∥004-04 カランコロン
今週はここまで。
年末年始はいくらか大目に投下する予定ですのでよろしゅうにー。
#前回のあらすじ:明さん、普通に強かった。
「ニョホホ、またつまらぬものを斬ってしまったでござる」
『ケラケラケラケラ』
月明かりの下、明が相手にしていた宇宙人型シングの消滅を確認した後、ぼくは他の仲間達の様子へと視線を移す。
すると十数m程離れた場所に、胴体を斜めに二つ切りにされ菫色の粒子へと変わりゆく宇宙人型シングの姿が。
その傍に佇む寅吉へ片手を上げて走り寄ると、こちらに気付いたのかぺこりと会釈してくる。
ぼくは軽い会釈で応えると、彼の横にぽつねんと突っ立っているモノへと視線を注いだ。
「お疲れ様です、寅吉さんの方はもう終わったんですね」
「この手合いはよほど戦に不向きでない限り、苦戦するような相手では無いでござるからなあ」
「いわゆる雑兵ってやつなんですね。・・・ところで、その―――」
「にょほ?―――ああ、丸殿はこやつが気になるでござるか。・・・これ、じゃのめ。きちんと挨拶するでござるよ」
『ケケッ』
寅吉に促されると、ぴょんと跳びあがり前に出たそれは器用に一本しかない脚でお辞儀をしてみせた。
顔(?)を上げ大きな一つ目をくるりと回すと、だらしなく開いた大きな口からは真っ赤な舌がまろび出る。
―――それは絵巻物の世界から飛び出したかのような、いわゆる傘お化けの姿をしていた。
体長は60cmほどだろうか。
等間隔に並ぶ焦げ茶色の骨組の間は柿色の油紙に覆われ、その下には柄の代わりに二本歯の下駄を履いた生足がにょっきり伸びている。
日本の妖怪としてポピュラーなイメージのある存在だが、こうして実際に目の当りにすると意外にユーモラスな外見をしている。
かがんで袋状になった頭部(?)を撫でると、けらけらとくすぐったそうに声を上げ小さくその体を揺らした。
かわいい。
「ひょっとして、これが寅吉さんの―――?」
「左様、拙者の【ふぁみりあ】にござるよ。それがしの化身が唐傘小僧とは一体どういう了見なのかと、当時はしばし悩んだものでござるが―――今はこうしてそれなりに仲良くやっているでござる」
『ケラケラケラケラ』
「な、なるほど・・・あ、一応紹介しときますね。これがぼくの【神使】で―――メルクリウスっていいます。ほらメル、挨拶して」
『・・・・・・』
ぼくの呼びかけに応じ、中空に生じた小さな水玉がみるみるうちに膨らんで50cm大の青く輝く水塊へ姿を変える。
宙を浮かんだまま前へ出たメルはこぽりと気泡を生じさせると、ゆっくりとたゆたう水面をわずかに明滅させた。
淡く輝くメルを顎に手を当てしげしげと眺めると、寅吉は興味深げにほう、と呟いた。
「丸殿の【ふぁみりあ】も拙者に劣らず面妖な姿形にござるなあ。しかし―――これはこれで愛嬌があると言うか、なんと言うか」
「つまりぼく達、面妖仲間って事ですね?」
「そういう事にござるなあ」
にょほほほ、と猫面を揺らし奇妙な笑い声を上げる寅吉。
それにつられてしばし肩を震わせると、ぼくは残るメンバーを求めて再び周囲を見渡す。
「ええと・・・アルトリアさんは何処に―――?」
「あの娘子ならそら、あそこよ。丁度仕上げの頃合いにござるな」
「本当ですか?どれどれ―――」
かざした右手でひさしを作って見渡すと、寅吉が指した方向に一体の宇宙人型シングの姿が。
そしてその奥、小柄な宇宙人型の体に重なるように、毛むくじゃらのアルトリア嬢の姿があった。
―――その時、ぼくは目撃した。
両拳を前に突き出し、深く深く腰を落とした彼女の背後に、雄々しく黒光りする三本角を有する巨龍の姿を。
中生代白亜紀後期、北米大陸においてティラノサウルスと熾烈な生存競争を繰り広げたという怪物。
象を突き殺すもの―――コンゴの伝承においてエメラ・ントゥカの名で呼ばれる、恐るべき龍の末裔の幻像であった。
「キャオラアッッッッッッ!!!」
雄叫び。
爆発する地面と裂ける空気、砲弾のように突き進む両拳。
すべては一瞬の出来事であった。
10m近くにも達する巨体の突進を再現するその一撃に、耐えられる筈もなくはじけ飛び、菫色の粒子となり霧散する宇宙人型。
あっ、と声を出す間もなく、空をつんざく両拳はぼくの視界いっぱいに広がり―――
 




