∥001-07 お嬢様三重奏
#前回のあらすじ:金髪ドリル縦ロールは実在した!!!
[マル視点]
(き、金髪ドリル縦ロール・・・お嬢様!実在したのか!?)
白人、金髪碧眼。
おまけに、くるりとカールした縦ロールヘアーと来た。
出るところは出て、引っ込むところは引っ込んだメリハリの利いたナイスバディ。
それを包むのは、目にも鮮やかな真紅のイブニングドレスだ。
大胆に胸元が露になった、着る人を選ぶ挑発的なデザインであるが、凛とした美貌を持つこの少女が纏う事で唯一無二の一体感を醸し出している。
それはあたかも、夜会に舞う艶やかな蝶の如く。
かつん、と靴音を鳴らし歩み出すその仕草は、どこか洗練されておりにじみ出る気品を感じさせた。
美貌、色気、気高さと数え役満にも等しき、視覚の暴力。
ぼくが思わずあんぐりと口を開けていると、こちらの反応に満足したのか、ふふん、と髪をかき上げ少女は微笑む。
その両脇に音も無く、残る2名が進み出た。
先のインパクトが強すぎたが、こちらも負けず劣らずの美少女である。
そのうち片方、黒髪黒目の日本人形めいた少女がぺこりと腰を折った。
頭の動きにつられて、長く艶やかな黒髪がさらりと流れて艶を放った。
梔子色の着物にたすきを掛けたその姿は、エリザベスとは対照的ながら負けず劣らずの美貌である。
さながら動の令嬢に対し、静の大和撫子といった所だろうか。
「初めまして、清水抄子と申します。リズ―――エリザベスさんとは同じ、【クラン】の仲間同士でございます。以後、お見知りおきを・・・」
「・・・・・・マルヤム」
「あ、ども。マルです」
黒髪の少女に続き、浅葱色のローブのフードを目深に被った小柄な少女が、言葉少なに自己紹介を終える。
抄子と名乗った少女の淡雪のような肌とは対照的に、ローブの下から覗く小さな顔は浅黒く色づいていた。
淡い藍色の布地に隠れるようにして、大きめのアーモンド形の瞳がちらちらとこちらを伺っている。
中東系らしく、幼いながらも目鼻立ちのくっきりとした可愛らしいお嬢さんだ。
マルヤム、というのはアラビア語圏における『マリア』の呼び方で、いわゆる一般的な女性名の一つだ。
察するに、大和撫子の清水嬢と中東系女子のマルヤムちゃん、二人をリーダーシップで纏める欧米系のエリザベスお嬢様、といった感じだろうか。
どうやら彼女達は三者三様、異なる国を出自とするパーティーらしい。
何れにせよ、明治―大正コンビのむさ苦しさとは随分な違いだ。
先程との温度差に風邪をひきそうになったせいか、気の抜けたコーラのような返事しか返せなかった、反省。
気を取り直して、改めて挨拶をしようと顔を上げたところ、既に彼女はエリザベス嬢の背後へ隠れてしまっていた。
ドレスの裾をきゅっと摘まんだまま、身体の後ろから出てこない少女に赤いドレスの淑女は軽く肩をすくめて見せる。
ちょと残念。
しかし、こうして傍目から見るとお嬢様の真紅のドレス、小柄な少女の浅黄色のローブ、大和撫子の落ち着いた黄色の着物と、丁度信号機と同じ配色である。
ぼくはこっそり、彼女達に『とまれ』『ちゅうい』『すすめ』等と失礼なあだ名を付けていた。
話題転換とばかりに、エリザベス嬢へ水を向けてみる。
やはりというか、彼女達もまた、ヘレンちゃんの言っていた『仲間』の一員らしい。
だがしかし、続けて放たれた彼女の言葉はいささか剣呑なものだった。
「ところで。皆さんもやっぱり、西郷どんと同じ―――?」
「ええ、【神候補】としてこの場に参上した次第でしてよ。尤も、わたくしはあくまで我が【クラン】。・・・【Wild Tails】のみでこの案件を解決するつもりですわ」
「!?」
一旦言葉を切った後、切れ長の瞳を細め犬養達を睨む。
その挑発的な視線に、向けられた側の白詰襟の青年はむう、と眉根を寄せて唸り声を挙げた。
豊かなヒップの後ろに隠れたままのマルヤム、唐突な展開に困り眉で視線をさ迷わせる清水嬢。
彼女達に共通して戸惑いの色はあれど、積極的に友人を止めるそぶりは無さそうだ。
―――どうやらこの戦い、彼女達との競争になりそうだ。
それを肯定するように、犬養青年がぽつりと口を開いた。
「手助け不要―――と、いう事でしょうか」
「えぇ。犬の皆様はもちろん、新参者の手も借りるつもりは無い。―――そう、ご認識あそばせ」
※2023/08/28 文章改定