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お釜大戦  作者: @FRON
第四章 怪奇!月夜の廃屋にリトルグレイの姿を見た!?
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∥004-11 ハイエース(動詞)

#前回のあらすじ:圧倒的ではないかわが軍は!!



[明視点]



最後の葉巻型UFOが地に堕ち、菫色の燐光となって消滅する。


油断なく矢をつがえその光景を見守っていた亡霊の軍勢から、怒涛のような勝どきが上がった。

拳を天に高く掲げ、勝利のダンスを踊る配下を目を細め、骸骨の玉座から見守る魔王(ングウォレカラ)


予想はしていたが、戦闘は終始死霊たちのペースで進み、最後までそれが崩れることは無かった。


群としての強みを最大限活かした集団戦術と、【声】による強制ダウンに呪詛によるデバフとダメージ。

これらを有機的に組み合わせ、常に有利な状況を作り出すのがングウォレカラの基本戦術なのだろう。


人目を気にしてロクに神としての位階(レベル)を上げていないアルトリアが喚んでこれなのだから、正しく恐るべき存在と言える。

―――いずれにせよ、勝敗は決した。


私は玉座の前へ進み出る。



「―――見事という他ございません、王よ」


『貴様か、小娘』



首を垂れ礼を取った私の耳朶に、しわがれた声が響く。

たっぷりと挑発した手前、あまり怒りが尾を引くとこの後の交渉に支障が出るのだが―――


表情に出ないよう細心の注意を払いながら、相手の声の調子や表情から虫の居所を探る。

再び上げた視線と、宙に浮かぶ乱髪の怪人の燐光を放つ双眸がぶつかった。


―――笑っている?



「・・・御身と殿下が率いる軍勢の精強なるは今、この両眼でしかと目撃いたしました。万夫不当の英雄、世に並び立つ者なき名君の呼び名は御身にこそふさわしい―――」



ほんの少しの間ではあるが、確かに目撃したその表情に奇妙な違和感を感じながらも、私は言葉を続ける。

愛用のディパックに手を差し入れると、掴んだものを注目が集まるよう高く掲げた。


拳大の【魂晶】(ジェム)が、掌上で怪しくきらめく。



「これなるは先に申しあげました通り、殿下の勝利と栄光を讃えんと持参した一品にございます。どうかお納め―――」


『要らぬ』



つかの間、広場に静寂が満ちた。

―――こいつは今、何と言った?


この【魂晶】(ジェム)は今回のような事態を予想し、あらかじめ用意していた虎の子の一品だ。

アルトリアが降ろす精霊にとっても垂涎の品であることは、先程の反応からして間違いないだろう。


高い出費ではあるが、ングウォレカラがどの程度使えるかを試す必要経費として割り切っている。

実際、うまい具合に喰い付いてくれていたと思っていたが――― 一体どういうつもりだ?


発言の意図を探るべく、再度死霊の王(ングウォレカラ)へと視線を向ける。

こういう時眼鏡は便利だ。目の動きをある程度誤魔化すことができるからな。


―――アルトリアの背後に浮かぶ怪人は、ぞっとするような笑み浮かべこちらを見つめていた。

思わずはっと息を飲む私に笑みを深め、奴は再び口を開く。



『それはしばし貴様に預けておこう。―――それよりも一つ、余興を思いついたのでな』


「何だと・・・?」


『アキラと言ったか―――貴様の名はしかと覚えておこう』



言うが早いか、ングウォレカラの気配が急速に薄まってゆく。

輪郭に青く鬼火をたなびかせた死霊たちもまた、次々と熾火のような光を残し消失していった。


あっという間に空地を埋め尽くしていた青白い光が消え失せる。

閑散とした広場の中央にはぽつんと一人、白目を剥いたアルトリアが残されていた。


玉座を形成していた骸骨も消え失せたのか、地べたにぺたんと座り込んだ彼女の頭上に染みのような影が浮かんでいる。

影―――最後に残されたングウォレカラの顔が嗤う。



『ではな。後は()()()()()()()()()


「待て―――!?」



どういう意味だ、と問い詰める間もなく消え失せる気配。

伸ばしかけた手の先に怪人の姿はすでに無く、代わりにようやくトランス状態から脱したアルトリアがびくりと肩を震わせる様が目に入ってくる。


ぱちりと目を開けると、大きくのびをしてからきょろきょろと周囲を見回し始める。

すぐに私の姿を認めると、不安げな表情で彼女は小首を傾げるのであった。



「・・・状況を、説明してもらっていいかしら?」


「たった今色々終わった所だよ。まだ敵は残ってるだろうが、しばらくはまあ、安全だろうな」



その一言に安心したのか、表情を緩めわずかな笑顔を浮かべるアルトリア。

しかしすぐに眉を八の字に顰め、頭頂部に手を当てたまま疑問を口にする。



「―――それはそうとして、なぜだか頭が猛烈に痛いのだけど」


「まったくもって心当たりが無いな」



ダークブロンドの頭髪を押し上げて膨らむたんこぶからそっと目を逸らす。

視界の端で猫面の男が呆れたように肩をすぼめていた。


・・・少なくとも、戦闘中雲隠れしてたお前にだけは非難される筋合いはない。

じろりと睨みつけると、ぴょんと飛んで視界の外へ逃げる寅吉に私は小さくため息をつく。


―――そこへ、絹を引き裂くような悲鳴が飛び込んできた。



「き―――きゃあああっ!!?」



弾かれたように声の方向へと振り返る。

―――誰も居ない。



「・・・上よ!!」




叫ぶ声につられて視線を上げる。


空を覆う暗雲が切れ、月の光が差し込む中。

燐光をたなびかせ上空に浮かぶ葉巻型UFOと、その下部に開いた穴より放たれる光の柱に包まれた二人の人影。


白髪赤目の少年(おとうと)―――(かなえ)と、何故かその足にしがみ着いた丸海人(マルカイト)だった。



「待て―――!?」


<< トゥリ トゥラ トゥリ トゥララ――― >>



手を伸ばし駆け出そうとするも、二人をすぽんと呑みこんだUFOはぶるりと巨体を振るわせると、瞬間移動めいた動きでその場からかき消える。

慌てて振り向いた先には、凄まじい速度で森の奥へとカッ飛んでゆくUFOの姿が。


その軌跡は瞬く間に森の稜線に飲み込まれ、空には一筋菫色の粒子が残響のように残されていた。

走りだしかけた足は止まり、私は人知れず強く拳を握りしめる。



『―――後は()()()()()()()()()



消える間際、死霊の王(ングウォレカラ)が残した言葉の意味を噛みしめる。

―――あの野郎、こうなる事を予見していやがった。


悔やんでいても始まらない、今は一刻も早く弟を―――二人を助けるべく行動を起こさねばならない。

やるべきことは山ほどある。


候補地の絞り込み、索敵、移動、交戦。


犠牲を出さぬ為何を選択し何を捨てるのか―――

私は決断しなければならなかった。


それも早急に。


今週はここまで。

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