∥004-03 インストラクション・ワン!
#前回のあらすじ:しんぐは いきなりおそいかかってきた!!
「―――さて、新人歓迎会もいよいよ本番、楽しい楽しい実地研修のお時間だ。出発する時に渡した武器は持ってるな?」
「え?あ、はい。ここに・・・」
軋り上げるような音と共に突進してきた宇宙人型シングをひらりと躱すと、美しい亜麻色の長髪をかき上げ明がこちらを見つめる。
流れるようなその所作に思わず見とれていたぼくは、声を掛けられたことに気付いてあわてて腰のベルトに突っ込んでいたものを引き抜いた。
それは長さ50cm程の、シンプルな木製の剣であった。
観光地の土産物売り場に置いてありそうな一品だが、こうして柄を握りしめると案外しっかり造られている。
そのまま2・3度素振りをして感触を確かめるが、果たしてこれが何の役に立つのか正直不安で仕方がない。
子供位の背丈しかない宇宙人型はともかく、上空に控える葉巻型UFOは全長5mはゆうに超えるサイズだ。
こんな棒っきれ一本で太刀打ちできる存在にはとてもじゃないが見えなかった。
「【使役型】は【神使】次第で強力な戦闘力を誇るが、えてして接近戦に弱いと言われる。特に陥りやすいのが【神使】がフォローできない状況で攻撃を受けるパターンだな。自前の武器がある【装備型】はともかく、お前も戦いの場に出てきたのなら最低限の自衛手段くらいは必要だろう」
「それがこの木剣ってこと?でも言っちゃなんだけど、正直―――」
「気持ちはまあ、わかる。とは言えそいつの材料である桃の木は古来より邪気を払う性質があるとされていてな、怪異の類にはむしろ普通の刃物より高い効果が見込める。お浄めも済ませてあるしな」
「UFOやら宇宙人って妖怪扱いなのか・・・」
思わずまじまじと手に持った木剣を眺める。
エイリアンやら異次元生物にまで効果のあるお浄めってなんだろう。
何だか複雑な気持ちになりつつ顔を上げると、再び突進してきた宇宙人型の姿が目に入る。
危ない、と声を上げる前に、軽く腰を落とした明が空高く飛び上がり、危なげなく回避する光景に思わず目を丸くする。
目算だが2m強はジャンプしているように見える。
正しくアスリート顔負けの身体能力であった。
そのまま息ひとつ切らせずしなやかに着地した彼女はディパックに手を突っ込み、30cm大の棒状の物体を引き抜く。
びょうと風切音と共に右手を払うと、鋭い音を立てて棒状の物体は扇状に広がり、表面に施された細かな装飾が月の光に冷たい輝きを放った。
その大部分が金属板で構成された、いわゆる鉄扇と呼ばれる武器のようだ。
明は鉄扇を構えると、視線だけをこちらに向けて再び口を開く。
「最初のレクチャーだ。私達【神候補】が覚醒する前後で大きく異なる点、こと戦いに限定するなら―――それは何だ?」
「えーとえーと・・・ふ、【神使】が居る事―――!?」
「半分正解、先程からの話の流れからすれば不正解、だな。常人と覚醒者を隔てる要素は―――【神力】、だ」
ぼう、と鉄扇の表面に光の筋が走る。
青白い燐光が扇の中心に大極図を象り、三度突進してきた宇宙人型の体が鈍い音を立てて止まった。
見れば、攻撃が届く数センチ手前で見えない壁があるかのように、鉤爪が空中に静止している。
己を阻む不可視のフィールドに苛立たしげに軋り声を上げると、宇宙人型は一旦飛び退いて距離を取った。
「今のように【神力】は防御にも、攻撃にも利用できる。物体に込めればペーパーナイフで岩をバターのように切り裂くことも、皮膚に込めて鉄のように硬くすることも可能だ」
「マンガやアニメで見る『氣』みたいな・・・?」
「そうだな。後はさっき見せたように身体能力を上げる用途にも使える。更に、複数の強化を並行して使えば―――」
先程より強く、鉄扇に燐光が灯る。
彼女が腕を振りかぶった次の瞬間、稲妻のように鉄扇が放たれ、青白い閃光と化した扇は宇宙人型の首を切り裂いていた。
鉄扇はそのまま天高く飛び上がり大きく弧を描くと、再び使用者の手へと舞い戻る。
一方、首を落とされた宇宙人型は、次第に輪郭を失い菫色の粒子へ変わり、音も無く明の左手に光る【戴冠珠】へ吸い込まれていった。
「こんな事もできる訳だ」
「す、凄い・・・!ひょっとしてこの人、めちゃくちゃ強いのでは・・・?」
「武器がいいだけだ。私自身は何処にでもいる、ごく一般的な【神候補】に過ぎんよ」
思わず拍手を送るぼく。
それに対し止しとくれ、とばかりにぱたぱたと片手を振ると、彼女はずれかけた黒縁眼鏡を直すのであった―――
今週はここまで。




