れたのはエリザベスだった。


軽く息の上がった状態ままきょとんとした表情を浮かべるリズに、あたしはうんうんと頷く。

そのままあたしは、二人に詳しい事情を説明し始めるのでした。




 ・ ◆ ■ ◇ ・




「―――バレンタインデー?」


「なのです!」



あたしの説明に、二人はそろって小首を傾げる。

あれ?そういえばチョコ渡すのって日本だけの風習なんだっけ。



「ひょっとして、イギリスだと2月14日にチョコ渡したりしないの?」


「ええと・・・」


「人それぞれですけど、花束にバレンタインカードを添えて贈るのがスタンダートよね。勿論、愛する人と過ごす日なのはブリテンでも共通よ」


「なるほどなー」



ばれんたいん、と小さくつぶやいて頭の上にハテナマークを浮かべたリズを脇によせて、シルヴィがぱぱっとわかりやすく説明してくれた。

国によって当たり前だと思ってた風習も土地が変わると色々違うんだ。なんだか面白い!



「やっぱシルヴィは物知りだなー、リズとは違って」


「!?」


「うふふ、それほどでも無いわよ。―――それで、チョコを手作りしたいって事で良かったかしら?」



あたしがこくこくと頷くと、シルヴィは顎に手を当てて少し考え込む。

その隣でリズがなぜかショックを受けたような顔で硬直しているが、シルヴィが再び声を上げたのであたしは正面に向き直った。



「・・・残念だけれど、あまりお菓子作りは得意ではないの。紅茶の淹れ方なら少しは心得があるのだけれど」


「あれ?さっきくれたクッキーはシルヴィが作ったのじゃないんだ」


「クランメンバーに料理上手の子がいてね。普段から色々と差し入れを貰って助かってるのだけれど、今は他のお友達と任務に出ちゃってるから―――」



ごめんなさいね、と困り顔で謝るシルヴィ。

両手を振って気にしないでいいよ、と伝えると、あたしはさてどうしようかと腕を組み灰色の脳細胞をフル回転させた。


・・・が、何も思いつかなかったのですぐに止めた。



「ねぇねぇねぇ、リズは何か知らない?」


「わ、私!?そ、そうですわね・・・そもそも、手作りするのなら原材料を何処かで仕入れる必要がなくって?」


「原材料。」



それは盲点だった、と思わず固まる

言われてみればその通りだ、ここはイデア学園、デパートもコンビニも有るわけがないのでした。


すっかり困ってしまったあたしに、ちょっと得意顔のリズがそんな貴女に耳寄りなお話がありましてよ、と続ける。

何でも、学園の大ホールに現れる移動式店舗が色んな品を取り揃えているらしい。



「―――店主が少々胡散臭いですけれど、品ぞろえだけは中々のものでしてよ。取り寄せも応じてるようですし、一度訪ねていらしては?作り方についても何か話を聞けるかも知れなくってよ」


「なるほどー・・・わかった!ありがと、リズ!」



そんな訳で、あたしはその店舗―――明峰(メイホウ)商店を探しに大ホールへと向かうのでした。




 ・ ◆ □ ◆ ・




目当ての店はすぐに見つかった。

たくさんの人がごった返す大ホールの中で、そこだけ一際黒山の人だかりが出来上がってたからだ。



「はい、まいどあり、まいどあり!こちらは30G(ジェム)、こちらは60G(ジェム)だ。・・・おっとお兄さん、あたしゃ非売品だよ!はいはい、しめて240G(ジェム)ね、まいどあり!」



威勢のいい声が上がるたびに列が流れ、やがてあたしの前にくだんの移動式露店が姿を現す。

そこに居たのは、美しい光沢を放つチャイナドレスを身に纏った、とてもとても綺麗な女の人でした。



「ふわ・・・しゅっごい―――」


「―――おや?お嬢さん、何かお買い求めかい?うちは消耗品に武器防具、生活用品と何でも揃ってるよ!」



そんなあたしが気になったのか、からりとした笑顔を浮かべた店主がつかつかと近寄ってくる。

・・・歩くたびにちょっとづつ揺れてる。しゅごい。


かつん、と靴音が止まり、あたしはちょっと顔を上げて店主と視線を合わせる。

美しい亜麻色の髪が一筋、眼にかかっていたのを指でよけると、店主はにっこりと見惚れるような笑顔を見せた。



「ふわ。えっとその、チョコを―――」


「チョコレート?ああ、そういえば現世はもうそんな時期だったな。それでお嬢さん、バレンタインのプレゼントをご所望で?」


「(こくこく)」



いささか圧倒されたまま無言で頷くと、すぐに慌てて首を振って否定する。

あたしが欲しいのは完成品じゃなくて、手作り品の材料!


身振り手振りでそれを伝えると、店主はふむふむと頷いてみせる。



「違う?かき混ぜて―――あぁ、自分で作りたいのか。それならここに・・・よし。さてお客様、ここに取り出しまするは世界を超え、眠り(コス)の門より齎されし一品。砂糖・着色料無使用の製菓用チョコレートにございます。お求めの品はこちらに相違ございませんか?」


「買います!!!」



まいどあり、と微笑む店主の手のひらに【魂晶】(ジェム)を転がすと、あたしは受け取った袋を抱きしめた。


やっと手に入った!

嬉しい気持ちでいっぱいになるが、すぐに次の難題が待ち受けていることに気づいてあたしは頭を抱える。



「―――つかぬことを窺うけれど、お嬢さん。まだ何かお困りで?」


「その、あたし、チョコ作ったことなくて―――」


「なるほど」



ふむ、と腕を組み思案顔になる店主さん。

―――腕の上におっぱいが乗ってる。しゅごい。


あたしは自分の胸をぺたぺたと触ると、理想(たゆん)とは程遠い現実(ぺたん)にがっくりと項垂れた。



「それなら―――おや、ご気分でも優れないので?」


「や、その、これは違くて・・・そ、そんなことより!手作りチョコに詳しい人とか何か知らないかな?」


「―――お客様は運が良い。丁度、良いツテがありましてね・・・時にお客様。この情報、幾らでお買い上げになりますかね?」



無地の紙を一枚、掲げて見せると店主はにんまりと、いたずらっぽく微笑んで見せるのでした―――




 ・ ◆ □ ◇ ・




「たーーーのもーーーっ」



がんがんがん。


勢いよくノックしたあたしは、立派な木製の扉を見上げて待つことにした。

両開きの大きな扉の上には、何か文字が刻まれているプレートが掲げられている。


・・・読めないや。

アルファベットっぽいけど、何だろう?


やがて、ぱたぱたと足音が近づいてくると、がちゃりと扉の片側が開き中からひょっこりと誰かが顔を出した。



「お待たせしましたー・・・って、あーちゃん?」


「あや、先輩???」



―――出てきたのは、マル先輩だった。


あたしがメモ用紙を渡して事情を説明すると、先輩は怪訝な顔で受け取った用紙をのぞき込む。

・・・すぐに怪訝な顔は、眉根を寄せた困り顔へと変化した。



「これ、教師役がぼくになってるんだけど・・・」


「えっ。」



それはちょっと、困る。

あたしはメモをひったくると、そこに「揺籃寮の××号室」の住人に手作りチョコの作り方を教えてもらうよう綴られていることを確かめた。



「この部屋番号って―――」


「ぼくの部屋です」


「うぁ゛ー・・・ここまで来て振り出しだなんてぇー」


「あーちゃん・・・?」



がっくりとうなだれるあたしをのぞき込む―――にはだいぶ身長が足りないので、見上げるようにして先輩が寄ってくる。

少しの間、あたしを心配そうに見つめていた先輩は、意を決したようにひとつ頷くとにっこりと微笑むのだった。



「それ、ぼくが教えるのってそんなにダメなのかな?」


「ダメだよー、だって渡す相手に教えてもらうなんて本丸倒壊だもん」


「―――本末転倒ね?でも考えてみてよ、作ったところで相手の好みとか、色々調べなきゃいけないよね?」


「え?・・・えっと、それは確かにそう、かも・・・?」


「なら簡単じゃん、ぼくが隣に居れば好みの味も包装も、全部教えてあげられるよ?それってもう一石二鳥だよね」



でも、そんな、だって。

踏ん切りの付かないまままごついているあたしの手を取ると、先輩はにこにこしながら寮の中へ歩き始める。



「・・・ちなみに、ぼくが一番好きなのはチョコブラウニーだよ?」


「!!」



口元に指を当てると、ウインクをしながら先輩はそうささやくのでした。




 ・ ◆ ■ ◆ ・




「・・・・・・できたーっっっ!!」



無事、焼きあがったチョコブラウニーを掲げると、あたしは勝利の雄たけびを上げる。

その傍らではエプロン姿の先輩がぱちぱちと拍手を送っていた。


鼻元に近づけて息を吸い込むと、甘い香りに混ざってわずかに焦げ臭い匂いが鼻をつく。

・・・ま、まあ、このぐらいなら許容範囲だし!



「さて!中身も出来上がったことだし、お次はパッケージだね」


「ぱっけーじ。」


「せっかくの手作りなんだし、とびきり可愛くて目立つ包装で飾ってあげないとね」



あたしは先輩の言葉にうんうんと頷く。

でも困った、そんないい感じの包装紙なんて持ってない。


すっかり困ってしまったところへ、調理場のドアをノックする音が響く。

歩み寄ってドアを開けてみれば、そこに居たのは亜麻色の綺麗な長髪をなびかせたお姉さん―――会取明だった。



「お前らここに居たのか。品物が届いたから置いとくぞ」


「これって―――」



お姉さんから渡されたのは、チェック柄のとっても可愛らしい包装用セットだった。



「わぁ、可愛い・・・だけどこれ、一体誰が?」


「さあ?明峰商店から情報料のオマケだって聞いてるがな。じゃあ私はこれで―――」


「あ、待って待って!」



包装紙を手渡すと、きびすを返してさっさと戻ろうとする明さんを慌てて引き留める。

怪訝な顔(表情はいまいち読めないけれど)を浮かべる明さんに、先輩がもう一方の手を取って微笑んだ。



「せっかくだし、一緒に出来上がったチョコを食べてきなよ。思ったより材料も余ったみたいだし、ね」


「・・・そういうことなら、まあ」



しょうがないな、という感じにため息をつくと、お姉さんは調理台の側にある椅子へ腰かける。

あたしは包装紙を抱きしめると、完成品への期待に胸を膨らませた。


―――あと、もう少し。


二人がじっと見守るなか、四苦八苦しながらチョコブラウニーを包む。

最後にリボンを蝶々結びで仕上げると、あたしはゆっくり息を吐いて完成品を手に取った。


調理室に二人分の拍手が響く。



「・・・・・・できたーっっっ!!」



本日二度目の叫びに、二人はそろってやれやれ、といったふうに苦笑を浮かべた。



「しかし・・・お前も隅に置けないな。こんな可愛い彼女が居ただなんて」


「違うよ?」


「えっ」



いたずらっぽく微笑みながら明さんが告げた一言に、先輩がきっぱりと否定の言葉を被せる。

ちなみに、今の「えっ」はあたしじゃなくてお姉さんの声だ。



「別に彼女じゃないよね?」


「そだよー、これは日頃の感謝とかその他いっぱいというか・・・あと、『好き』の先輩としていつもの課題、みたいな?」


「・・・『好き』の先輩??」



「ねー」と互いに顔を見合わせて微笑むあたし達に、不可解なものを見る目で明さんが首を傾げる。

その辺は色々と、複雑な事情があるのです。



「―――つまり、これはいわゆる友チョコと同じようなものと考えればいいって事か?」


「そだねー、むしろ親チョコ的な・・・?」


「いつもお世話になっておりますー」


「いえいえこちらこそー」


「わからん・・・」



横に倒れそうになるくらい首を傾げた明さんが、色々と諦めたのか「まあ、いいか」と真っすぐに姿勢を戻す。

あたしは改めて先輩に向き直ると、満面の笑顔で綺麗に飾り付けられた包みを差し出すのでした。



「・・・ハッピーバレンタイン!!」



おしまい。

今週はここまで。

次回からはまた本編をお送りします。

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