∥004-10 コンゴ式集団戦術
#前回のあらすじ:「【魂晶】代はつけとくから」「えっ」
『第一陣、弓を構えよ―――放て』
青白く尾を引き、暗雲が立ち込める空を無数の矢が飛んでゆく。
死霊の軍勢より放たれたそれは、上空30m地点に浮かぶ葉巻型UFOの胴体部分へ寸分の狂いも無く突き立った。
―――と同時に激しく燃え上がり、菫色の燐光を青白い鬼火が浸食してゆく。
粗末な木製の矢のように見えるが、死霊の一部であるその矢は実体として高密度の呪詛そのものと言ってよい。
物理的なダメージよりむしろ霊体を侵し破壊することに特化しており、高次元生命体である【彼方よりのもの】にも有効なダメージを与える事が可能だった。
呪火に蝕まれた肉体に混乱し、甲高い警戒音をまき散らす葉巻型UFO達。
矢を受けたUFOが高度を落とす中、無傷で済んだ個体がいち早く襲撃者を特定し細長い胴体を明滅させる。
それは夜の海のように広がる森に一点、ぽつんと空いた草原の只中に佇んでいた。
魔王ングウォレカラ―――その憑代である少女アルトリア=ジャーミンと、それに付き従う死霊たちだ。
『第二陣―――』
<< トゥリリリリ!!! >>
アルトリア(に憑依したもの)が次の攻撃を命じるよりも早く、瞬間移動めいた動きで草原の真上に現れる葉巻型UFO。
楕円形のボディの下部に燐光が集まり、破壊的な閃光となって放たれ―――
『図が高いぞ下郎―――控えよ』
―――るかと思えたその時。
眼下より上がった声に、葉巻型UFOの巨体ががくんと傾く。
『我はングウォレカラ、頂の魔王なり。我が【声】を聴きし者は誰一人として立つこと能わず、歩くこと能わず、何人たりとも例外なく地に伏し跪くと知れ―――者ども、槍を掲げよ』
それは、伝承にある魔王の姿そのものであった。
彼のものが住まう山へ近づく者は、遠くより響く声を聞くと我を忘れ混乱し、立ち上がって歩くことすらままならなくなるという。
自ら率いる死霊の軍勢とは別に、ングウォレカラが有する権能の一つが葉巻型UFOを襲っていた。
みるみるうちに高度を落とし、地面すれすれまで落下する葉巻型UFO達。
その機を逃す筈もなく、無防備は横腹を晒す獲物に向け次なる号令が放たれた。
『放て―――彼奴等を地へ縫い留めるのだ!』
<< 我ガ主ノ望ムママニ―――!! >>
鬨の声と共に無数の投槍が放たれ、前後不覚に陥ったUFO達の体表へと突き立つ。
深々と突き刺さった槍は燃え上がりこそしなかったが、その端には一本のロープがくくり付けられていた。
たくましい掛け声が上がり、ロープがぴんと張られる。
その先では無数の亡者達が、頭上に浮かぶ円盤の巨体を地面へ引きずりおろそうと全身に力をみなぎらせていた。
<< オォォォォォオオ・・・・!!! >
<< トゥリ トゥリリ!?? リリリリ!! >>
混乱した様子で細長い胴体を明滅させる葉巻型UFO。
あっという間に生い茂る雑草に触れそうなくらいにまで高度を落とすと、そこへ第三の号令が響く。
弓を構える死霊たちの頭上を越えて現れたのは、奇怪な木面を付けた全長2mにも及ぶ大鷲の一団であった。
怪鳥の群れは葉巻型UFOの上部へ舞い降りると、次々と鋭い鉤爪を振り下ろす。
滑らかな体表に3条の爪痕が刻まれ、そこから青白い炎が立ち昇り瞬く間に周囲を浸食していった。
更に大鷲の第二陣が死霊の軍勢から飛び上がり、続々と葉巻型UFOの巨体へ群がってゆく。
地上へと目を向ける。
こちらでは、前列に陣取る戦士達がUFOから散発的に放たれる怪光線を楯を掲げ防いでいた。
更に後列からは長槍を携えた戦士の一団が勢いよく突き込み、じくじくと呪詛の炎でUFOのボディを焦がしてゆく。
その光景に玉座の上から目を細める王の横で、仮面を付け襤褸を身に纏った呪術師の一団がむにゃむにゃと何やら呪文を唱えていた。
やがて男達はびくりとその身を震わせると、けたたましく鳴き声を上げ大鷲へとその身を変ずる。
翼を広げ、呪術師達が飛び立つその先では、肉体の大半を呪いの炎で焼かれた葉巻型UFO達が次々と墜落し、菫色の光の粒子となって消滅していった。
広場に転位した4体に続き、最初に矢を受けた残りのUFOもまた、大鷲と地上の死霊軍の連携を受けて消滅してゆく。
―――その光景を、ぼくは半ば茫然となりながら眺めていた。
「なんてこった・・・圧倒的じゃないか」
一人ごちるぼくの前で、青白い炎に全身を包まれた最後のUFOが、溶けるように崩れ落ちると菫色の粒子となって消滅するのであった―――
今週はここまで。




